東京・八王子でメダカ専門店「めだかやドットコム」を営む青木崇浩さんは、20代で難病とうつ病に苦しんだ。しかし、ひょんなきっかけで始めたメダカの飼育が、青木さんの人生を好転させた。いまや青木さんだけでなく、100人以上の障害者がメダカに救われているという。いったい何が起きたのか。フリーライターの川内イオさんが書く――。
「めだかやドットコム」を営む青木崇浩さん。
筆者撮影
「めだかやドットコム」を営む青木崇浩さん。

めだか業界のパイオニアが仕掛ける「新しい福祉」

そこはまるで、おしゃれなアパレルショップのようだった。広々としたフロアの壁に沿うように並ぶ、青白くライトアップされた大小の水槽。ふたりの女性が店員から説明を受けながら、興味深そうに見入っている。

フロアの中央にあるハンガーには、パーカーやTシャツ、パンツが吊るされている。スポーツウェアブランド、デサントとのコラボで袖にメダカのプリントが入っているこの商品は、限定品だ。

ここは、八王子駅の駅ビル「オーパ」の5階にある「めだかやドットコム」本店。女性客が眺めていたのは水槽のなかで水草や木、石などを使って表現する盆栽「めだか盆栽」だ。バクテリアで水質を浄化する特許によって、水替え不要で水草の盆栽を楽しめるだけでなく、水を注いでめだかを入れればそのまま飼育できる。

東京・八王子にある「めだかやドットコム」本店。
筆者撮影
東京・八王子にある「めだかやドットコム」本店。

この「めだか盆栽」を考案したのが、店舗を運営する「めだかやドットコム」創業者、青木崇浩さん。ここ1、2年、全国的なメダカブームと言われているが、青木さんは2004年にめだか情報専門のウェブサイト「めだかやドットコム」を立ち上げ、ブームが来る前の2010年にめだかの専門書を出版している、めだか業界のパイオニアだ。

青木さんは今、福祉業界で大きな注目を集めている。自身が経営するもう1社、あやめ会で行っているめだか飼育を通じた障害者の就労継続支援B型事業(詳しくは後述)によって、年間およそ3億円の収益をあげているのだ。そして「めだかやドットコム」本店は、心身の不調が改善し、就労できるようになった事業所の利用者が社員として働く受け皿になっている。

めだかと福祉という異色の掛け合わせは、なぜ生まれたのか? その背景には、青木さんの壮絶な闘病体験があった。

黄金ラメメダカ
写真提供=青木さん
青木さんが生み出した「黄金ラメめだか」。