※本稿は、安倍晋三【著】、橋本五郎【聞き手】、尾山宏【聞き手・構成】、北村滋【監修】『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)の第4章「官邸一強 集団的自衛権行使容認へ、国家安全保障局、内閣人事局発足 2014年」を再編集したものです。
※肩書は当時のものです。
最初の1年8カ月間、閣僚を交代しなかった
――内閣改造を(14年)9月3日に行いました。改造はおおむね1年おきに行われてきましたが、この時は1年8カ月ぶりでした。
内閣改造は政権の体力を消耗します。閣僚になって喜ぶのは十数人だけ。当選回数を重ねているにもかかわらず、選ばれなかった人は100人前後にのぼり、「なぜ俺が選ばれず、あいつが閣僚になったんだ」という不満が湧き起こるのですよね。閣外に去る人も肩を落とすでしょう。最初の1年8カ月間、交代しなかったのは正解だったと思います。閣僚の問題は全く起きず、政権に安定感が出ました。
――改造では、女性活躍を掲げて女性5人を起用しましたが、わずか1カ月半で、経済産業相の小渕優子、法相の松島みどり両氏がダブル辞任しました。
松島さんの場合は、自身のイラストが入ったウチワを地元で配って、これが公職選挙法違反の疑いがあると国会で追及された。しかし、これが寄付に当たるというのは無理があると思います。小渕さんの場合、政治団体の政治資金の調査に時間がかかるということだったので、やむを得ませんでした。
石破氏の幹事長続投は政権の不安定要因
――自民党役員人事では、石破幹事長の後任に谷垣禎一法相を充てました。菅義偉官房長官が強く幹事長交代を迫ったと言われています。石破氏が、幹事長ポストを利用して次期総裁選を有利に進めようとしていたからだ、という情報もあります。
自民党の幹事長は、党の資金配分を一手に担っています。党の躍進のためにお金を使うのであれば良いのですが、仮に自分の派閥を大きくするとか、自分の総裁選の準備のためにお金を使っていたとしたら、それは看過できない。菅さんは党内に目を光らせていて、「石破さんの幹事長続投は政権の不安定要因になる」と言っていました。でも、当時も石破さんの人気は高かった。しかも自分で続投希望を表明していた。その人を交代させるのであれば、それなりの理由が必要でしょう。だから、これから安全保障関連法など困難な課題に取り組む上では、より安定感を優先させたいということで、谷垣さんに代わってもらうことにしたのです。
私が2012年の総裁選で勝利して演説した時、谷垣さんの功労を称えたのですが、党内からものすごい拍手が起きたのです。前にも述べましたが(第3章)、私の演説の中で、最大の拍手は、谷垣さんに触れた部分でした。この人には支えてもらわないといけないと思いました。石破さんも、谷垣さんが後任だと知り、「全く文句はない」と言っていました。石破さんには、安全保障関連法の困難な答弁が控えているから、「防衛相でどうでしょうか」と聞いたら、地方創生相を希望したので、意向通りに就任してもらったわけです。