なぜ日本社会には停滞感があるのか。兵庫県明石市の泉房穂市長は「さまざまな国が、時代に合わせてしくみを変えているのに、日本だけ旧態依然としたまま。しかし、明石市、流山市、福岡市などに『この街に住みたい』という声が集まるように、変化の兆しはある。政治をあきらめてはいけない」という――。

※本稿は、泉房穂『社会の変え方』(ライツ社)の第6章<望ましい政治に変えるために私たちは何をすればいいのか?>の一部を再編集したものです。

手をつないで歩く家族
写真=iStock.com/monzenmachi
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減り続けていた人口が10年連続で増えた

家族で住むところ、我が子のふるさとになるまちを、自治体で行われる「施策」を重視して選ぶ。そんな時代にもなりました。とりわけ魅力ある子ども施策を行う自治体を選び、新たな我が家を構え、引っ越す層が増えています。

私が市長に就任してから、明石市のやさしいまちづくりに多くの方々に共感いただいた結果、実際に明石市民になる人は大幅に増えました。減り続けていた人口が10年連続で増え、過去最多を超えていくほどの大きな注目を集め続けています。

まちの施策を意識して引っ越してきた市民は、選挙に行くことが多いように感じています。

政策や方針が変わるようなことがあれば、本当に困る。そのまちの子ども施策は、自分たちの暮らしの前提、日常生活に欠かせないセーフティネットになっているからです。自分ごとですから、まちの動向に敏感です。市の政策が生活に直結するから、きっちりとチェックが入るのです。

投票所にはベビーカーの行列ができる

2019年の私の出直し市長選、得票数は8万795票。得票率は7割。中でも30代の得票率は9割です。投票所の前にはベビーカーの行列ができました。まちの誰もが驚いたことでしょう。象徴的な光景でもありました。

もはや「シルバー民主主義」一辺倒の時代は終わりました。明石では「子育て民主主義」とも言える動きが根付きつつあります。転換が必要なのは、明石だけではないはずです。

今はSNSなどでどんどん情報が入ってきます。口コミも拡散しやすく、全国各地のリアルな状況も容易にすぐ調べられる時代になりました。

明石市には兵庫県内はもとより、他の地域からも人が集まってきました。以前は神戸や芦屋、西宮など、高級住宅街を有したブランドイメージの高いまちが安定した人気を誇っていましたが、それでも近年、「住む場所によって自分たちの暮らしが変わる」というリアリティもかなり重視されるように変わってきました。

市民の選択が多様化し、私が生まれ育った「魚のまち明石」も、多くの人々に選ばれる時代に変わったのです。