「中の人」の名誉を毀損した場合は匿名でも名誉毀損は成立する

SNSのユーザーの大半は、アカウント名にはハンドルネームを用いて、実名などの情報は公開していません。そういった「匿名の」アカウントに対して、そもそも名誉毀損が成立するのかという議論があります。匿名アカウントに向けた表現では、その「中の人」の社会的評価は低下しないのではないか? という問題です。

作家のペンネームや芸名のようにアカウント名を用いていろんな活動を行っている場合には、そのアカウントの名誉を毀損することは、「中の人」の名誉を毀損するものと言えるでしょう。また、そのような活動を行っていない場合でも、アカウントと「中の人」を紐づけるような情報(たとえば、「中の人」の個人情報)を入れて名誉を毀損した場合には、「中の人」の名誉を毀損するものと評価できます。

他方、アカウント名での活動を行っておらず、そのアカウントと「中の人」を紐づけるような情報も一切ない、いわば完全な匿名の場合、「中の人」の社会的評価を低下させるものとは言えない以上、名誉毀損は成立しないと考えるのが一般的です。

なお、侮辱(名誉感情侵害)については、自分に向けられた表現であると「中の人」が認識することができれば成立しうるとの見解を示している裁判例もあり、完全な匿名の場合でも、成立する可能性があると言えます。

「SNS中傷」と書かれたニュースの見出し
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VTuberへの誹謗中傷は名誉毀損・侮辱が成立するか

【Q4】チームでVtuberとして活動しています。複数人で役割分担をして、一人のキャラクターを運用しています。先日からこのキャラクターへの誹謗中傷が激しくて困っています。「△△らしい」「イカれてる」など、あることないことコメントやリプが飛んできます。

【A4】Vtuberに対する名誉毀損・侮辱については、「中の人」に対する名誉毀損・侮辱として捉えるという考え方が定着してきています。確かに、Vtuberそれじたいはバーチャルな存在であり、アニメやゲームのキャラクターに近い側面もあります(キャラクターに対する名誉毀損・侮辱は成立しませんね)。しかし、その背後には「中の人」がいて活動を行っているわけですから、ペンネームや芸名で活動している人に対する名誉毀損・侮辱が成立するのと同じように、Vtuberの「中の人」に対する名誉毀損・侮辱が成立すると考えるのは、至極当然の判断だと言えます。

ただし、名誉毀損・侮辱は、特定人に対して成立します。そのため、複数人で共同して一人のVtuberとして活動している場合は、表現が「中の人」のうちの誰に対するものなのか(一人ではなく複数の「中の人」に向けたものと理解できる場合も考えられます)を判別できる必要があります。