ブランド果物の苗木や種子が、中国や韓国へ流出するケースが相次いでいる。このうち「シャインマスカット」の海外輸出量は、韓国は日本の5倍になっている。経済ジャーナリストの黒坂岳央さんは「ほぼ野放し状態のため、盗まれ放題の状態になっている。政府は本気で厳罰化などの策を講じるべきだ」という――。
シャインマスカットの苗木
写真=時事通信フォト
シャインマスカットの苗木が無許可で保管されていた事件で、書類送検された男性から押収した苗木=2021年6月28日、東京都千代田区の警視庁麹町署

なぜフルーツの海外流出が続いているのか

日本国内における国産フルーツの海外流出が止まらない。農林水産省資料によると、90年代には韓国へいちご品種が渡るのが確認されており、そこから二十年数年が経過した現在も問題は解決していない。それどころか、韓国だけでなく中国へも流出が確認されるようになり、「国産フルーツ盗まれ放題」の惨状が続いている。

さらに悪いことに盗まれた先で販売されているだけにとどまらず、海外輸出でグローバル販売まで展開している状況だ。もはや日本産のフルーツが、韓国産・中国産としてのプレゼンスが高まっている現状がある。このままでは、日本産のフルーツが後発であるかのような誤った印象をグローバルに与えかねない。

苗木があれば簡単に複製できる

なぜ、フルーツばかりが盗まれてしまうのか?

その理由を端的にいえば、盗む側にうまみが大きいからだ。

それを理解する上でまず、日本国内ではガラパゴス的なフルーツ経済圏があることを知る必要がある。

海外の多くの国ではフルーツは日常消費がメインであるのに対して、日本では自己消費以外に高級ギフトとしての用途もある。

1玉500円のメロンと1玉2万円のメロンがある国は世界でも珍しい。そしてこうした高級フルーツは開発にとても時間がかかる。近年人気が高いシャインマスカットは、農研機構が長年かけて開発した努力の結晶だ。農研機構によると、品種改良を重ねて正式に品種登録をしたのは2006年。また、シャインマスカットの親となる安芸津21号は1973年に交配された。そこから数えると33年かかっている。

このような血と汗の結晶である新品種でも苗木を海外に持ち出せば、開発する苦労や時間を使わずに簡単に栽培できる。半導体製造においては、製造技術や開発装置も必要だがフルーツにはそれが必要ない。苗木さえ手に入れば開発コストや時間、手間を省いて成果物だけを手にすることができる。窃盗が極めて容易である点、盗んだ後も販売のうまみが持続する点がエレクトロニクス製品などと大きく異なる。

さらにフルーツの流出は追跡や差し止めが難しいという事情があった。これまで農研機構などが栽培環境を同一化した状態で栽培し、育成状況を比較した上で鑑定していた。そのため、シャインマスカットでは鑑定に2年もかかっていた。その間、認知度が高まり販売元がバラけてしまうともはや差し止めることは事実上不可能に近くなってしまう。

工業製品と違ってシリアルナンバーもなく、苗木があれば後は増やして販売すれば良い。これだけうまみが大きくリスクが小さいものはないため、フルーツが狙い撃ちされている格好だ。