「大きい」「強い」「怖い」というイメージがある恐竜や古生物。しかし研究者たちによる化石分析で、そんな彼らもさまざまな病気やケガに悩んでいたことがわかってきた。サイエンスライターの土屋健さんの著書『ほんとうは“よわい恐竜”じてん それでも、けんめいに生きた古生物』(KADOKAWA)から一部を紹介する――。
グアンロン
イラストレーション=ACTOW(徳川 広和・山本 彩乃)
ティラノサウルスの1億年弱先輩にあたるグアンロン(土屋健『ほんとうは“よわい恐竜”じてん それでも、けんめいに生きた古生物』より)

巨大植物食恐竜の「足跡」で溺れ死んだグアンロン

グアンロンはあの大きくて恐ろしいことで有名なティラノサウルスの仲間で、1億年弱の先輩になります。でもティラノサウルスのような大きな恐竜ではありません。もっとも大きい個体でも、全長3.5メートルほどしかありませんでした。

小さいからと言って、「弱い」わけではありません。口には鋭い歯が並んでいました。むしろ、軽量な分、素早い。そんな狩りができたはず。

でも小さいことで不幸だったことがありました。

グアンロンが生きていた地域には、全長20メートルを超える巨大な植物食恐竜がいました。体重数十トンのその巨大恐竜は、足跡も大きく、深いものでした。あるグアンロンにとって運が悪かったのは、その足跡に、まわりから流れこんだ水と火山灰や砂や泥が詰まっていたことです。

ある日、不運なグアンロンが、火山灰や砂や泥が詰まった足跡に気づかずに足を踏み入れてしまいました。あるいは、飛びこそうとして失敗したか。それとも迂回うかいしようとして足をすべらせたか。

いずれにしろ、深さ1~2メートルの足跡に詰まった砂と泥は、まるで底無し沼のように、グアンロンをとらえてしまいます。もがくほど、グアンロンは沈んでいく。そして、やがて息絶えてしまう。そんな化石が発見されているのです。