大阪・道頓堀には通りに覆いかぶさるような巨大立体看板が多くある。この立体看板の7割は大阪府八尾市の「ポップ工芸」という企業が制作している。なぜ立体看板が生まれたのか。その狙いはどこにあるのか。ライターのスズキナオさんが取材した――。(第2回)
※本稿は、スズキナオ『「それから」の大阪』(集英社新書)の一部を再編集したものです。
「グリコ」「かに道楽」が目を引く大阪・道頓堀
大阪に観光に来たとしたら、多くの人がミナミの道頓堀を歩くだろう。「かに道楽」の本店があって、グリコ看板が見えるフォトスポットも近く、くいだおれ人形があって、両側にたこ焼き屋が並び、コロナ禍以前は真っ直ぐに歩くのが困難なほど賑わっていた通りだ。
私自身はそれほど頻繁に歩くわけではないが、たまに通りかかると、外部から見た大阪のイメージが結晶となって具現化されたかのような雰囲気に圧倒される。
道頓堀を歩いていれば必ず目に入ってくるのが“立体看板”だ。かに料理の有名チェーン「かに道楽」の本店に取り付けられた動く巨大看板は道頓堀のシンボルのようになっているし、それ以外にも両側から通りに覆いかぶさるように派手な看板がいくつも突き出している。
道頓堀の立体看板の7割は「ポップ工芸」
道頓堀らしい景観を生み出すのに大きな役割を果たしていると思われるこれら立体看板の多くを手掛けているのが、大阪府八尾市に工場を構える「ポップ工芸」だ。
ポップ工芸は1986年創業の看板制作会社で、大阪だけでなく日本全国、そして海外向けにも立体看板を作っている。道頓堀を代表する立体看板である「金龍ラーメン」の龍のオブジェも、そのポップ工芸が制作したものだ。
聞くところによると、道頓堀に存在する立体看板の7割ほどはポップ工芸が作ったものなのだという。つまり、いかにも道頓堀らしいと感じる風景のうち、ある程度の部分はこの一つの企業の手によって生み出されているというわけだ。
道頓堀から観光客の姿が消え、以前の様子が信じられないほどになったコロナ禍のなか、ポップ工芸という企業がどんな取り組みをし、どんな展望を持っているのかを伺いたく、取材を申し込むことにした。