宝塚、それは100年以上の歴史を誇る、女性だけの歌劇団。容姿端麗なトップスターが理想の男を、演じ、歌い、踊る、まさに究極のステージ。入団したならば皆、トップスターを目指してしのぎを削る……かと思いきや、そこには「クセのあるおじさん」を極めた、一風変わった女性がいた――。著書『こう見えて元タカラジェンヌです』を上梓した天真みちるさんに、「トップを目指すのではなく、オリジナルを目指す」その戦略を聞く――。
天真 みちるさん
編集部撮影
天真 みちるさん

“ストイックの達人”に囲まれて

——宝塚歌劇団は特別な人々の集まりという印象が強いですが、トップスターを目指さず、自分の道を模索するタカラジェンヌという視点で書かれた書籍は類を見ません。あふれる宝塚愛を貫きつつも、どこか客観的な視点で宝塚の内情を描いている――。今までの宝塚の本とは違う、フラットな視点が興味深いと感じました。

【天真みちるさん(以下、天真)】おそらく多くのファンの方が読みたいのは、トップスターさんが書かれた本だと思うんです。でも私は決してそういう立場ではない。ならば自分はどんなことが書けるのかをじっくり考えました。元宝塚の方が在団中の話をするとき、「こんなに大変で」「こんなに厳しくて」など、特殊な世界を告白するような空気になることがありますよね。そのことにはちょっと違和感がありました。だから私は、ファンの方が知らないことはお伝えしつつ、人として皆さんと同じように悩み葛藤し、そして大いに笑って日々過ごしているという、素の姿をお見せできればと思ったんです。

——ファンはもちろんのこと、そうでない人でも感動し、かつ爆笑しながら読み進められる本でした。

【天真】「ファンだったら知ってますよね」と、知らない人を置いてけぼりにすることは避けたくて、「全然知らなかったけど、面白い」と宝塚の裾野を広げる本にもしたかったんです。たとえば奥様が大ファンで、その旦那さんがふと手に取ったとしても「楽しかったよ!」となるような本を目指しました。

——こう見えて元タカラジェンヌです』というタイトルと、ねじり鉢巻きをしたおじさん(の姿をした天真みちるさん)が真っ赤な薔薇を持っている。装丁からして引き込まれます。

【天真】在団時のキャッチフレーズは「見たくなくてもあなたの瞳にダイビング☆」です(笑)。実際に入団してわかったのは、周囲の人間は皆トップを目指し、休みなくレッスンを重ねる“ストイックの達人”ということ。一方、私はというと「休みたい」でも「役は欲しい」などと考えるタイプ。これからどうやって存在証明していけばいいのかを考えていたとき、王道ではないけれど、まだ誰も開拓していない、そんなポジションが視界に見えてきたんです。それが「おじさん役」でした。