産業、通信、防衛のすべてで「半導体」が重要に
4月16日にワシントンで開かれた日米首脳会談。主な合意事項のひとつに「日米間での半導体のサプライチェーンの維持・強化」があった。その念頭にあるのは中国の台頭だ。
米中の対立が先鋭化する中で「産業のコメ」である半導体の開発や調達を巡る問題は産業面にとどまらない。通信や防衛といった国防分野でも、その性能を左右するのは半導体だ。その半導体を中国からの調達に依存したり、日本や米国で開発した半導体技術が安易に中国に流出したりするようなことがあれば、産業分野だけではなく軍事面でも劣勢となる。
こんな危機感から、日米両首脳は新型コロナウイルスの変異ウイルスが猛威を振るうなかでも、直に接することで親密さをアピールし、中国を牽制した。
台湾を巡る案件も半導体とは切っても切れない問題をはらむ。「台湾の半導体受託生産会社が1年間生産をストップすると、世界の電子産業は4900億ドル(50兆円)の減収に見舞われる」(米半導体工業会)と言われる。仮に中国が軍事力で台湾を包囲した場合、日米の半導体産業さらには、その半導体を使うIT、通信、さらには自動車業界も生産停止を余儀なくされてしまうからだ。
台湾に集中することの地政学リスクと災害リスク
バイデン米政権は半導体のサプライチェーン強化へ産業界との連携を強化。4月12日には半導体メーカーなど19社の経営者らと安定調達の方策を議論した。背景には、膨らみ続ける台湾への依存リスクがある。会議にはインテルなど米国勢のほか、台湾積体電路製造(TSMC)、韓国サムスン電子の幹部が参加。半導体不足で減産を強いられる米自動車大手も加わった。
台湾の調査会社によると受託製造でTSMCなど台湾勢のシェアは64%にも達する。アップルなど多くの米IT(情報技術)大手が顧客だ。日本勢も例外ではなく、ルネサスエレクトロニクスは製造の約3割を台湾勢など受託製造企業に頼る。半導体産業は国際分業をてこに成長してきた。その過程でアジアの特定地域への生産集中が進んでしまった。
ボストン・コンサルティング・グループによると2020年の世界の生産能力の43%を台湾と韓国が占めた。米国のシェアは12%と中国(15%)を下回る。生産集中で効率性は高まったが、地政学リスクや災害リスクは見過ごされた。
現に半導体の供給不足は日本にも及んでいる。自動車産業では世界的な半導体不足からトヨタ自動車や日産自動車、ホンダなど、軒並み生産停止の状況に追い込まれている。