大規模なパレードは2018年9月以来、2年ぶりのこと
北朝鮮の動向が気になる。軍事パレードの演説で、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が声を震わせて涙ぐんでみせたからである。金正恩氏は自尊心が高く、したたかだ。なにか裏があるのではないだろうか。
10月10日、朝鮮労働党創建75周年記念日の軍事パレードが北朝鮮の首都平壌の金日成(キム・イルソン)広場で行われた。大規模なパレードは2018年9月の建国70周年行事以来、2年ぶりのことである。軍事パレードは午前0時から午前3時にかけての未明に開催され、これも異例だった。
未明開催は、「党の創設75周年の行事を特色豊かに執り行う」と決めた、8月13日の朝鮮労働党中央委員会政治局会議の方針を受けたものとみられ、暗いうちならばパレードでお披露目される最新兵器をライトを使って効果的に見せられるとの狙いもあったのだろう。中国からの指導によって、2008年に開催された北京五輪(第29回夏季オリンピック)の夜の閉会式をまねたのかもしれない。
経済的な苦境を打開するため、慈悲深さを演出か
金正恩委員長は淡いグレーのスーツを身に着けて演説した。その演説の中で、公開の場で初めて涙を見せた。
「災害復旧の任務を終えても首都平壌には戻らず、進んで他の被害復旧地域に向かった愛国の国民に感謝の言葉を贈りたい」
金正恩氏は声を震わせてこう述べ、さらに集まった群衆に向かって「感謝」「ありがたい」と20回近くも繰り返した。「すまない」という言葉も使った。
涙ぐむ映像をテレビで見て沙鴎一歩は驚いた。「あの金正恩も涙するのか」と。金正恩氏は北朝鮮の最高尊厳で、決して頭を下げない指導者とされてきた。しかも己の保身のためにこれまで何人の命を奪ってきた。血も涙もない男。国民の生活よりも、一族の存続と繁栄しか考えない人物というイメージがあった。それだけにびっくりさせられたのである。
北朝鮮の事情に詳しい専門家らの間では、欧米による経済制裁や新型コロナ禍、台風の三重苦に焦り、党創建75年の節目に経済的に立ち直れない状況を少しでも打開する必要に迫られ、慈悲深さを演出したとの見方が出ている。沙鴎一歩もそう思う。金正恩氏の演技が巧みになっただけだ。涙声は演出にすぎない。