停滞の時代にある国内市場。ものづくりの現場力を磨くだけでは、なかなか事業は広がらない。その中にあってウイスキー市場が、成長トレンドへの再転換を果たしている。この転換の妙を振り返ることで、今の日本のビジネスで、何があり得るかが見えてくる。
日本企業が学び直すべき「ポジショニング」
20世紀は、日本を大きく変えた。この激動の世紀を経て日本は、世界との交流の中で豊かさを享受する国へと変貌をとげた。その中で、産業における価値づくりの要諦もまた、確実に変化している。
かつての日本では、多くの企業が、標準的な製品やサービスを安価に供給することによって成長を果たした。しかし、今でもこうした原理が有効であるかについては、よく考える必要がある。多くの識者が指摘してきたように、今の日本は、国際的に見れば賃金水準が極めて高く、多種多様な製品やサービスが豊富に利用できる国である。かつてのように安価に供給することだけを追求していては、事業の収益性は低下する一方だ。コストを下げることだけではなく、価値を高めることにも目を向けるべきである。
では、どうするか。
ハイスペック路線は、そこでの代表的な主張のひとつである。「日本のものづくり」神話とも相性がよいこの主張は、製品やサービスの品質や機能を高め、他社の追従を許さない域へと到達することを志向する。しかし実際には、ハイスペック路線で本当に高付加価値化を追求し、成長できる企業は限られる。ポジショニングというもうひとつの攻め方に目を向ける必要があるのは、そのためである。
ポジショニングは、マーケティングの古典概念である。かつて日本企業がものづくりで世界を圧倒していた70~80年代に、アメリカ企業は成熟化の進む自国市場に直面していた。ポジショニングという概念は、この時期のアメリカ企業が注目したことで知られる。今、アジア諸国に猛追されている多くの日本企業は、当時のアメリカ企業と同様の立場にある。ポジショニングは、今の日本企業にとって学び直す必要性の高い概念といえそうだ。