昨年暮れ、愛知県東浦町のマンションで、主婦が階下の住人に刺されて重傷を負う事件が起きた。犯人の供述によると、階上の足音や物音に耐えかねて凶行に及んだという。

この事件のように昨今、生活音が引き金となって起きるトラブルは珍しくない。住まいにまつわる問題に詳しい岡田一毅弁護士は、最近の傾向をこう語る。

「以前は、カラオケなど明らかな騒音が原因でトラブルになるケースが多かったのですが、集合住宅のフローリング化が進んだ影響か、最近は足音や椅子を引きずる音、水を流す音などの生活音で相談に来る方が増えてきました」

我慢できないほどの騒音に悩まされたら、どう対処すればいいのか。住人同士の直接的な話し合いで解決できればいいが、それが難しい場合、分譲の集合住宅なら管理組合に相談するのが一般的だ。

それでも埒があかないときは、民事調停や慰謝料請求、差止請求訴訟で解決の道を探ることになる。複数の住人が被害を被っているなら、騒音は区分所有法に定められた「建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」(6条)にあたるとして、管理組合が訴訟を起こすことも可能だ。

居住者間のマナーをめぐるトラブルの具体的内容

居住者間のマナーをめぐるトラブルの具体的内容

調停や訴訟で争点になるのは、騒音が受忍限度を超えているかどうか。受忍限度は、環境条例などに定められた基準が1つの目安になる。具体的な数値は条例ごとに違い、同じ自治体でも地域によって異なる場合もある。調停や訴訟を考える際は、自分の住んでいる地域の基準を確認しておいたほうがいいだろう。また入居の先後関係も、裁判で考慮される要素の1つとなることがある。

調停や訴訟に進むなら、騒音の記録を残しておきたい。騒音が発生した時間帯や回数、実際に録音された音は、裁判で重要な証拠になる。調停の場合は話し合いなので、立証の必要性は訴訟に比べて小さいが、騒音記録は調停委員に理解してもらうための材料として役に立つ。また不眠など心身の変調があれば、傷害罪など刑事事件として告発することも視野に入れて、忘れずに診断書を取っておこう。