オンラインミーティングの入室と退室のタイミングはいつが適切なのか。マナー講師の諏内えみさんは「ビジネスシーンでの他社訪問の際は、アポイント時間の2~3分から数分前に訪ねるというのが基本マナーだが、オンライン上では『5分前集合』的な暗黙のルールはなくなってきている印象。相手に負担を感じさせないタイミングで入室と退室をすると“スマートでデキるビジネスパーソン”という印象を与えられる」という――。

※本稿は、諏内えみ『我慢しない、侮らせないビジネスパーソンの処世術 戦略としてのずるいマナー』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

話しかけてくれた相手の名前が思い出せない

「○○さん! お元気ですか? 先日はお世話になりました」と話しかけていただいたのに、こちらは相手の名前が思い出せない……。

私がテレビやラジオ番組などでも頻繁に質問されるお困りごとのひとつです。スクールの生徒さんから聞かれることも多いので、きっと日常的に遭遇する事態なのでしょう。

こんなとき、なんとかごまかしてその場を切り抜けたくなってしまいますが、あまりよい手とは言えません。

もし「○○の件で、ご連絡ください」と言われたら? 名前がわからないままでは、連絡のしようがなく後々困ってしまいます。

疑問符の書かれた黒板を持つ女性
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ごまかすのはNG

このような事態には、私は「ごまかすのはNG。とにかく思い出せる情報があればそれを伝えましょう」とお話ししています。

たとえば、どのセミナーやパーティーでお目にかかった方なのか? どんな会話をしたのか? その場に居合わせた共通の知人や、社名は? どんなことでもかまいません。

誰でも、自分のことをすっかり忘れられていては落胆しますよね。でも、たったひとつでも思い出せる情報があれば、相手に「あなたのことをきちんと認識していますよ」と伝えることができます。

つまり、ガッカリさせたり、恥をかかせてしまうことが避けられるのです。

「たしかセミナーでお目に掛かりましたよね。お世話になりました」

この程度で十分です。そのあとで、「もう一度お名前を伺ってよろしいですか?」と続ければOK。「人のお名前を覚えるのが苦手で……」などと付け加えてもよいでしょう。

これにより、自分だけ覚えられていないというバツの悪さを感じさせずにすみます。

また、「お元気ですか? 先日はお世話になりました」と話しかけられた際に、「こんにちは。諏内でございます」と先回りして名乗れば、相手もつられて名乗ってくれる可能性大です。

じつのところ、相手もこちらの名前を覚えているとは限りません。相手も同じように忘れていたとしたら、きっとありがたい情報となるでしょう。

相手が誰なのか見当もつかない…

では、何ひとつ覚えのない人から挨拶されたときはどうしたらよいでしょうか?

「誰? 誰?」と頭をフル回転させて必死に思い出そうとしても、見当もつかない状況の場合です。

相手は自分のことをしっかり覚えてくれている様子なのに、こちらはまったく思い出せない。会話を糸口に何かひとつでも思い出すことができれば……! と願ってはみるものの、はたして誰なのかさっぱりわからない。

なんだか申し訳なく、つい話を合わせてその場をやり過ごしたくなりますね。

ただしこれでは、いずれつじつまが合わなくなるのも必至。

あなたがごまかしているということは、案外相手にも伝わってしまうものです。これではリスクが大きすぎます。

このような絶体絶命の事態には、次のようにお伝えしてみてください。

「お顔はハッキリ覚えているのですが、どちらでお目にかかりましたでしょうか?」

「お顔はハッキリ覚えています」。このセリフは相手には真偽の判断がつかないので、非常にありがたい武器になります。

そのうえで「お名前をもう一度お伺いしてよろしいですか?」と続ければ、感じ悪くならずに会話が進められます。

耳に手を当てて聞こうとする男性
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オンラインミーティングの入室タイミング

Zoomなどのオンライン会議が日常になりました。

ただ、まだまだ正確なオンラインマナーが定まっておらず、企業によって、あるいは業界によって、「これが正解なのだろうか?」と案じながらもなんどなく慣例化してきているようです。

通常、ビジネスシーンでの他社訪問の際は、アポイント時間の2~3分から数分前に訪ねるというのが基本マナーです。

新人研修などで、「ジャストの時間では遅刻とみなされますよ」と教わった方も少なくないでしょう。

オンライン会議への入室の際も、初期の頃はその作法を遵守する人が多かった気がいたします。

「5分前集合」はなくなってきている

しかし、年月を重ねていくに連れて、ホストが時間ピッタリに入室許可を出すことも多く、オンライン上では「5分前集合」的な暗黙のルールはなくなってきている印象です。

もし予定時刻より早く入り過ぎてしまうと、ほかのメンバーが集まるまで話題を作らなければならず、お互いに負担に感じることもありますよね。

そこで私が提案したいのは、「開始時間の1分前に入室する」。

業界や相手企業、自社の凡例に従いながらも「やや早めに」といった考えでしたら、あなたの評価が上がることはあっても下がることはありません。

時計の浮かび上がるタブレットを持つビジネスマン
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退室のタイミング

では、退室のタイミングは?

打ち合わせが終わり挨拶もすんだのに、誰もが遠慮しあってなかなか接続を切れない時間はじつに無駄。

明確なルールもないため、とくに自身の立場が下になる場合は、クライアントや上司が退室したあとでないと無礼なのでは? と考える方もいるようです。

でも、やたらと「ありがとうございました」「失礼いたします」を連呼したり、お辞儀を繰り返したり、とお互いにスッキリしないのが本音ではないでしょうか。

というわけで、「諏内式」のルールを決めてしまいましょう!

「本日はご多忙の中お集まりいただきありがとうございました。これにてミーティングを終了といたしますので、こちらから締めさせていただきます。ありがとうございました」

とホスト側が明確に終了の意思を告げ、3秒後に切る。

これでほかの方々が不要な気を遣うこともなく画面が閉じられます。

もしホストがなかなか切らない場合は、「次のミーティングがあるので失礼いたします」や「では、退室させていただきます」+「ありがとうございました」と敬意を示しつつ堂々と退室の旨をお伝えすれば、先に退室してしまっても失礼にはなりません。

いつまでも様子をうかがっているよりも、むしろ“スマートでデキるビジネスパーソン”という印象を与えられます。

好感が持たれる名刺交換での振舞い

名刺交換のマナーは、ビジネスマナーの基本中の基本として社会人1年生で教わった人も多いでしょう。

差し出す順番は、役職、年齢から判断することはもちろん、訪問する側とされる側など双方の立場をトータルで判断し、総合的に自分のほうが下と考えた場合は、相手よりも先に出すことが礼儀とされています。

また、相手の名刺より下の位置に差し出す、と学んだ方も多いのではないでしょうか。

これらを守ることは、ビジネスマナー上もちろん必要です。

ですが、今回お伝えしたいのはもう一歩先のこと。

あなたが役職が高かろうが、年齢的に上であろうが、訪問を受ける側であろうが、関係ありません。

とにかく、どんなときでも「自分から先に差し出す」ことをおすすめします。

あなたが相手より下の立場であれば、もちろんセオリー通りなので間違いないですし、逆に立場が上だった場合には、「いい人だな」と感じてもらえます。

つまり、どちらの立場であっても好感のもたれるふるまい方なのです。

なお、名刺を差し出す高さについてですが、相手よりほんの少し控え目な位置にお出しする程度で十分です。

もし相手がこちらより下に下げてきたら? 負けじとさらに下の位置を争うのは滑稽ですのでお控えくださいね。

そのようなときは、相手と同じ高さで交換してください。

スマートで失礼にもあたりませんし、「つまらない上下争いはしない」という品格も感じさせます。

名刺交換をするビジネスマン
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名刺がすぐに見つからないとき

ところで、咄嗟のご挨拶のときなどに、すぐに名刺が見つからないこともあるでしょう。名刺を用意して待っている相手が視界に入れば、なおも焦りを感じて見つかるものも見つかりません。

このような場合、相手をお待たせするのは十秒ほどがリミット。

諏内えみ『我慢しない、侮らせないビジネスパーソンの処世術 戦略としてのずるいマナー』(かんき出版)
諏内えみ『我慢しない、侮らせないビジネスパーソンの処世術 戦略としてのずるいマナー』(かんき出版)

名刺がなくても挨拶はできるはず。「あれ? あれ?」と情けない姿を相手に見せ続けるのはスマートではありませんし、「この人、大丈夫かな……」と不安にさせてしまいます。いったん捜すのは諦めて、

「ご挨拶させていただきます。○○社、△△と申します。お世話になります。恐れ入ります、名刺はのちほど……」

と申し上げ、相手の名刺を丁寧に受け取ります。まずは堂々とご挨拶しましょう。

ビジネスマナーにとらわれすぎているより、状況によって切り替えられる人のほうが、相手にも信頼できるという印象を与えやすいですね。