※本稿は、吉武麻子著『無駄をスッキリさせて、人生の質を高める 時間デトックス』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
「タイムマネジメント」よりも先に考えるべきこと
時間管理やタイムマネジメントと聞くと、タスクを細分化してスキマ時間にもやることを詰め込み、時短・効率化を進めながら、いかにタスクをこなしていくかということを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか?
そのように考えている人は、時間がないことに悩んでいても「ダラダラしたり、ボーッとしたりする時間をゼロにして、とにかくテキパキ動けって言うんでしょ。そんなの絶対ムリ」と、あきらめている人も少なくありません。
まずはタイムマネジメントに対する先入観をとらえ直していきましょう。
確かに、仕事や目標、家事など、限られた時間で成果を出す必要があることは、時短・効率化を進めながら時間を管理していくと、より大きな成果を出せます。
しかし、24時間すべてをタイムマネジメントしようとすると、苦しくなってしまうのです。たとえば、趣味の時間や、大切な人たちと過ごす時間、休息の時間など、効率を考えると気持ちがあせって、その時間を純粋に楽しめなくなりませんか?
そのため、まずは24時間をどのように使いたいか、大枠を決めたうえで、必要なところでタイムマネジメントを活用していくのです。タイムマネジメントのスキルが必要になってくるのは、最後です。最初からすべてを時短・効率化しようとするのは、自分の首を絞めることになります。タイムマネジメントが必要なのは24時間すべてではなく、一部の時間だということをまずは理解してください。
「やること」は永遠にあふれ出てくる
効率化は問題解決ではなく、わんこそば状態です。
想像してみてください。わんこそばは、食べる人自身が蓋を閉めない限り、給仕さんがそばをお椀に入れ続けます。つまり、効率化で「やること」を片づけたら、次の「やること」がやってきます。生産性を上げようとしたら、次から次へとスピードアップして「やること」がやってきます。自分がコントロール権を握って「ここまで」と線引きをしなければ、永遠に「やること」はあふれ出てくるのです。
やみくもに「やること」を片づけていくのではなく、そもそもの「やること」を精査する。それにより、時間の濃度を高めていくのです。「時間の使い方=生き方」です。
命には必ず終わりがきます。私たちは、今という一瞬一瞬を積み重ねて、自分の人生をつくっていきます。「やり残したことがたくさんある」と最期を迎えるのではなく、やりたいことをやって、満足な人生だったと言えるよう、今この瞬間から、時間と向き合ってください。限られた時間を、本当にやりたいことに使っていきましょう。
「やらなきゃ」という義務感
タイムマネジメントへの先入観をとらえ直すことをお伝えしたのは、実は私自身が、「時間管理」や「タイムマネジメント」という言葉に苦しんだ経験があるからです。
私は「時間術」の本を読むのが好きで、色々な方の時間の使い方のコツを学んでは、自分にも取り入れていました。ところが、初めはモチベーションが上がり、真似して取り組んでみるものの、次第に「やりたい」という気持ちから「やらなきゃ」という気持ちや義務感に変わっていくのを感じるのです。
たとえば、「朝4時に起きてウォーキングがおすすめ」と知れば、充実した時間の使い方に思えて、私も真似をしてみました。確かに、早起きして運動するのは気持ちがいいし、健康にもよいのもわかります。
しかし、気持ちよさと同時に、まだ暗いうちに外に出る「怖さ」も感じたのです。
怖さを感じていたら、心地よくはないですし、それを続けたいとは思えませんでした。
心地よい時間のペースは人それぞれ
誰かにとっては優先度が高いことでも、別の人にとってもそうであるとは限りません。「仕事をする時間」「家族と過ごす時間」「一人で過ごす時間」「運動をする時間」「勉強をする時間」「テレビを観る時間」など、優先度や何にどのくらい時間を割きたいかは、十人十色です。
だからこそ、まずは自分にとっての心地よい時間の使い方を知ることが重要なのです。自分の心地よさを知っているからこそ、それを相手とも共有できますし、相手の心地よさも尊重できます。逆に、自分が心地よさを無視してガマンをしていたら、相手にもガマンを強いるようになります。想像するだけでも息苦しいですよね。
少し話が大きくなりますが、自分の心地よさも周りの心地よさも、お互いに尊重できたら、さらに優しい社会になると私は思っています。
「心地よい時間の使い方」を探す
「やりたいこと」をやるための解決法として、効率化を考える前に「やること」を精査していこう、と(本書の第1章)でお伝えしました。
「やること」を精査するために、まずは自分にとっての「心地よい時間の使い方」を探しましょう。
「楽しい時間」より「心地よい時間」
「心地よい時間の使い方」探しをする前に、ひとつ質問です。
なぜ「楽しい」時間や「ワクワクする」時間ではなく、「心地よい」時間が大切なのだと思いますか?
もちろん、楽しいことや、ワクワクすることに時間を使いたいですよね。たとえ予定が詰まっていたとしても、楽しい予定なら入れたくなる人も多いと思います。
しかし、「やること」を抱えすぎだから「時間がない」状態になり、「心地よさ」が失われています。時間を確保するためにも、「つい入れたくなるような楽しい時間」ではなく、「心も体も落ち着いた、心地よい状態でいる時間」を重視してほしいのです。
それに、楽しい予定ばかり詰め込んだ結果、反動で疲労が続いてしまっては、時間の価値が下がります。
たとえば、もともと人と会うことが好きでも、毎日誰かとの約束があると疲れてしまいませんか? 疲れがたまっては、ベストなパフォーマンスを発揮できません。心や体が疲れていては、夢や目標があっても、実現に向けた行動を続けられないのです。
行動を続けられないということは、実現が不可能ということです。
つまり、行動する時間も休息する時間も含めて、どのように24時間を使うと、自分のコンディションを保つことができるのか、知っておくとよいのです。そのことを踏まえて、4つの視点で「心地よい時間の使い方」を考えていきます。
「心地よい時間」を知る
4つの視点
1「どのような時間が多いとうれしい?」
抽象的な話ですが、どのような時間を過ごせるとうれしいかを考えてみてください。
まず、自分がどんな気持ちでいられる時間が好きか、抽象的でいいので書き出してみましょう。
たとえば、「ワクワクすることをやっている時間が、長ければ長いほどうれしい」「時間に追われず、つねに余裕を感じる状態が理想」「大小問わず、いつも何かにチャレンジしていたい」など、時間の使い方の大まかな好みを直感で書き出してみましょう。
2「何をしている時間が好き?」
次に、1で書き出した気持ちを味わえる、好きな時間の過ごし方を具体的に書き出してみてください。
ワクワクしたい人なら「バーベキューをするなど、わいわいする時間」、ゆったりしたい人なら「お風呂でお湯に浸かりながらドラマを観る時間」、チャレンジしたい人なら「習い事や資格試験の勉強など、自己研鑽に励む時間」など、どんな時間の過ごし方が好きかを書き出しましょう。
自分が使いたい時間をより豊かにするために
3「心身のコンディションを高く保てる時間バランスは?」
先にもお伝えした通り、どんな時間を過ごすのが好きなのかを考えることはもちろん大切ですが、1日のうちの多くをその時間で満たすのは、逆に疲れや慣れで豊かな時間の使い方とはかけ離れてしまうものです。
豊かな時間とは、個人の価値観や興味関心に大きく依存します。重要なのは、自分にとって意味があり、満足感を得られること、心身ともに疲れていないことです。
アクティブに動くことが好きな人は、その分、疲れをリセットするための休息の時間が必要になります。他にも、クリエイティブな仕事をしたい人は、アイディアを生み出すために、芸術に触れて脳に刺激を与えるなどの時間が必要です。また、読書が好きな人は、読んでおしまいではなく、学んだことを実践したり、感想を言葉にしたりすることで、その読書時間をより豊かなものに高めることができます。
つまり、最高のアウトプットをするために、インプットをする時間も必要ですし、最高のインプットのためにはアウトプットの時間も必要なのです。
このように、自分が使いたい時間をより豊かにするためには、実は真逆の行動の時間も一緒にセットすると、より心地よくなるのです。
2で書き出した、好きな時間の過ごし方をより楽しむためには、どんな時間も確保しておくとよいか、考えてみてください。
また、自分が好きなその時間は、どのくらいのペースであると心地よいか、実践しながら見つけてみてください。
学び、働き、遊びのバランス
タイムコーディネートを一緒に伝えてくれている仲間のYさんは、「10・10・10(テン・テン・テン)ライフ」を目指し、それを実現しています。「10・10・10ライフ」とは、「女性の成功コンサルタント」の舛岡美寿子さんが伝えている「10日学び、10日働き、10日遊ぶ」という考え方です。
Yさんは1カ月スパンで「10・10・10・ライフ」を実現した時、オンとオフの緩急をよりつけたいと考え、今は1年スパンで心地よいバランスを模索しています。
心地よいスパンは、実際にやってみないとわかりません。試しながら自分のベストな心地よさを探ってみてください。
ストレスな時間を書き出す
4「ストレスを感じる時間は?」
「心地よさ」は、ストレスがない状態ともいえます。では、ストレスをデトックスするためにはどうすればよいでしょうか? もちろん自分がコントロールできない部分もありますが、自分がコントロールできるストレスは減らせます。
今、やっていることの中で「嫌だ」とストレスを感じている時間を書き出してみましょう。
この4つの視点で、自分にとっての心地よい時間の使い方を探ってください。
「やりたくない」ことを手放す
「やりたくない」ことは今後どうしたら手放せるかを考えます。
たとえば、私は電話予約や、お店の検索などが苦手です。しかし、予約や検索の頻度は高いです。そんな時は、どうしたらその回数を減らせるか、と考えます。
仕事のイベントで使うお店の検索や交渉は、チームメンバーに任せる
友人、知人に好評だったお店やホテルをストックしておく
電話予約はやろうと思えばすぐにできます。そうした少しの時間を手放したところで、大きな時間は生み出せないと思うかもしれません。
大して時間がかからないことでも、嫌だと思っていると、なかなか行動に移せないことはありませんか?
つべこべ言わずに早く終わらせてしまえばいいと言う人もいるでしょう。確かに、終わってしまえばすっきりするので、それも一理あります。
ただ、これが今後も何度もあると考えると、たとえ一瞬でも、そのたびに感情が無駄に動くのは、心地よくないはずです。
「時間の長さ」を基準にするのではなく、「心地よさ」を基準に手放しましょう。
「やりたい」と「やりたくない」の間
また、「やりたい」「やりたくない」と、すでに自覚していることは、比較的簡単にラベル分けできたと思います。
しかし一方で、ラベル分けが難しい行動はありませんでしたか? 「やりたいわけではない」けど「やりたくないわけでもない」行動です。実はこの領域がとても重要です。
「やりたくない」「嫌い」は、比較的強く、自覚しやすい感情です。自覚しているので、手放すのも簡単です。
ところが、「好きではないけど、嫌いなわけでもない」「やりたいというほどではないけど、やりたくないわけでもない」というあいまいなものは、「別に苦痛ではない」と、疑うことなく「やる」一択にしがちです。実は、「時間がない」と悩んでいる人の多くは、疑わずにやることを増やし、時間に追われているのです。
そのため、「やりたいこと」と「やりたくないこと」を整理するには、「やりたいわけでも、やりたくないわけでもない」行動も明らかにし、そこでの時間の使い方を見直すことが重要です。
「やる」と選択したなら、なぜやるのか、目的意識を持ちましょう。「子どもが小さいから」「夫の帰りが遅いから」「誰も手が空いてないから」など、自分以外を主語に置くのはやめて、あなたが主語の理由を見つけるのです。
これは、「やりたくないけど、やらないといけない」ことも同じです。
目的を実現するために、やりたくないことも経験しておいたほうがいいことはあります。そうした時も、「やりたくないけど仕方ない」という感情のまま行動に移すのは危険です。
「苦手だけど、経験のためにやる」「今後手放すためにも一度自分でやってみて、全体像を把握する」など、目的を見すえたうえで「自分が決めて、やる」意識を持ってください。
そうすると、自分で時間のコントロール権を握ることができます。