※本稿は、福田遼、秋山仁志『先生、どうする⁉子どものお悩み110番』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
うまくいかないことがあると大泣きする子ども
Q 癇癪を起こして、泣き止まない
A 子どもの「モード」を変えてみよう
お悩み
息子は、うまくいかないことがあると大泣きをします。
隣の家に聞こえるほど大きな声で泣き、一度泣いてしまうと全然泣き止まないので困っています。どうしたらいいでしょうか?
【秋山仁志(以下ひとし)】お子さんが癇癪※1を起こしてしまう、というお悩みですね。お子さんは小学校低学年とか、保育園児とかのイメージかな?
【福田遼(以下はるか)】うん、それくらいが多いと思う。僕らは子ども大好きだからなんとも思わないけど、子どもの癇癪を嫌な目で見る人もいるかもしれない。そう思ったら、親御さんの不安はきっと大きいよね。
【ひとし】たしかに、スーパーとか遊園地とかね。心配かも。
【はるか】学校でも大泣きしたり暴れたりする子って結構いるんだよね。僕もかなり悩みました。当時は本当にどうしたらいいかわからなくて、こっちもパニックになってしまったこともあるし、「大丈夫?」「落ち着いて」くらいしか言えなくて、ひたすら待つしかない……、って悔しい思いもしたな。
【ひとし】そっか。はるかなりのアドバイスはある?
【はるか】いろいろ勉強して、一番いいなと思った方法が、子どもの逸脱行動に詳しい小栗正幸さん※2が紹介されていた「ファンタジーマネジメント」※3です。
【ひとし】ファンタジー? マネジメント……? どういうふうにやっていくの?
※1癇癪:ちょっとしたことにも感情を抑えきれないで激しく怒り出すこと。
「子どもの癇癪」と言えば、声を荒らげて泣いたり、激しく奇声を発したりするなどの興奮を伴う混乱状態を指すことが多い。自己主張がうまくできない場合に起こりやすく、コミュニケーション手段として習慣化する場合もある。
※2 小栗正幸:法務省所属の心理学専門家として、少年鑑別所や成人矯正施設に長年勤務した経験を持つ。思春期・青年期の逸脱行動への対応が専門領域。特別支援教育ネット代表。
※3参考文献『ファンタジーマネジメント“生きづらさ”を和らげる対話術』(小栗正幸著、ぎょうせい)
正面から向き合うと深みにはまることも…
【はるか】ひと言で言うなら「的を外して、モードを変える」って方法。
【ひとし】えっと、モード……??
【はるか】ちょっと具体的に説明していくね。たとえば大泣きしている子どもがいたとき、普通の大人の反応は「○○くん、なんか悲しいことがあった? 大丈夫?」とかになると思う。これは子どものモードに合わせた反応です。
【ひとし】あぁ、そう捉えるんだね。
【はるか】これが全く悪い反応ってわけじゃないんだけど、そうやって正面から向き合ってしまうと、大泣きは止められないし、ますます深みにはまることもあります。だから、大泣きを止めるためには、子どもの「悲しい」ってモードに合わせずに反応して、別のモードに変える必要がある。
違う話題の声かけをする
【ひとし】へえ。ズバリどうやって変えるの?
【はるか】ガラッと明るいトーンで、全く違う話題で声をかけるんです。たとえば「おー! ○○くんここにおったんや! ちょっと話したいことがあるけんこっち来て!」とか。
「こっち来て」と場所を変えるところも大事なポイントです。
【ひとし】なるほど。違う話題の声かけをするのが一つと、別の場所に移動させることで、もう一つモードを変えるってこと?
【はるか】そういうこと! 僕はよく外に出たり、お茶とか飲みながら話しました。
さらに話しかける「人」が変わると、もう一段階モードが変わります。
【ひとし】あぁ! ひとし先生に怒られてたところに、はるか先生が声をかけてきたら、ってことか。
【はるか】そうそう。そうやっていくつかモードを変えていくと、だんだん大泣きが収まってきて、ゆっくり話を聞いてくれるようになるんです。実際試してみて、びっくりしました。ほんとに効果があるんです。
いったん落ち着かせてから、気持ちを聞こう
【ひとし】えぇー、そうなんだ。でもそれって、子どもが抱えてたモヤモヤ自体は解決してないよね? なんか子どもの気持ちを無視してるような接し方にも見えるんだけど……。
【はるか】さすがだね! たしかに根本的に子どもの気持ちが晴れたわけじゃないよね。でも、まずはいったん、子どもが落ち着くことが大事なんです。なぜなら、大泣きしてるときは、冷静に話ができる状況じゃないから。
【ひとし】なるほどね、その先がある?
【はるか】そう! 落ち着いたら、そこで初めて「なんか困ったことがあったの?」って話を聞いていく。そんなふうにゆったり心が落ち着いた状態で話すと、子どもの本音ってポロポロ出てくるんですよ。「さっきは図工の工作でうまくいかなくて、イライラして声出しちゃった」とか。そしたら、「話してくれてうれしい、ありがとう」と伝える。あとは「モヤモヤしたんだね」と子どもの気持ちを言葉にして受け止めたり、「そういうときには一回お手洗いに行ったりするのもいいんじゃない?」とか、代わりの行動を提示してあげるのもいいと思います。
【ひとし】素晴らしい!
次はどうするかを約束する
【はるか】さらに言えば「約束」ができるともっといい。また大泣きしてほしくないし、もちろん子どもだってまた大泣きしたくないから。たとえば、「○○くんが大きな声出すと先生ちょっと困っちゃうんだ。だから次は涙が出る前に相談してくれん? そしたらすごくうれしいな。約束してくれる?」なんて話したり。
【ひとし】すごい! それって何年生の子?
【はるか】小学1年生でも2年生でもしてたよ。
【ひとし】うまくいくんだ? なんか理屈としてはわかるけど、実際に子どもとそこまで建設的なコミュニケーションが成立するのかなって疑問も残ってる……。
【はるか】もちろん、これはあくまでも成功例。基本的に一回でうまくいくことはほとんどないと思います。でも、「今回は泣いてる時間が短くなったね」とか「次はもうちょっと短くなったらうれしいね」って何回も何回もくり返していくことがすごく大事。
【ひとし】なるほどね。でも、可能なんだ、すごいな。
【はるか】難しいけどね。でも実際に、お悩み相談をくれた別の親御さんにこの方法を紹介したら「おかげで子どもがすごく変わりました!」ってメッセージをもらったこともあって。ぜひ、一度試してみてほしいです。
〔はるか先生のワンポイント〕
ファンタジーマネジメント
癇癪は正面から受け取らず、瞬時にモードを変えてあげよう。