※本稿は、福田遼、秋山仁志『先生、どうする⁉子どものお悩み110番』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
行きしぶりは、「子どもが自信をつけるチャンス」
Q 息子が学校に行きしぶるように……
A 4つのポイントで、前向きに乗り越えよう
お悩み
小5の息子が学校に行きしぶるようになりました。それだけでなく、好きで習い始めたバスケにも行きたくないと言うように……。この無気力状態の場合、まず気をつけなければならないことはなんですか?
【福田遼(以下はるか)】そもそも不登校の問題は大きく2段階に分けられるんです。今回のような行きしぶり段階(※1)と、不登校が長期化している段階ですね。
【秋山仁志(以下ひとし)】行きしぶりっていうのは行ったり行かなかったりって感じなのかな?
【はるか】そうそう、不登校の一歩手前の状態かな。今回はこの「行きしぶり」段階の支援についてフォーカスしたいと思います。お悩みにあるように、お子さんが「行きたくない」と言うようになったらやっぱり不安に思われる方が多いと思う。「いずれ不登校になるんじゃないか」って。でも、むしろ「行きしぶりは自信をつけるチャンスだ!」と思ってほしいんです。
家庭で意識すべき4つのポイント
【ひとし】まずは行きしぶりに対して前向きに捉えようってことか。
【はるか】そうそうそう! 今回は、行きしぶりを「子どもが自信をつけるチャンス」にするために、ご家庭で意識してほしいポイントを4つご紹介します。まず1つめが、「学校の問題は学校に解決してもらうこと」です。
【ひとし】学校の問題。というと、いじめとか?
【はるか】そう。行きしぶりの背景に、いじめやトラブルなど、何か明確な問題があるなら、まずはそれを取り除くことが一番大事です。日本ではよく「モンスターペアレント」(※2)とかって話題になるから、学校に話をしに行くって考えがない方もいるかもしれません。でも、学校でおかしいことがあったら「その問題を解消してください」って建設的な相談をするのは当たり前のことだと思います。
【ひとし】たしかに。
【はるか】具体的には、まずは担任の先生に相談することになると思うんですが、実はここでうまく解決の道をつくることができない場合もあるんだよね。
【ひとし】担任の先生じゃ対処できないってこと?
【はるか】うん。たとえばなかなか対応してくれないとか、「被害者と加害者で謝罪の場を持とう」みたいに、いじめを受けてる子のストレスが大きい方針を提案する先生もいるかもしれません。もしもそういう場合であれば、学年主任の先生や校長先生、教頭先生などの管理職に相談するのもいいと思います。学校にはいじめに対してチームで対応するマニュアルがあるし、そうやって相談することは何も悪いことじゃないから。実際に、それで適切な対応をしてもらうことができたケースもあるんです。
※1 行きしぶり:子どもが保育園や学校に行くのを嫌がったり、行かない素振りを見せる状態。朝になると体調不良になったり、なかなか起きられないといったこともある。登校しぶり。
※2 モンスターペアレント:教師や学校に対して理不尽な要求や苦情をくり返す保護者をモンスターにたとえた言葉。2007年頃から言われるようになった。
休むメリットを生まない
【はるか】そして2つめは、「学校を休むことによるメリットを生まないこと」です。
【ひとし】学校を休むメリット?
【はるか】うん。たとえば、不登校支援の中には「ゲームなども自由にやらせて、子どもの心の回復を待ちましょう」というような考え方もあります。もちろん、好きなことをやると楽しくて気持ちが前向きになったり、心が回復すると思います。でも一方で、「学校を休んだら思う存分ゲームができた」というメリットが生まれている、って見方もできると思うんです。すると、学校を休む頻度がいっそう高まってしまうこともありえます。
【ひとし】「ゲームしたいから、また学校休みたいな」と思うってことか。
【はるか】そうそう。他にも「お母さんと長く一緒にいられた」とかもメリットだよね。さらに付け加えれば、これって「壁を増やしている」とも捉えられると思うんです。たとえば、学校を休んでる間にたくさんゲームをしたとする。すると、次に学校に行こうと思ったときは、「ゲームを我慢する」という新しい壁も立ちはだかっているんです。
【ひとし】たしかに! 最初は「学校に行きたくない」だけだったのに。
【はるか】そうやって二次的な壁が生まれると、ますます学校に行くのが難しくなってしまいます。なので、学校でできないことはやらずに、学校に行っているときの生活習慣をできるだけ崩さないようにするのがすごく大事です。
休み中に家ですべきこと
【ひとし】なるほどね。じゃあ具体的に家で何をしてたらいいの?
【はるか】たとえば学校の時間割を見て、算数の時間だったらドリルをしようとか、図工だったら絵を描いてみようとか、計画を立てるのが良いと思います。あるいは、何か家のお手伝いをお願いするとか、体を動かす時間にしたりしてもいいと思います。
ただし、この点についてはいろんなご意見があると思います。とくに長期的な支援という視点では、子どもがやりたいことをやらせてあげて、親は見守ることを徹底するという考え方もあります。その点は付け加えておきますね。
【ひとし】なるほど。これは「できればすぐに学校に戻りたい」と考えてる時点での支援ってこと?
【はるか】そう、今回はあくまでも行きしぶり段階の子への支援として考えてもらえたらと思います。
そして3つめが「コンプリメントをすること(誉め言葉をかけること)」。森田直樹先生が提唱されているものなのですが、これはやっぱり、すごく効果的で大事なことです。コンプリメントで子どもの自信を取り戻してあげる。そうすることで、また学校に行く勇気が湧いてきます。
「欠席は3日まで」と意識しよう
【ひとし】次が4つめ、最後だね。
【はるか】4つめは「欠席は3日までと意識すること」です。4日以上連続で休んで前後に祝日などが入ると、9日以上の連休になることも。休みが続くと体がだるくなったりすることもあって、行きづらさが増してしまうんです。
【ひとし】これは「4日連続で休んだらダメだよ」みたいに子どもに伝えるの?
【はるか】いやいや、子どもには言わないでいいよ。でも、子どもが再登校をめざす場合は、「1日2日は思いっきり休むのも一つの手だけど、4日連続にはならないようにサポートしよう」というように、心の中で意識しておいてほしいんです。
【ひとし】なるほどね。どれもすごく納得できたな。だけど、理論はわかっても実際に親御さんが全部を実践するのは相当難しそうだなって印象もあるね。
【はるか】そうだね、それは間違いないと思う。でも僕は、2つめの「学校を休むメリットを生じさせない」とか、3つめの「コンプリメントをする」ってことを実践しただけで、再登校するようになった例もたくさん見てきました。なので、一気に全部は難しくても、少しずつチャレンジしていくことには必ず意味があると思います。
【ひとし】そっか。前にコンプリメントは絶対に効果がある、とも言ってたもんね。
幅広い支援や選択肢を
【はるか】うんうん。ただ一方で、一口に不登校と言っても、背景にある状況はさまざまなんだよね。その子自身の特性も考えるべきだし、親子の関係性に改善点がある場合もあれば、学校との関係性にあるのかもしれない。それから、不登校を乗り越えた先の選択肢も、今回お話ししたように再登校する道もあれば、フリースクールに通うなど、たくさん考えられます。
僕は、「不登校は〜すべき」と考えるんじゃなくて、幅広い支援や選択肢をできる限り偏りなく検討して、「今の状況ではこんな支援がいいかも」「この子にはこの選択肢が合うかも」と丁寧に探っていくのが一番大事なことだと思っています。
なにより、子どもも親御さんも、ひとりで「自分の責任だ」と抱え込まないでほしい。スクールカウンセラーや教育相談センター、民間の不登校支援サービスなど、専門的な支援を受けられる方法も広がっていますから。
その中で僕らのポッドキャストも、みなさんの心を軽くする一つになれたらいいな、と思っています。
〔はるか先生のワンポイント〕
行きしぶりは、4つのポイントで乗り越えよう。
①学校の問題は学校に解決してもらう
②学校を休むことのメリットを生まない
③(愛情と承認の)コンプリメント(褒め言葉)をかける
④「欠席は3日まで」と意識する