時間を守ることが苦手な子に注意するにはどんな声かけが効果的か。こども発達支援の専門家である前田智行さんは「『将来大変よ!』と叱っても響かない。『時間を守れるようにするのではなく、早く行くと良いことがあるという環境設定をする』と発想を転換するとよい」という――。

※本稿は、前田智行『「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ! 発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方』(大和出版)の一部を再編集したものです。

感情で説明しても伝わりづらい

ASD(自閉スペクトラム症)の子どもは、目に見えない感情など、概念の理解が苦手なことがあります。

そのため、廊下でボールを投げるなど危ない行動をしているときに、「小さい子が怖がっているでしょ!」と伝えても、「俺は、怖くはないしな……何が嫌なんだろ」と、気持ちによる言い方がうまく伝わらないことがあります。

そこで、「ボールが窓に当たって割れたら2万円の罰金だよ」「怪我したら、病院に行くから。給食のカレー食べられないよ」など、損得を基準とした伝え方は、気持ち/感情に関係なく、デメリットが明確なため、「それはしないほうがいい」と理解するのが簡単になります。

もちろん、気持ちを教えることは悪いことではないので、損得で納得する言葉と一緒に、「ボールは外で遊べば得だし、小さい子も安心だね」など、損得+気持ちをセットにして伝えると良いでしょう。

なんで友達をほめなきゃいけないの?

特別支援が必要な子どもの中には、友達をほめたり、親切にしたりすることを教えようとしても、「どうしてですか?」「僕に別にいいことありません」と言うことがあります。

特性的に人に興味がないこともありますし、過去の失敗体験が背景にあることもあります。

そんなときは、「情けは人の為ならず」ということわざを使うことがおすすめです。

「人に親切にするのは、人のためではない、親切にすると、巡り巡って、自分にいいことが返ってくるんだよ」と、あくまで、「親切は自分のメリットのためにやる」と思えると、モチベーションが出る子がいます。

もちろん、目に見える報酬はすぐにあるわけではないので、効果が薄い子もいますが、中学生以降ですと、「人に親切にしていると、『○くんって優しいよね』って評判が上がるし、好きな子と話せる確率も上がるよ」というような、メリットを伝える方法もあります。

早く行くと良いことがある

不注意症状を持つ発達障害の子どもは、時間を守るのが苦手なことがあります。

日本は時間に厳しい文化と言われており、子どもが時間にだらしないと、「将来大変よ!」と叱ってしまう大人は多くいます。

しかし、どんなに注意をしても、遅刻をしてしまうので、悩んでしまう保護者も多くいらっしゃいます。

そんなときは、「時間を守れるようにするのではなく、早く行くと良いことがあるという環境設定をする」と発想を転換してみましょう。

たとえば、「朝ごはんに好きなフルーツゼリーを出す」「朝、学校に行くと朝の会まで、空き教室でオセロができる」など、「早く行くと良いことがあるよ!」というメリットがあれば、モチベーションが働いてすぐに動くことができます。

「早く行くと良いことがある」が遅刻を防ぐ

繊細な時間術は難しい

一般的に定型発達に求められる時間の概念は、かなりハードルが高いものでもあります。たとえば、「時間を守ることは大切だけど、早く行きすぎても相手に迷惑がかかるから、5分前ぐらいに到着するのが失礼に当たらない」という社会的ルール。

このような繊細な時間術を身につけることは、人に興味が薄く、周囲の目を気にして、組織のルールを守ることにモチベーションが働きにくいASDの子どもや、「遅刻しても俺が困るだけで、他の人の迷惑になってないんだからいいじゃん」と考えやすい、ADHDの子どもにとっては困難です。

たとえば、私もADHD、ASD当事者であり、時間を守った行動は非常に苦手でした。

また遅刻だけでなく、「遅刻をしても俺が困るだけだし、遅れた分、長く練習すればいいじゃん(残業すればいいじゃん)」と考えて、反省もできませんでした。

今思えば、できないことで怒られ続けた反動なのですが、それだけ特性的に困難なことを身につけることは大変なのです。

しかし、今では時間を守って行動ができます。

それは、「その日の仕事先に2時間前に到着して、一番近い喫茶店で本を読む。そして、15分前になったら喫茶店を出て仕事先に向かう」というルーティンを確立したからです。

自分なりのルーティンをつくる

このように書くと、「そもそもADHDなのに、なぜ2時間前につけるんだ」と疑問に思うかもしれませんが、実は私は「喫茶店で本を読む自分はかっこいい」と思っているからです(ここだけ聞くと変な人ですね)。

そのため、家にいるときに「喫茶店で本を読むか!」とイメージすると、「早く行かなきゃ!」とモチベーションが働いて、さっさと用意をして、仕事に向かうことができるのです。

また、2時間あれば何か忘れ物をしても、途中コンビニで買い足すこともできますし、トラブルに巻き込まれても大丈夫です(ADHDは、なぜかトラブルに巻き込まれることが多いです)。そのため、今では時間に関するトラブルは減りました。

このような、自分に合ったルーティンを確立するために大事なことは、「自己理解」です。「自分はどんなことにモチベーションが働き、どんな行動が苦手で、できないのか」という自己理解を進めると、自分なりのルーティンをつくることができます。

特性的にできないことが多い発達障害の人は、自己理解を進めて、得意を活かして、苦手なことは自分に合った環境調整をしたり、カバーする道具を用意し、使いこなすことが大事です。

そのためにも、子どもの頃からの自己理解は、自立にはとても大切なのです。

やりたくないことを教えるときは対価を出す
やりたくないことを教えるときは対価を出す『「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ!発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方』(大和出版)p196

やりたくないことをやらせたいときはご褒美を用意する

「うちの子は、好きなことはしますが、やりたくないことは嫌だとわがままを言います」という悩みを持つ保護者は多くいます。

こんなときは、「本人がやりたくないことをさせたいときは、ご褒美を用意する」という意識が大切です。

給料が出ない仕事をする大人はいない

しかし、ご褒美作戦を提案すると、「ご褒美がないと、やらない大人になったらどうするの?」と心配されるケースもあります。

もちろん、好きなことを生かして成長させることは大事ですが、今の世の中は、好きなことだけをして生きていけるほど、成熟していないと私は考えています。

特に、発達障害の子どもは、興味関心が特定の分野に集中しているため、自立に必要なスキルにモチベーションが働かないこともよくあります。

よって、興味のあることはどんどんやらせる。

一方で、興味のないことをしてほしい場合は、たとえば、「夕飯の準備を手伝ってくれたら、明日の分のチョコボールをゲット!」など、ご褒美を設定することが大切です。

大人は「ご褒美はけしからん」と思う人が多いですが、もし、今やっている仕事が「給料がなくなりました。無償でやってください」と言われたら、誰もやらないでしょう。

子どもも同じです。

ハート型のキャンディーを持っている子供
写真=iStock.com/ArtMarie
※写真はイメージです

自己肯定感を高めることにも繋がる

世の中好きなこと以外にも、やったほうがいいことがあることは、大人も子どももわかっています。

だから、能力の高い子どもは、興味は関係なしに取り組んでいる子どもも多いです(学校に来るなども代表的な事例です)。

前田智行『「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ!発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方』(大和出版)
前田智行『「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ!発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方』(大和出版)

しかし、発達障害の特性がある子は、興味のないことには、体が動きません。

これは身体の反応なので、何をどう説得しようが動きません。

それならば、「〜をしたら、ご褒美をゲット」というモチベーションの源泉を外部に設定するほうが、子どももやる気が出てスムーズに動けます。

また、成功体験も積めるので、自己肯定感を高めることができます。

「でも、ご褒美がなくなるとやらなくなるんじゃないですか?」と聞かれますが、当然ご褒美がなければやらなくなります。

しかし、一度覚えたスキルは残ります。

将来1人暮らしをしたり、働き始めたときに、「昔、家で料理つくったり、洗濯したりしたな〜」と思い出せればいいのです。