負けることに耐えられずに暴れてしまう子にはどう対処すればよいのか。こども発達支援の専門家である前田智行さんは「まずは、『勝って良い気分になる』ことでなく、『一緒に遊ぶプロセスを楽しむ』ことが目的だと気づかせるために『負けても楽しいと学習できる遊びをするとよい』」という――。

※本稿は、前田智行『「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ! 発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方』(大和出版)の一部を再編集したものです。

負けたショックで暴れてしまう子

特別支援が必要な子どもの中には、「負けることに耐えられず暴れてしまう」という子どもがいます。

本来は、「一緒に遊ぶプロセスを楽しむ」ことが目的なのに、「勝って良い気分になる」ということが目的となり、結果、負けたショックに耐えられないのです。

負けず嫌いな性格でも、それが人生でプラスに働けばいいのですが、対人関係や日常生活にまで影響が出るなら支援が必要です。

こんなとき、「にらめっこ」をして遊ぶのは支援として有効です。

にらめっこは、「笑ったら負け」というルールなので、「負け=嫌だ」と学習しているはずなのに、「負け=楽しい」という結果になります。

そのため、「負けても楽しい」と学習できますし、大人から「負けても楽しいね〜」とラベリングをすることで、誤学習を上書きすることが可能です。

勝つことが楽しいわけではない

ゲームは勝ち負けで終わるものだけではない

発達障害の子の中には、負けることへのストレスに耐えられず、ゲームを放棄したり、怒りを爆発させたりしてしまう子もいます。

そんなときは、まずは、「協力型ゲーム」からスタートします。

たとえば、1人で遊べる「ソリティア」を2人で一緒にやっても良いですし、ボードゲームであれば『脱出! おばけ屋敷ゲーム』。

アナログカードゲームなら『ito』など、複数人で協力して、クリアを目標にするゲームであれば、勝ち負けにこだわらなくてすみます。

ここで大事なのは、「勝つことが楽しいのではなく、一緒に遊ぶことが楽しい」という事実に気づかせること。

そのために、まずは協力型ゲームで一緒にゴールを目指す経験を積んで、一緒に遊ぶ時間を楽しめる環境設定をしてみましょう。

勝負をごまかす暇がない遊び

負けが苦手な子は、一緒に遊ぶ大切さに気づく経験が大事ですが、現実的には、幼いうちは、「負けても楽しい」と大人な思考までいくことは難しいものです。

そのため、「負けてもごまかさない」「負けは嫌だが、人に迷惑はかけない」というスキルを身につけるために、「ジャンケン」から始めてみることが大切です。

たとえば、時間のかかるボードゲームなどでは、負ける前に「なんか負けそう」と気づいてしまうので、脱走したり、ボードをひっくり返したりと、怒りを爆発させる余地が生まれます。

しかし、ジャンケンは、手を出した瞬間に勝敗が決定するので、勝負をなかったことにするようなごまかしはできません。

そこで、大人がジャンケンで負けても、「もう一回やろう」など、負けた後に切り替える姿を何度も見せると、子どもは徐々に、「適切な負け方」を覚えてくれるようになります。

ちゃんと謝れば、トラブルの悪化を防げる

発達障害の子どもの中には、衝動性が高い子や、うっかり相手に失礼なことを言ってしまう子がいます。

このような子に、「衝動的に動いちゃダメ!」と教えることも大切ですが、脳の特性ですので、ゼロにすることは難しいものです。

そこで、「今のウソ!」「今、話盛っちゃった!」と、行動の後に謝ったり、訂正したりするフォロースキルを教えておくことも、トラブル予防には効果的です。

特に、フォローの仕方がわからないと、「謝らない/謝れない」という態度を取って、余計に相手と揉めてしまうことがあります。

本人に悪気がないのも事実ですので、すぐに謝ることで、その後のトラブルの悪化を防ぐことができます。

もちろん、謝ることで自己肯定感が低下する子どももいますので、「うっかりミスは誰にでもあるんだよ」と深刻になりすぎないよう伝えることも大切でしょう。

書字と不安処理の関係

発達障害の子どもは、書字が苦手な子が多くいます。

文字が覚えられない、不器用で書けない、文章を思いつけない、など、高い確率で書字の困難が生まれます。

同時にいろいろな支援も開発されているのですが、書字の苦手さに大きく影響を受けるのが、不安の処理能力です。

何か不安があったとき、不安の原因や自分の考えたこと、感じたことを書き出していくことで、不安のもとになった現象を紙の上に視覚化していきます。

すると、現象を自分と切り離して、客観的に見ることができるので、

「怖かったけど、実はたいしたことなかったんだな」
「次はこうすればいいんだな」

というように気持ちを前向きにしていくことができます。

しかし、書き出すことなく、悩んでいる状態ですと、いつまでも自分を客観視できないため、脳内で不安やネガティブな感情が回り続けます。

そのため、書字の苦手さは、不安が解消されない大きな要因の1つであり、また、発達障害の子どもが、「負の体験の記憶が残りやすい」のは、「言語化が苦手だから」という理由もあると推測されます。

自分の気持ちを言語化することの効果

そこで、本人に書字を練習させて、自分の気持ちを言語化できるようにする、という支援は重要です。

前田智行『「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ!発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方』(大和出版)
前田智行『「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ!発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方』(大和出版)

フリック入力やタイピングでも同様に有効ですし、本人が書けない場合は、周囲の人が文字起こしして、外部化していくのも効果的です。

ただ、タイピングですと、情報の視覚化が難しい内容もあるので、成長していくとともに、PowerPointなど、文字情報を図式化しやすいツールを使って対応することも効果的です。

このように不安や現状を言語化/視覚化することは、感情や思考を整理し、感情コントロールの力を適切に育てるためにも有効です。