※本稿は、伊勢田篤史・古田雄介『第2版 デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(日本加除出版)の一部を再編集したものです。
デジ郎の死亡から3日後…
【妻・デジ子】あーそういえば、早く携帯ショップに行かなくちゃ……。
【息子・デジ太】え? どうしたの?
【妻・デジ子】お父さんのスマホの通信契約を早く止めないと、ずっとお金かかっちゃうじゃない?
【息子・デジ太】なるほどね……お金がかかるといえば、サブスクはやっていたのかな。昔、故人のサブスクの解約ができないっていう投稿がバズってたけど……。
【妻・デジ子】サブスクってなに?
【息子・デジ太】ざっくりいえば、毎月定額で課金される有料サービスのことだよ。有料のアプリとか……。
【妻・デジ子】へぇ~ Netflix(ネットフリックス)とかAmazon(アマゾン)プライムとかも、そのサブスクなの?
【息子・デジ太】そうだね……まぁ、僕はAmazonプライム、年払いにしているけど……父さんやっていたっけ?
【妻・デジ子】さぁ……調べてみないとね……。
天国から……
【デジ郎の父チチ郎】あらあら……一番やってはいけないことを……。
【故デジ郎】え? 何が一番やってはいけないの?
【デジ郎の父チチ郎】スマホの通信契約というのは最後までとっておかねばならんのだよ。
【故デジ郎】へぇ~使わないのだから1日でも早く解約するのがよいんじゃないの?
【デジ郎の父チチ郎】いや、インターネットサービスの中には二段階認証を使用しないとアクセスできないものもあるから、スマホの契約は残しておかないといかんのだよ。
【故デジ郎】へー。確かに、二段階認証で、スマホにSMSが送付されてくることもあるよね。
【デジ郎の父チチ郎】あと、サブスクの解約方法は本当に大変なんだよ。
【故デジ郎】え? そうなの?
【デジ郎の父チチ郎】いろんな方法があってな……まずは……。
【故デジ郎】(あ……これ話が長くなるな……。)
モバイル契約のしまいかた
故人のスマホ等の通信通話契約の解除(あるいは名義変更)は、通信キャリアのショップやサポートセンターの窓口を通して行います。その際に必要な書類や情報は通信キャリアごとに違いがありますが、大まかには下記の3つとなります。
②契約者の死亡確認書類……公的な死亡証明、会葬礼状等
③申請者の本人確認書類……運転免許証等
SIMカードとは通信通話契約を記録した小さな電子カードで、スマホ等に挿入されています。一部の機種では「eSIM」といってSIMカード機能が本体に組み込まれたものもありますが、いずれも故人の端末をそのまま持ち込めば問題ありません。
書類等に不備があってやり直しになることもしばしばあるので、事前に契約している通信キャリアのページで内容を確認しましょう。店舗に持ち込む際はその店舗に事前に相談した上で向かうのが確実です。
固定回線契約のしまい方
契約している回線事業者、またはインターネットサービスプロバイダー(ISP)に連絡すれば、必要な書類や手続をナビゲートしてくれます。
名義変更(承継)に対応しているケースが多いので、家族として引き続き利用するなら、窓口にその旨を伝えましょう。
通信契約の解約には注意が必要
契約者が亡くなった際の解約手続自体は無料で請け負う通信キャリアがほとんどです。ただし、解約日までの利用料金は日割りで発生するほか、端末代の月割り支払いが完了していない場合は残金の支払いは必要になります。
日割りで月額料金がかかることを考えるといち早く解約手続をしたくなりますが、スマホ等の解約は「デジタル遺品の全容がある程度つかめてから」が鉄則です。
葬儀前に解約すると故人の縁者からの電話やチャット、SMS(ショートメッセージサービス)などが受け取れなくなりますし、コード決済サービスの残高の確認やクラウドにあるバックアップデータの把握に支障が出ることも考えられるためです。
通信通話契約の残しかた
上記の手続の際に、名義変更(承継)を選ぶことで、契約を引き継ぐことが可能です。
ただし、一身専属性のサービスでは承継不可となりますし、承継の条件として「二親等までの親族」といった条件がつく場合もあります。契約元のルールを確認して、道筋を定めましょう。
サブスク等を利用している場合
サブスクをはじめとする定額課金サービス(以下、「サブスク等」といいます。)は、月ごとや年ごとにサービス利用料を支払う契約類型となります。
利用料の支払いが規則的に発生するため、クレジットカードや預金口座のお金の流れから見つける方法が有効です。ただし、支払い代行サービスが仲介することが多く、サービス単位では見つけきれないことが多々あります。
このため、次のようにスマホ等を使ってApple IDやGoogleアカウントに紐付いたサブスク等の契約を調べたり、ケーブルテレビや通信キャリアのコンテンツパックの詳細から課金性のある契約を探したりする方法と並行するのが現実的な方法といえます(図表2)。
「カードが解約できない」「引き落としだけ続く」ケースも
サブスク等の支払いを止める最も簡単な方法は、クレジットカードの退会や引き落とし先口座の凍結等によって、お金の流れを強制的に断つことです。
しかし、この方法は多くの不確実性をはらんでいます。
サブスク契約が残された状態ではクレジットカードの退会(解約)ができなかったり、退会(解約)できた後も自動引き落としだけは続いたりする事例がしばしば報告されているのです。
Microsoftのように、クレジットカードを停止すれば契約終了としている企業もありますが、これはまれな事例です。サブスク等ではお金の流れと契約自体は別物だと捉えるべきでしょう。
それを踏まえて、次のような手順で解約するのが得策です。
②念押しとして、クレジットカードや口座をストップする
③15カ月程度は対応漏れに備えておく
まずはサブスクの解約手続から
①契約窓口ごとに解約手続を進める
サブスク等の解約は、サービスの提供元ではなく、サービスを契約した窓口で行うのが原則です。例えば、App Store(アップストア)から動画配信サービスの課金制アプリをインストールした人が亡くなった場合、解約手続は動画配信サービスではなく、App Storeの窓口で行います。
一方で、前述のMicrosoftアカウントのようにお金の流れを断てば契約終了とするものもあるので、大変ではありますが、個々のスタンスを調べる姿勢が理想です。
②念押しとして、クレジットカードや口座をストップする
サブスク等を調べる過程で、引き取るべきデータが見つかることもあります。そのためもあり、お金の流れを断つ手段は上記(①)の調査を経た上で行うのがよいでしょう。
③15カ月程度は対応漏れに備えておく
気づかれないために正規の解約手続ができず、お金の流れだけ止まった場合、アカウントの登録住所に請求書が郵送されるといったケースもあります。
年額支払いが確定したばかりで亡くなった場合、翌年の支払い時期は1年後からその翌々月あたりになる可能性があります。そうした動きを想定しておけば、忘れた頃に請求書が届いたとしても冷静に対応できるはずです。