今年1月から新NISAが始まり、どこもこの話題で持ち切りだ。ファイナンシャルプランナーの浅田里花さんは「新NISAは使い勝手のよい、いい制度ではあるが、やみくもに飛びつくと後悔することになる。手元のお金を何でもかんでも新NISAに使うのではなく、ほかの金融商品と使い分けた方がいい」という――。(第1回/全3回)
新NISA
写真=iStock.com/Nyantanan
※写真はイメージです

新NISA、やみくもに飛びついていいのか

今年から新しくなったNISA制度の話題が盛り上がっており、気になっている方も多いのではないでしょうか。去年までの内容から格段にアップして使い勝手がよくなった新NISAは、私たち生活者が将来に向けて資金作りをするのを助けてくれる制度となっています。

とはいえ、やみくもに飛びつくと後悔することになるかも。元本が変動する株式や投資信託といった「投資商品」が対象となっているからです。新NISAをはじめる前に、失敗しない資金計画の基本をお伝えしていきましょう。

通常は20%以上税金が引かれる

NISA制度を利用する最大のメリットは、何といっても投資商品の収益にかかる税金が非課税になること。つまり、税金として差し引かれなかった分、手元に残る金額が多くなるわけです。

投資商品の収益には、会社の業績によって株主がもらえる株式の「配当金」や、運用実績によってもらえる投資信託の「分配金」、また値上がりした株式や投資信託を売却して得られる「譲渡益」があります。

それらにかかる税金は、所得税と住民税を合わせて20.315%。たとえば10万円の収益があったとしたら、約2万円が税金として差し引かれます。それが手元に残るのですから、NISA制度をうまく利用すれば資金作りの助けになるというのはご理解いただけるでしょう。

NISA制度は2014年1月にスタートしているのですが、いまいち利用が大きく広がる感じではありませんでした。それが今年1月の大改正によって新NISAと生まれ変わり、内容が充実したうえ、スッキリわかりやすくなっています。

なぜ新NISAが注目されているのか

どんな制度なのか、新NISAの基本的な内容を整理しておきましょう。

まず、去年までのNISAは終了時期が決まっている期間限定の制度で、非課税メリットがある期間にも期限がありましたが、新NISAは期間を気にせずにずっと非課税で利用できるようになっています。

また、株式などにも投資できる「成長投資枠」と、積み立てに適した投資信託専用の「つみたて投資枠」の両方が使えるようになったので、毎月コツコツ積み立てを行いながら、気になる株式も買ってみたいという方に朗報です。去年まではどちらかひとつしか利用できませんでした。

そして、非課税限度額が大幅にアップしたため、成長投資枠には240万円、つみたて投資枠には120万円、合わせて年間360万円まで非課税で投資することができます。「毎年そんなに使える人いるの?」と感じてしまう大きさの枠ですね。

さらにトータルの非課税限度額は、生涯にわたって1800万円が使える大きさに(成長投資枠のみだと最大1200万円まで)。仮に1800万円の枠を目一杯使っている人が、一部を売却して非課税枠が空いたとしたら、翌年からその枠を再利用することができるわけです。

ひとり1800万円、夫婦だと3600万円もある新NISAの非課税枠。家計からそれだけの投資資金を捻出するのはちょっと現実離れしているかもしれませんが、これらの改正のインパクトが強く、新NISAが注目されることになりました。

「手元のお金は全部新NISA」でいいのか

「こんなにいい制度を使わないなんてもったいない」とあおられたり、「早く始めたほうがいい」と勧められたり、世の中には投資でトクをしている人もいるようだし、焦る気持ちになっている方が大勢おられるかもしれません。

確かに、これまで見てきたように、新NISAは私たちの資産作りを助けるいい制度です。しかし、あくまで上手に利用してこそです。新NISAを利用してもかまわないお金と、利用してはいけないお金の見極めを、それぞれの家庭でしっかり行うことが大切です。

どのご家庭も、将来の計画のために「貯蓄」をしていると思います。マイホーム資金にとか、子どもの大学進学に備えてとか、老後のゆとり資金のためになどです。その将来の計画を「ライフプラン」と呼びます。また、急な出費に備えての予備的な貯蓄もあるでしょう。

子どもがいる家庭のライフプランが例に挙がりがちですが、シングルやディンクス(DINKS:子どものいない共働きの夫婦)などライフプランは十人十色です。ご自身のキャリアアップに役立つ学び直し、資格取得といったプランを立てている方もおられるのではないでしょうか

まずは、わが家にはどんなライフプランがあるのか、確認しておきましょう。そのライフプランがいつ実現するのかにより、貯蓄の仕方にも工夫が必要になるからです。

使う時期が決まっているものは普通預金や定期預金に

たとえば、急な出費に備える予備資金の場合、重視したいポイントは「使いたいときにすぐ引き出せる」こと。一定期間の縛りがあって引き出せないタイプの金融商品はNGです。

また、「使いたいときに元本が確保できている」ことが大前提。途中解約すると大きな解約手数料がかかる金融商品や、使いたいときに運悪く値下がりしている可能性もある投資商品もNGです。いつでも引き出せて、しかも元本安全な普通預金などが預け先の候補になります。

数カ月先に予定しているライフプランや、時期はハッキリしないけど1年以内に実現したいライフプランなど、短期的な資金計画にも同様のことが言えます。

また、20~30代の若い世代で、まだそれほど貯蓄ができていないというケースでは、少なくとも生活費の1年分程度の予備資金を安全に貯めることを優先すべきです。勤め先に財形貯蓄制度があれば、給与天引きで貯められるので利用するといいでしょう。

家族の財政イメージ
写真=iStock.com/years
※写真はイメージです

3年後など、比較的近い時期にライフプラン実現を予定している場合は、必要な金額から貯めるべき金額を計算し、安全に積み立てていきます。たとえば、3年後に60万円必要なライフプランがある場合、毎月1万円、ボーナス時に4万円貯めれば可能です(1万円×36カ月+4万円×6回=60万円)。手元にある資金であれば、たとえば3年満期の定期預金などで安全に運用しましょう。

5年以上先に使う予定の資金準備に新NISAを

なかなか新NISAの出番がありませんね。ライフプラン実現の予定が5年以上先であれば、ようやく一部は新NISAの利用を検討してもOKです。途中の値動きがあっても、預金金利以上の収益を期待できるからです。ただし、値下がりしている時期にあたってしまうリスクもあるので、安全な資産作りと併せて行う必要があります。

投資は将来の成長を期待して行うものです。とはいえ、株式市場は90年代に入ってからのバブル崩壊で長らく低迷し、バブルピーク時の高値を抜くのに34年かかりました。将来のことは誰にもわかりませんから、どんなに新NISAが魅力的な制度であっても、安全に資金を確保しておくことも大切なのです。

かといって、10年以上も先のライフプラン、たとえば生まれたばかりの赤ちゃんの大学進学や、先々の老後への備えなどが考えられますが、それらのための資金を安全一辺倒で貯めていっても、増えるパワーがありません。運用期間が長くとれるライフプランの場合、途中でバブル崩壊のような不測の事態が起こっても、対応次第で立て直しができます。

安全に確保できている資金が十分あり、長期の運用が可能なライフプランであれば、メリットある新NISAを利用しない手はありません。

【図表1】ライフプランの例と適切な資金計画

初心者に「投信の積み立て」がオススメなワケ

はじめて新NISAを利用するという方は、たぶん投資もやったことがないという方が多いと思います。新NISAの成長投資枠では株式にも投資できますが、いきなり株式投資はハードルが高すぎます。「投資信託」(投信、ファンドとも呼ぶ)に注目しましょう。

投資信託は、多くの人から集めた資金を運用の専門家が日本や海外の株式、債券、不動産などに投資し、その収益を購入した人に還元する仕組みの金融商品。少ない資金でも幅広い対象に投資することができる、投資に不可欠の情報収集や分析を専門家に任せられる、新興国など個人には壁がある市場にも投資できる、といったメリットがあります。

はじめて投資信託に投資するのであれば、日本を含めた世界の株式、債券、不動産で運用する「バランス・ファンド」のような、投資対象を幅広く分散するものがいいでしょう。異なった種類の投資対象に分散して投資するのが、リスクを抑える鉄則だからです。

ひとつの対象に投資すると、期待通り値上がりすればいいですが、予想に反して値下がりしてしまうと、リスクをもろに被ってしまいます。しかし、複数の投資対象に分散していれば、お互いにカバーし合ってリスクを軽減する効果があるわけです。

そして、つみたて投資枠を使って、毎月積み立てていくのがオススメです。投資信託のように動きがある金融商品での積み立ては、リスクを抑えながらの長期的な資産作りが期待できる仕組みだからです。というのも、積み立てだと月々一定額の範囲で買えるだけ購入していきますから、価格が高い時には少ない口数、安い時には多い口数を購入することになります。これを長期間続けると、平均購入単価を抑えるリスク軽減効果があるとされています。

まとまった資金を一度に投資した場合、たまたま相場が高かった時期に当たってしまうかもしれません。しかし、積み立てであれば投資する時期が分散されて高値づかみを避けられます。また、値下がりしている時期には多くの口数を買えるので、将来の値上がりを待っていれば大きな利益を期待できます。

新NISAで積立投資をはじめたなら、値動きに一喜一憂せず、忍耐強く続けていきましょう。

ネット銀行の口座を持っておく

繰り返しになりますが、ライフプランを実現するには、安全な金融商品での運用も不可欠です。銀行預金が預け先の候補となるものの、普通預金も定期預金も利息収入は微々たるもので、魅力がないのも事実です。

そんな中、店舗を持たないネット銀行に目を向けると、都市銀行など市中の銀行より高い金利を提供しているところがあります。ネット銀行はなじみがないかもしれませんが、普段の家計管理に使っている口座とは別に、資産運用専用の口座として持っておいてもいいでしょう。

ネット銀行により、無条件で高金利を提供されるところもあれば、取引状況などの条件をクリアする、新規口座開設によりなど条件付きのところもあります。グループ企業のネット証券との連携が条件というところも少なくありません。今後どのような使い方をしたいかによって選ぶといいでしょう。また、定期預金を利用したい場合は、必ず途中解約の条件を確認しましょう。

安全で金利アップも期待できる「変動10年」

3年以上の期間を安全に運用したい場合のオススメは「個人向け国債」です。国債は国が発行する債券で、利息と元本の支払いを国が責任を持って行います。投資信託の運用先にも「債券」が出てきましたが、国以外にも自治体や企業が発行する債券があり、債券市場で取引され値動きしているのです。

個人向け国債がオススメなのは、債券市場の値動きの影響を受けないこと。債券を満期まで持たずに中途解約すると、元本割れする可能性もあるのですが、個人向け国債については国が元本での買い取りを保証しているので、安心して購入することができます。発行から1年は解約できませんが、1年経過すれば中途解約が可能に。ただし、直前2回の利息相当額が解約手数料となるので、1年程度で解約するのは避けたいものです。

定期預金と比べても金利が高いことも魅力です。個人向け国債には、10年満期で半年ごとに金利が見直される「変動10年」、5年満期で5年間金利が変わらない「固定5年」、3年満期の「固定3年」の3種類がありますが、これから買うなら「変動10年」がオススメ。金融政策が変わって金利上昇の兆しが出てきましたので、半年ごとの見直しで金利アップが期待できるからです。

なお、国債には「新窓販国債」というのもあり、こちらも買うことができます。しかし、こちらは一般的な債券なので、元本は保証されていません。債券の価格は金利情勢が上向くと下がるという動き方をします。金利上昇の芽が出てきたいま、今後は債券価格が下がる可能性大なので、間違えて新窓販国債を買わないように注意しましょう。

iDeCoの目的は老後の年金資金作り

最後に、新NISAと比較して語られることの多い「iDeCo(イデコ)」についても触れておきましょう。

iDeCoは自己責任で年金資金を作る確定拠出年金制度のひとつ。勤め先が従業員のために用意する「企業型確定拠出年金」に対し、個人が加入したい金融機関を選んではじめる「個人型確定拠出年金」がiDeCoです。どちらの制度も、加入する本人が積立商品(主に投資信託、元本確保型の定期預金や保険商品も用意されている)を選んで、年金資金を積み立てていきます。

投資信託での積み立てという点が似ており、新NISAとiDeCoがよく比較されますが、iDeCoはあくまで年金資金作りが目的の制度です。したがって、積立金は60歳以降でないと受け取りできません。運用益が非課税になるだけでなく、所得税・住民税の節税もできるなどiDeCoの税制メリットは大きいのですが、途中解約できない点に十分留意する必要があります。

その点、新NISAはいつでも解約できるため、いろいろなライフプランの資産作りに利用できると言えるでしょう。