現役女性管理職や役員たちが集う日本最大級のサロンを自負する「プレジデント ウーマン リーダーズサロン」。去る2024年3月6日に開催した本年最初のイベントは、国際女性デー(3月8日)を記念した、日本企業における「女性活躍」の現状を考える会。今回は、「プレジデント総合研究所」が運営する「人事・ダイバーシティの会」との合同開催により、企業の現役女性管理職と人事担当者たちが一堂に会しての意見交換が実現。ゲストにプレジデント総合研究所顧問でジャーナリストの白河桃子さんを迎えたイベントの様子をリポートする。
イベントの様子
撮影=田子芙蓉

課長クラスの管理職までは椅子の数も多い

2024年の、そして「プレジデント総合研究所・人事・ダイバー会」とのはじめての合同開催となった3月6日の「プレジデント ウーマン リーダーズサロン」。約40名が一堂に会し、多角的に日本の女性活躍を考える会となった。

まずは、プレジデントウーマン編集部が実施した(2024年2月調査)、最新のダイバーシティ&インクルージョン(以後、D&I)調査(※)の結果を初公開。日本企業における女性活躍の現状をゲストの白河桃子さんが分析した。

※2024年2月・「プレジデント」「プレジデント ウーマン」のメルマガ登録者へオンラインアンケート調査を実施/有効回答者数:(企業勤務の社員)555人。うち男性417、女性130、その他6

女性活躍の名の下、「女性が下駄を履かせてもらっている」という意見も世間にはあるが「管理職への男女の昇進率の差」への意識(回答者個人の意見による)では、男女ともに、圧倒的に「男性」のほうが昇進しやすいと感じている。ただし、課長職レベルでは、男女差はないという回答がほぼ同程度であるため、企業によっては能力に差がなければ性別を問わず昇進させているともいえる。

【図表】Q.同じくらいの能力なら、社内で男性と女性どちらが昇進しやすいか?
出典:「最新D&I調査2024」プレジデント ウーマン調べ)

白河さんは、「課長職の女性割合は、各企業が増やしはじめている。これまで日本企業は総合職の女性が少なく、男性中心に昇進するのが当たり前だったが、今、多くの企業で昇進ゾーンに入っているのは、比較的若い男女。今はまだ差があっても、今後はもっと増えてくるはず」と今後女性管理職が増えることに期待したいと語った。

しかし、部長職、役員レベルになると、形勢は一気に男性の昇進優位に傾く。元々、用意される椅子も少ないため、勤務期間の長さ、引き上げる上司との関係の深さなどからも、男性を昇進させる企業が多くなるのが現実のようだ。

【図表】Q.同じくらいの能力なら、社内で男性と女性どちらが昇進しやすいか?(部長レベルの場合)
出典:「最新D&I調査2024」プレジデント ウーマン調べ
【図表】Q.同じくらいの能力なら、社内で男性と女性どちらが昇進しやすいか?(役員レベルの場合)
出典:「最新D&I調査2024」プレジデント ウーマン調べ

「部長の椅子は少なく、役員になるともっと減る。執行役員レベルにいる人は多くの企業でほとんどが男性で、女性がいないことが問題になっています。役員クラスになる女性を育てることが企業にとっての課題だが、やはりどうしてもまだまだ男性を先に上げてしまう会社が多い。能力のある女性は待ち続けることができずに、転職してしまうことも多々あり、企業にとっては損失になる」(白河さん)

【図表】昇進後に会社で一番問われる能力は?
出典:「最新D&I調査2024」プレジデント ウーマン調べ

「昇進後にもっとも問われる能力は」という問いには、男女とも「マネジメント力」を挙げる人がもっとも多い。次いで「業績」「リーダーシップ」と同様に続く。4位に男性は「社内政治力」、女性は「感情コントロール力」が挙がった。女性が「感情コントロール力」を挙げるのは、ステレオタイプ的な「女性は感情的」だというバイアスの影響もうかがわれる。

管理職の転職理由は「報酬」か「キャリアアップ」か

「優秀な管理職が転職する理由は何か」という問いには、男性は「報酬アップ」、女性は「キャリアアップ」を第一に挙げた。

【図表】優秀な管理職の転職理由は何だと思いますか?
出典:「最新D&I調査2024」プレジデント ウーマン調べ

「20代、30代の優秀な社員の転職に悩む会社は多く、特に男性上司の方からは『報酬につられて』のような発言も耳にする。女性はキャリアの先が見えずに悩む方が多い」(白河さん)

【図表】管理職をキャリア採用するときに会社が一番重視するのは?
出典:「最新D&I調査2024」プレジデント ウーマン調べ管理職をキャリア採用するときに会社が一番重視するのは?

続いて、企業が「管理職をキャリア採用するときに何を一番重視するか」という問いには、男女とも「実務能力」が挙がった。次に、男性は「マネジメント能力」、女性は「会社の風土や文化になじめるか」という項目が挙がる。

「転職者を受け入れる文化は、多様性が育っている企業にこそある」(白河さん)

女性の2位に「会社の風土や文化になじめるか」が挙がるのは、外から来た女性管理職に対する「お手並み拝見」のような厳しい周囲の目や態度があるのかもしれない。

【図表】日本企業でD&Iが進まない原因は何だと思いますか?
出典:「最新D&I調査2024」プレジデント ウーマン調べ

「日本でD&Iが進まない理由は何か」の問いには、「経営者層の意識の低さ・無理解」がトップに挙がった。

「世の中の流れだからとダイバーシティを進めるだけではうまくいかない。その施策・制度に経営トップの魂が入っているかどうかが重要。ダイバーシティを進めているのに、男性中心の風土が残っていたり、男性上司の意識が低いのでは社員には響かない」(白河さん)

日本のジェンダー平等は、2023年は146カ国中、125位となった。教育と健康は世界トップクラスだが、政治と経済の値が低いという結果に。政府閣僚の男女比は世界平均よりも低いレベル。また、経済では「男女間賃金格差」は最低レベルだ。国を挙げての「ダイバーシティ推進」でも、政府や企業の本気度、その施策に魂が入っているかどうかが、今後も問われる。

“現在地”を把握してこそダイバーシティが実現

調査結果の発表の後は、ゲストの白河桃子さんによる「日本企業の問題点」の解説。

ゲストの白河桃子さん
撮影=田子芙蓉

白河さんによると、「ダイバーシティを考えるとき、企業ごとに自社の“女性活躍の現在地”を把握することがもっとも大事」だという。

<フェーズ1>

まず、女性活躍の第一歩として、1986年の「第一次雇用機会均等法」がある。「男女平等に働ける」ことになったが、女性が男性の働き方に合わせる働き方だ。

<フェーズ2>

フェーズ2では、「女性に優しい企業=両立支援」の実施が広がる。

2010年に「時短制度」が措置義務となったことで、女性の育休取得率は100%になり、希望する女性は育休後もすべて継続就労ができるようになる。しかし支援を受けられるのは女性メインで、男性の働き方はあまり変わらず、管理職になる女性は子どもがいなかったり、子持ちでも男性と同じ働き方ができる人中心であることは変わっていない。

2016年には、「女性活躍推進法」ができ、大企業は「女性も管理職にする」という行動計画の下、女性管理職育成に力を入れはじめる。

しかし、女性たちが、“管理職になるとプライベートがなくなる”と考え、昇進を望まなくなったのは、男性同様の働き方=長時間労働による無理が起因していると白河さんは言う。

<フェーズ3>

フェーズ3になると、男女平等の「働き方改革」が叫ばれるようになる。2019年には脱長時間労働に舵を切り、労働時間規制も広まり、現在は、日本でも労働時間より時間あたりの成果を評価する方向にシフト。男性の両立支援(育休取得推進)も進み、女性だけではない、真のダイバーシティが進み始めている。

「ダイバーシティの『目的』は、男女問わず、すべての人を活躍させること」(白河さん)

女性活躍=多様性。多様性の欠如は組織の弱体化に

現在地とは、先述した「フェーズ1」「フェーズ2」「フェーズ3」のどこに自社の女性活躍が位置しているかだ。女性活躍とは、多様性を推進することであり、多様性のある企業には、いろいろな人の目線やアイデアが生かされることでイノベーションが起きやすくなる。

「多様性の欠如=同質性は、自分たちの組織を弱体化させることを意識しなければならない。同じ属性の人だけを引き上げることは、同じ考え、同じ意見しか出にくくなるなど、引いては企業のリスクにつながる」(白河さん)

ダイバーシティの進捗しんちょく
1.デモグラフィー型ダイバーシティ(性別・国籍・年齢など属性の多様性)
2.タスク型ダイバーシティ(能力・知識・経験など、目に見える多様性)
3.認知型ダイバーシティ(視点の多様性[Cognitive Diversity])

ダイバーシティ経営で最終的にめざすのは、(3)の認知型ダイバーシティだ。これは、企業の持続可能な成長のため、企業価値を上げるためにさまざまな視点が必要だからだ。

各企業の女性活躍の現在地と問題点が浮き彫りに

講演の後は、グループワークを実施した。

7グループに分かれた人事担当者と現役女性管理職たちが、それぞれが所属する企業の「女性活躍の現在地」を確認し合い、フェーズが上がらない理由、上がった理由など、グループ内で実例をもとに活発に意見交換を行い、終了後には各グループの代表がまとめを発表した。

グループワークで出てきた意見
撮影=田子芙蓉

各社とも「まだまだ管理職になりたがらない女性が多い」のは実状のようで、単に政府の提言に合わせた、白河さん言うところの「魂が入っていない」制度や施策を設けるだけではなく、根本的に何が足りないかを今後も探りつづけることが重要だ。

新たな視点を大切にする環境を整えるため、「自社の女性活躍の現在地」を定期的に確認することをおすすめしたい。