健康で長生きするために住まいに必須の設備は何か。一級建築士のしかまのりこさんは「自宅で亡くなる方は意外に多く、その死亡者数は、交通事故による死亡者数より多い。また死亡にまで至らなくても、病気を発症しやすい環境を住まいが作り出していることもある」という――。

交通事故死より多い自宅での死

新年になり住宅の購入を検討している方も多いのではないでしょうか。しかし毎日生活する住まいですから、きちんとした住宅に住まないと、寿命が短くなることにもなりかねません。

じつは自宅で亡くなる方は意外に多く、その死亡者数は、交通事故による死亡者数より多いのです。また死亡にまで至らなくても、病気を発症しやすい環境を住まいが作り出していることもあります。そこで、今回はこれがないと寿命が短くなる住まいの特徴についてご紹介したいと思います

火災死の2人に1人は逃げ遅れ

3位 火災報知器
火災報知器
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毎年、住宅火災により亡くなる方は、全国で約1000人以上に上ります。そして火災による死因は、ふたりに一人が逃げ遅れによるもので(図表1)、なかでも65歳以上の高齢者が7割近くを占めます(図表2)。

この火災による逃げ遅れ事故を減らすため2006年には改正消防法が施工され、戸建て住宅やマンションなどすべての住宅に、火災報知器の設置が義務付けられました。火災報知器とは、火災による煙や熱を感知して、警報音やブザー等で火災の発生を知らせてくれるものです。住宅はもちろん賃貸物件にも火災報知器の設置義務があります。設置義務はあるのですが、設置に関する罰則がないため火災報知器を設置していないご家庭や大家さんもいるでしょう。

【図表】住宅火災の死に至った経過別死者発生状況(放火自殺等除く)
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【図表】火災による年齢階層別死者発生状況(放火自殺等を除く)
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火災報知器の有無が生死を分ける

しかし火災報知器が設置されている場合とそうでないのとでは、明らかなる差があります。消防庁の調べでは住宅に火災報知器が設置されている場合は、そうでない場合に比べ、死者数と損害額は半減、焼損床面積は約6割減という結果になっています(図表3、4、5)。

このことからもわかるように、火災による不慮の事故で寿命を縮めないためには「逃げ遅れない」ための火災報知器の設置が大切になってきます。

【図表】火災報知器の設置による死者数の減少
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【図表】火災報知器の設置による焼損床面積の減少
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【図表】火災報知器の設置による損害額の減少
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設置場所や種類にも留意する

また火災報知器を設置はしているけれど、正しく設置できていないケースも多いようです。

火災報知器は、基本的には寝室と寝室がある階(1階は除く)の階段上部に設置することが必要です。寝室に設置するというのは、死亡事故になりやすい「就寝中の逃げ遅れ」に対処するためです。また火災による煙の集まりやすい場所であるとともに、2階などで就寝している方の避難経路となるため、階段室にも設置します。そのほか市町村の条例により、火元になりやすい台所やリビングなどにも設置義務がある場合があります。

この火災報知器ですがエアコンなどの風の影響を避けるために、その吹き出し口からは1.5mほど離す必要があります。そのほかにも、電波の発生する機器の近くや加湿器など水蒸気を発生するものの近くも、火災報知器が正しく作動しない恐れがあるため、設置を避けましょう。火災報知器の種類は煙に感知する煙式(光電式)タイプと熱を感知する熱式(定温式)タイプがありますが、寝室や階段室は感知の早い煙式タイプを設置します。火災報知器は、ホームセンターやネットショップなどで安価で手軽に購入・設置できます。しかし経年劣化や電池切れにより、交換目安は10年とされているので注意が必要です。本体に記載されている製造年等を確認し、10年を経過したものは交換しましょう。

気密性が高いと汚染物質が戸外に排出されにくい

2位 換気設備
換気設備
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最近の住宅は以前の木造住宅などと違い、冷暖房を効率よく使用できるように建物の気密性が高くなっています。そのため家の中に入り込んだ化学物質などの汚染物質も戸外に排出されにくくなりました。その他にも、住まいの気密性が高いと家の中に空気が滞留しやすく、湿度が上がり、結露などによるカビやダニなどが繁殖しやすい環境にもなっています。

この汚染物質やカビやダニなどに浸食されていると、頭痛やめまいなどの化学物質過敏症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状を引き起こしやすくなります。とくにカビなどは、住む人への健康被害はもちろん、住まいの劣化も早めます。そのほかにも、室内の二酸化炭素濃度が高くなると、頭痛や集中力・思考力の低下により作業効率が低下するという弊害も報告されています。

この二酸化炭素や汚染物質を除去し、また空気を循環して結露を起こしにくくするために設置するものが24時間換気システムです。2003年に建築基準法が改正され24時間換気システムの設置がすべての建物に義務付けられました。

この24時間換気システムとはその名前のとおり常時空気の入れ替えをしてくれる換気システムのことで、スイッチを入れておけば窓を開けなくても常に住宅内の汚染物質を排出し、室内の空気をきれいに保つことができます。空気が滞留しにくいので結露も起こしにくくなります。24時間換気システムには3つの種類がありますが、住宅で主に使われているのは「全館空調」と言われている第1種換気タイプのものと、一般的なマンションに多い、壁の給気口から空気を取り入れ浴室などから排気する第3種換気タイプになります。

換気しないと病気リスクが高まる

しかしせっかく24時間換気システムがついている住まいでも、暑い夏の時期や冬の寒い時期は冷暖房効率が下がるからと、スイッチを切ってしまうご家庭がたいへん多いのです。そうすると、室内は汚染物質やカビ・ダニなどに侵食されやすく、病気リスクを高める結果につながります。そのため、24時間換気システムがついている場合は、1年を通してスイッチを切らないようにしましょう。

どうしても冷暖房時の熱効率のロスが気になる場合は、「熱交換型」タイプといって、冷暖房された熱エネルギーを排気と給気で上手にやり取りするタイプの24時間換気システムを設置してください。室温を変えずに換気ができるので、冷暖房時のロスがなくなり省エネになります。また換気はしたいけれど花粉や黄砂など外気の汚染が気になる場合は、給気口などに取り付ける高性能のフィルターが販売されていますので、交換してみてください。

24時間換気システムがついていない古い住まいの場合は、お部屋ごとに24時間換気システムをつける方法や、いまついているトイレやキッチン・浴室などの換気扇を24時間換気システムに交換する方法などがあります。人が体内に取り込むもので最も多いものが空気で、一日に約1万5000リットル以上の空気を吸い込むと言われています。そのため、水や食事だけではなく、換気された綺麗な空気の中で生活することはご家族の健康を守るためにも、また住まいの寿命を延ばすためにも大切です。

小さな段差も高齢者には致命的になり得る

1位の発表の前に番外編として「これがあると寿命が短くなる」ものについてもご紹介したいと思います。

番外編 カーペットや畳など床のちいさな段差
ダイニングルーム
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令和3年厚生労働省「人口動態調査」によると65歳以上の死因のうち、高齢者の「転倒・転落・墜落」による死亡者数は「交通事故」の死亡者数の約4倍にもなっています(図表6)。さらに「転倒・転落・墜落」の死亡者数について詳しく見てみると「階段及びステップからの転落及びその上での転倒」よりも「スリップ、つまづき及びよろめきによる同一平面上の転倒」による死亡が85%と大半を占めていることが分かります(同じく厚生労働省「人口動態調査」による)。このことから、カーペットやたたみなどのちいさな段差につまづき転倒・死亡する高齢者が多いことがわかります。

【図表】65歳以上の死因別死亡数
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また死亡まで至らなくても高齢者が要介護状態になる理由の一つに「転倒による骨折」が挙げられます。「認知症」「脳血管疾患(脳卒中)」「高齢による衰弱」に次いで4番目に多いのです(図表7)。そして転倒によりどこを骨折したのかを見てみると「脚・足」の骨折が約半数となっており、歩くことができなくなると、寝たきりなど介護状態になりやすいことがわかります(図表8)。

【図表】高齢者の介護が必要となった主な原因
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【図表】(住宅発生)骨折事故/骨折部位の内訳
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見えにくい部屋の段差は目立たせて転倒を防ぐ

このことからもわかるように、いつまでも健康で自立した生活を送るためには、転倒を防ぐことがなによりも大切です。

そのためには、

1.部屋の整理をして余計なものを床に置かない
2.コード類は壁をはわせて固定する
3.床が濡れていたらすべらないように拭く
4.浴槽や玄関・廊下や階段には手すりを付ける
5.見えにくい小さな床の段差などは、照明で明るくしたり、または色を付けて危ない所を目立たせる
6.床にはカーペットなどつまずく物はなるべく敷かない。

などの工夫をして転倒への対策をしましょう。

日本は断熱材がない家屋が多い

1位 断熱材
断熱材
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住まいの中で「これがないともっとも寿命が短くなるもの」は、「断熱材」です。断熱材とは、建物の壁や基礎・床下・天井・屋根などに入れて、寒い冬や暑い夏でも外気温に影響されずに、家の温度を一定に保ってくれるものです。そのため住まいのどの部屋でも気温が一定のため、血圧が安定し病気にもなりにくいのです。そのほかにも断熱材が入っている住宅は、冷暖房効率も上がり省エネにもつながります。しかし日本の住宅は、じつは断熱材がほとんど入っていない住宅が多いのです。断熱材がしっかり入っているかどうかについては、現行の省エネ基準に適合しているかどうかが一つの目安になります。

国土交通省の調べではこの省エネ基準に適合している住宅は、令和元年時点で新築住宅では80%、新築のマンションでは、72%と普及している一方で、住宅ストック(販売されている中古住宅)については、省エネ基準に適合している住宅はわずか11%となっています。つまり9割の中古住宅が現行の省エネ基準(※)を満たしていないのです。

また、日本では欧米に比べて家が寒くても暖房使用しない習慣もあります(図表9)。これが日本の家は寒いと言われている原因です。WHO(世界保健機関)では寒さによる健康影響から居住者を守るための室内温度は、18℃以上にすることを推奨していますが、日本の住宅の平均気温は、このような環境が影響し、在宅中でも12℃~17℃と低いのです。またこの平均室温を都道府県別にみると、寒冷な都道府県ほど平均室温が高く、反対に温暖な都道府県ほど平均室温が低い結果になっています。これは北海道など寒い地方ほど、外気温に対応するため、住まいの断熱化が進んでいることが関係しているようです(図表10)。

【図表】日本の住宅は断熱性が低い 日本人はあまり暖房を使わない?
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【図表】温暖地ほどリビングの平均気温が低い
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断熱化のリフォームには補助金が出る

つぎに、家が寒いと具体的にはどのような健康影響があるのか、見ていきたいと思います。国土交通省の研究チームの報告によると、住まいの室温が低いほど血圧が高くなる傾向があり、また高齢者ほどその影響を受けやすいとの結果が(図表11)。そのほかにも、室温が低いと夜間の頻尿を呈する「過活動膀胱症状」や糖尿病・脂質異常症・腰痛・関節症や睡眠障害など、さまざまな疾病を有する人が多くなるという報告がされています。

しかし断熱材を住まいに入れて、部屋を暖かくすることで、血圧が上昇するなどこれらの疾病が改善することも、研究によりわかってきました(図表12)。また同じ室温でも床暖房など床から1m以内の足元付近を温めると、血圧を下げる効果が報告されています。そのほかにも部屋が暖かいと、こたつなどの座りっぱなしの行為が減り、1日の活動時間が男性では23~35分、女性では27~34分増加し、より活動的になることも分かってきています(図表13)。

【図表】年齢別の室温による血圧上昇
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【図表】断熱改修前後の室温と血圧変化量
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【図表】断熱リフォームの暖房習慣変化による活動時間の増加量
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このように断熱材を入れた住宅は、外気温の影響を受けにくいため、夏は屋内での熱中症になりにくく、また、冬はヒートショックなどの心疾患をはじめ血圧や腰痛・頻尿などの病気を防ぎ健康寿命を延ばします。住まいが寒いと感じる方は、一度、断熱材がどのくらい入っているのか、家を建てた工務店やハウスメーカーに確認してみてください。もし断熱材がしっかり入っていない場合は、健康のためにもリフォームすることをお勧めいたします。この住まいの断熱化リフォームは、いまなら各団体や各自治体で補助金を出しています。「断熱改修 補助金」または「断熱リフォーム 補助金」で検索してみてください。