※本稿は、深作秀春『白内障の罠 一生「よく見る」ための予防と治療』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
糖尿病をはじめ白内障をも引き起こす終末糖化産物AGE
「糖化」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。身体の中のタンパク質に糖がこびりついて、体温などで温められて焦げ目のようにべたべたつくことを「糖化」といいます。さらに、このタンパク質が「糖化」を受けてできる物質を、「終末糖化産物(AGE:Advanced Glycation End Products)」と呼びます。
タンパク質に過剰な「糖」がこびりつき、糖化され、AGEという劣化したタンパク質になると、これが多くの老化現象の原因となります。
このAGEが皮膚に蓄積すれば、シミやたるみになりますし、血管であれば動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞などの原因にもなります。またこれが脳にたまればアルツハイマー病の原因ともなるのです。
目の水晶体は「糖化」と「酸化」の相互作用で濁る
さらに、これが目の水晶体にたまると、白濁を起こす原因となり、白内障を引き起こすのです。
この糖化は、糖尿病患者でよく起きます。糖尿病患者では高血糖が続いているので、糖化はつねに起こっていて、AGEが大量に蓄積されます。そもそも、糖尿病の診断基準の1つの「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」は、赤血球のタンパク質であるヘモグロビンが糖化してAGEに変わる前の中間物質でもあるのです。ですから糖尿病患者は、AGEの発生により、糖尿病でない人よりずっと早く白内障になります。
目の水晶体は主にクリスタリンというタンパク質でできていますが、このクリスタリンが「糖化」してAGEになると、紫外線などでの「酸化」との相互作用で、タンパク質変性を引き起こし、白内障を発症するのです。
この水晶体のクリスタリンは、身体の他の部分のコラーゲンなどとは異なり、生涯にわたって新陳代謝をしないタンパク質です。ですから、AGE対策をしないと、どんどんAGEが蓄積して白内障になるのです。
AGEは、タンパク質と糖が加熱されてできる物質、と述べました。そして、このAGEが白内障発症の大きな要因でもある、とも述べました。
それでは、このAGEの量はどんな要素で測ることができるでしょうか?
タンパク質の「糖化」という要素とともに、どれだけの間(「時間」)、「糖化」されているのか、というのが重要です。つまり、体内でのAGE産生量=「血糖値」×「持続時間」となります。
揚げものや炒めものを無制限に食べ続けるのは危険
また、AGEはタンパク質の糖化したもの、といいましたが、たとえてみれば、ステーキを焼くとできる「焦げ」のようなものです。ですから、AGEはいろいろな「焦げ」のついた食べものから体内に吸収されるのです。揚げものや炒めものを無制限に食べていると、AGEが体内に蓄積してきます。
さらに、甘い飲みものでよく使われる、トウモロコシから作ったコーンシロップは、糖化を促進します。甘いジュースやソーダの成分表を見てみると、「果糖液糖」「果糖ブドウ糖液糖」「異性化糖」などと書かれていることが多いのですが、このうちの「果糖」は、飲みものや食事で摂取すると、消化酵素で分解されずに、すぐに腸から吸収されて、細胞に入っていきます。つまり、ブドウ糖のようにインシュリンのコントロールを受けないので、果糖はブドウ糖の10倍以上の速さで「糖化」を進めてしまいます。
また、「異性化糖」は、芋やトウモロコシのでんぷんからブドウ糖を作り、それをさらに果糖に変化させます。ですから、「異性化糖」と呼ぶのです。つまり、「異性化糖」もしくは「果糖ブドウ糖液糖」は、大量生産で作った(遺伝子組み換えの)トウモロコシを原料に作った「工業製品」なのです。この甘味料は、じつに多くの飲みものや食べものに使われています。この「異性化糖」も急激に血糖を上げて、多くの「糖化」をもたらすのです。
ジュースやお菓子に含まれる「果糖ブドウ糖液糖」に注意
皆さんがあまり考えもせずによくお飲みになるジュースやソーダ類、また甘いお菓子や食品の成分表を調べてみてください。「異性化糖」とか「果糖ブドウ糖液糖」などと成分表に書かれていれば、これを口の中に入れるのを制限すべきなのです。これは白内障予防だけではなく、身体中の細胞の老化をきたす「糖化」を防ぐのに、重要なことなのです。
AGEは分解されにくいので、体内にたまります。また、長時間高血糖にさらされるほど、体内で糖とタンパク質とが結びついて、多くのAGEを作るのです。
白内障などの目の病気の話題は、じつは全身の問題とも結びついていることがご理解いただけますでしょうか。目の病気は全身の状態の表れなのです。前にも述べましたように、糖尿病の方が早期に白内障になることはわりと知られています。糖尿病が内分泌代謝の異常であり、糖尿病の人の身体はこの「糖化」の問題も起こしやすい身体であることからも理解できるでしょう。
アルツハイマー病も「糖化」による現代病である
脳内のタンパク質が糖化(AGE化)すると、その中に、βアミロイドとかタウタンパク質というタンパク質に変質するものが多く出てきます。立体構造に変質したβアミロイドやタウタンパク質は、脳組織に沈着しやすく、老人斑と呼ばれるごみの塊のような斑点を作ります。
このごみの塊のようなタンパク質が、脳神経の変性を引き起こします。特に、記憶に関わる海馬から脳萎縮が始まり、アルツハイマー型認知症を引き起こしていくのです。さらに徐々に脳全体の神経細胞が死滅して、委縮が広がっていきます。この際に神経細胞の中ではカルシウムの異常増加が起きてもいます。
さらに、「糖化」が血管や内臓に影響を与えることも多いのです。糖化により、血管の組織がもろくなり、血管壁の炎症が起こります。この炎症は動脈硬化を引き起こし、これが心筋梗塞や脳梗塞などの疾患に連なるのです。
また腎臓は、体内を巡り老廃物を含んだ血液をろ過して尿を作ります。身体の中の腎臓は血液をろ過して老廃物を除去して尿として排出します。この際のろ過膜はタンパク質でできています。
血管や内臓の病気を引き起こし、たるみやしわの原因に
このタンパク質が糖化すると、ろ過膜の機能が失われるのです。つまり、老廃物をろ過する機能もなくなり、血液中のタンパク質が尿内に漏れ出てしまいます。タンパク尿が起きるのです。
そのほか、糖化は骨にも作用して、骨粗鬆症を起こすこともあります。
繰り返しますが、眼科の症状としては、糖化により白内障が起きやすくなります。さらに眼疾患では他に、血管閉塞などによる出血や網膜症、さらにはマイボーム腺(瞼のまつげの生え際よりやや内側にある、油分を分泌する器官。涙の成分に油を加えることで、涙の蒸発を防ぐ働きがある)の機能不全を起こし、ドライアイにもつながるのです。
また、コラーゲンに糖化が起きると、関節の可動域が制限されて柔軟性が失われます。皮膚も弾力を失い、たるみやしわの原因になりますし、シミの原因にもなるのです。
糖化は歯の周辺でも、炎症を起こす歯周病を起こしやすくなります。糖化は筋力も落としますし、免疫系の機能障害をきたし風邪なども引きやすくなります。糖化というのは本当に怖いのです。
どんな食習慣が糖尿病や糖化を起こすのか
私も他人事ではないので、食事が血糖コントロールにいかに重要かを再確認したいと思います。
私は学生時代にボート部に所属していて、激しいスポーツを行なっていました。当時は運動量も多く、年も若かったので代謝も高かったのです。ですから、お腹いっぱいの大量の食事をとっても問題ありませんでした。ボート部なので、体格はボディービルダーのように骨格筋が発達して、医学部の解剖授業で、私の身体で筋肉の状態を示したことがあるほどの筋肉質体形でした。でも、服を着ると今よりも細く見えました。体脂肪率が10%もなかったのです。
しかし、私のように学生時代にスポーツをしていた方が、社会人になってからも、選手時代に習慣となった大食を続けているとすれば、要注意です。まさにメタボへの入り口です。身体は糖化の影響を受けてきます。
皆さんの中で、食後2時間程度で空腹感を覚えている方はいませんか? さらにその後も空腹感が収まらないなら、もっと問題です。
短時間でたくさん食べると、血糖値が恐ろしいことに
通常は、食後30分から1時間までに血糖値が急速に上がるので、膵臓からインシュリンが分泌されます。このインシュリンにより血糖値が下がり、低血糖になるために、空腹感を覚えるのです。このインシュリンは肥満ホルモンともいわれますが、この時の血糖がインシュリンによって脂肪に変えられて、皮下脂肪や肝臓などの内臓脂肪としてたまります。インシュリンが多く分泌される状況では、身体に脂肪がたまって、太ってしまうのですね。
私も含めて、ホテルの美味しいビュッフェスタイルの食べ放題が好きな方は多いですよね。私の自宅近くのホテルのビュッフェは関東一美味しいと評判で、困るのです。100種類ほどの豪華料理を食べ放題ですから。しかも90分の時間制限があります。誘惑に駆られて短時間にどんどんとお腹に食品を詰め込んでしまいます。このような美味しいビュッフェ食を続けていると、血糖値が上がり肥満も起きます。グルメ食で不健康になる、よくある話です。
一方で、少量の食べものをゆっくりとよく噛んで食べれば、満腹感も得られ、過剰な糖質を取り入れることもなくなり、糖化も防ぐことができるともいえます。特に大食の男性を引き付ける「食べ放題」や「大盛り無料」などの、魅力的に映る宣伝文句には注意が必要です。脳からは期待値ホルモンのドーパミンがどんどん出て、短時間でたくさん食べかねないのです。ですが、将来の糖質過多による弊害がいかに怖いかを、再度思い起こしてください。