家をせっかく片づけたのに、家族が散らかしてしまい数日でもとに戻ってしまった……そんな経験のある人は少なくないだろう。お片づけ習慣化コンサルタントの西崎彩智さんは「家庭内のコミュニケーション不足は、片づかない最大の要因。子どもや夫も巻き込むことが、「リバウンドしないお片づけ」を実現する最後のピースになる」という――。

※本稿は、西崎彩智『キッチン「から」片づければ、家は必ずキレイになる!』(小学館)の一部を再編集したものです。

片づけを手伝う子ども
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「ひとりで頑張る」が悪循環の元

私は片づけに限らず、家事も育児も「自分ひとりが頑張らない」ことを大事にしています。ひとりのワンオペになることで時間も取られ、負担も大きくなり、ストレスを抱え、心の不安がどうしても増していきます。これが“片づけられないループ”に陥る大きな原因のひとつです。

当たり前のことですが、家は家族みんなのもの。みんなが使う場所。ママひとりが「これはここに収納する」と決めても、その情報を家族が共有していなければすぐに散らかってしまいます。リバウンドしない片づけは、家族がチームになることで実現します。

子どもや夫も巻き込むことが、「リバウンドしないお片づけ」を実現する最後のピースなのです。家族とコミュニケーションを密にするチャンスにもなります。片づけをきっかけに、どんどん会話を増やしていきましょう。

家族を巻き込むための「4つの心得」

1.まずは自分から動く

人は「口だけ」の人の言うことは聞きません。仕事でもそうだと思います。まず自分から動いて片づけましょう。今までほったらかしだったモノをママが片づけている……。いつの時代も、子どもは親の背中を見ているもの。片づけたい熱意は押しつけず、黙々と背中で見せるほうが効果的です。

2.事前にアポイントを取る

「次の○曜日の○時から片づけするからね」と、片づけの予定を家族に伝えておきましょう。片づけ中に家具を動かすこともあるでしょう。その時、夫に「ちょっと動かすの手伝って」と頼んでも、夫は「なんだ急に」と快く思わない可能性があります。「今すぐ」の指図に抵抗感を示す人は少なくないものです。当日に頼むのではなく、2、3日前に予告しておきましょう。

ひとりで作業するにしても、事前アポを取っておく必要はあります。アポを取る際も「明日の○時から片づけよう」ではなくて、「明日の○時から、もしくは○日の○時から、どちらがいい?」と相手が「イエス」か「ノー」の答えを言うのではなく、どちらかを選んでもらえるようにしておくと、断られる可能性が低くなります。いくら母親/妻でも自分のモノを勝手に触られたり、ましてや移動されるのはイヤなもの。同意を取っておきましょう。親しき仲にも礼儀ありです。

「片づけなさい!」をどう言い換えるか

3.きちんとお願いする

今、片づけたいのは、あなたです。家族が同じ熱量をもっているとは限りません。片づけの熱意の押しつけに十分注意する必要があります。また、気をつけたいのが相手への指図。あれやって、次これやって、と指図されるのは、たとえ親からでもうっとうしいものです。

たとえば、「パパ、これやって!」ではなく、「パパ、お願いがあるんだけど。○○してくれたらとてもうれしいな(助かるな)」「○○ちゃん、片づけなさい!」ではなく、「○○ちゃん、ママと一緒に片づけようか」というふうに言葉を換えるだけで、相手に与える印象がぜんぜん違いますよね。

あくまで、片づけたいのはあなた。それを押しつけられたらウンザリするだろうことを忘れずに。相手の気持ちを考えながらお願いしましょう。

4.いつもの100倍の「ありがとう」を伝える

最後に感謝の気持ちをしっかり相手に伝えましょう。なんとなく「どうも」ではダメです。きちんと「ありがとう」と、目を見て言いましょう。「片づけてくれたの⁉ ありがとう‼」「めっちゃくちゃうれしい! ありがとう‼」大げさなと思われるかもしれませんが、ダマされたと思っていつもの100倍の「ありがとう」を言ってみてください。

感謝されると、人は変わります。夫や子どもも、ママがこんなに喜んでくれるんだ、なんかすごくいいことしたな、とうれしく思ってくれるでしょう。その積み重ねが片づけのイメージをポジティブに変えていく糸口にもなります。

夫と子どもを戦力化する「魔法のさしすせそ」

家族に限らず、仕事場、その他もろもろの人間関係に有効な魔法の言葉です。

<人をやる気にさせる「さしすせそ」>
 さすが!
 知らなかったぁ!
 すごい!
 センスがいい!
 そうなんだ!

次に、あなたが言われたらたぶんイヤな気持ちになる残念な言葉。

<人をイラッとさせる「さしすせそ」>
 さんざん言ったのに
 知らないからね!
 好きにすれば!
 せっかくやったのに!
 そうじゃないし!

家族に対してだけでなく、日頃の自身の言葉づかいも振り返ってみましょう。つい、人をイラッとさせるひと言を発していませんか? 片づけとは日々、自分と向き合う作業なのです。

拡声器を使う女性
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“動線上”のイメージを明確にする

リバウンドしないお片づけのカギを握るのが、家の中で人が動く経路=動線です。そのひとつに「生活動線」があります。生活動線は、顔を洗う、トイレに行く、食事をとるなど基本的な生活のための人が動く通り道です。

生活動線は人それぞれ。家族みんなにインタビューして作る必要があります。

忙しいリビングのイメージ
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夫や子どもが、それぞれが朝起きてから夜寝るまで、家の中で何をするのか、どの場所で何を使うのか。学校や会社から帰宅したら上着やカバンをどこに置くのか。置いたら次はどこで何をするのか。などなど、家事と同じように、家の中の動きも人それぞれルーティン化しています。細かいことですが、観察して家族の生活動線記録表に記録するといいでしょう。家族をよりよく知る機会にもなります。

特に、家族が「外から持ち帰るモノ(新たに持ち込むモノ)」に注目。どういう経路で、どこに置いているのかチェックします。

ケーススタディ① 夫の通勤バッグとランチボックスの定位置の決め方

Sさん宅では、夫の通勤バッグの定位置を、玄関脇のポールハンガーと決めていました。しかし、夫は以前から通勤バッグを廊下のキャビネットの上に置くのがクセになっていて、なかなかポールハンガーに掛けてくれません。

そこでSさんは夫に「定位置に置かず、キャビネットに置く理由」をたずねました。ちなみに、こういう時は詰問調ではなく、温和にたずねるのがコツです。夫の答えは「重いカバンをポールに掛けるのが面倒くさい」とのことでした。たしかに、通勤バッグにはパソコンやモバイルバッテリーなどが入って、けっこうな重さです。

定位置を見直すと、ポールハンガーのフックは床から1メートル以上の高さにあり、「帰ってきて重いバッグをそこに掛けるのは面倒」との理由にSさんも納得しました。腰の高さあたりのキャビネットにポンと置くルーティンには、それなりの理由がありました。

そこでSさんは夫のルーティンを尊重し、ポールハンガーをやめて、キャビネットの籠に入れてもらうようにしました。

夫の帰宅後のルーティンで、もうひとつ改善点がありました。

ランチボックスと、そのバッグです。ランチボックスは、帰宅したらすぐキッチンシンクに置いてもらうようにしました。が、バッグのほうは調理台の上にポンと置かれてしまいます。これはそもそもランチバッグの「定位置がない」ことが原因でした。そこで、シンクのそばにフックを設置し、ランチバッグの定位置を作りました。

ケーススタディ② 小学生の子どもの上履き袋の定位置を決める

小学生の子どもは毎週末、上履き袋を持ち帰ると、自分の机の引き出しにしまい込んでいました。それは「そこがベスト」と思っていたわけではなく、「特に置く場所がないから、なんとなく」だったのです。そのせいで、月曜の朝になると毎度「どこにしまったっけ?」と探していたそうです。

そこで、Sさんは子どもと話し合って玄関脇にフックを設置し、帰って来たらそこに上履き袋を掛けるようにしました。考えてみれば、上履き袋を子ども部屋まで持って行く必要はありませんでした。無事に子どもの生活動線に沿った定位置ができました。

片づけはコミュニケーションツールにもなる

私がよかったと思うのは、片づけを始めたことで「家族との会話が増えた」「夫や子どもが何を思っていたのかわかった」という話を卒業生たちから聞く時です。とてもうれしそうな顔をして、「本当のところがわかり合えた」と話してくれます。家族の気持ちを聞けて、自分の思っていることを言えたということが大切です。ひとつの答えにはたどり着かないかもしれません。でも、家族で起こっている問題の原因がわかることで、家族みんながスッキリするのです。

西崎彩智『キッチン「から」片づければ、家は必ずキレイになる!』(小学館)
西崎彩智『キッチン「から」片づければ、家は必ずキレイになる!』(小学館)

家庭内のコミュニケーション不足は、片づかない最大の要因です。コミュニケーションが増えると、ただ部屋がキレイになるだけでなく、家族がチームになれます。そして、その先に笑顔と「ありがとう」の回数が自然と増えていきます。家族みんなが「わが家がいちばんいい」って思えること。これが私のめざす片づけのゴールです。

また、片づけたことをうれしそうに話してくれる卒業生の顔は、受講前とは別人のようにやわらかい表情で、輝いています。自分を信じている人の顔です。片づけを通じて本来の自分を取り戻した人の顔です。

私は、このような人を増やしていきたいと考えています。家の片づけや家事にとらわれず、自由に自分の人生を歩けるような人を。ママだけが頑張る、家族のひとりだけ負担が大きい、という日本社会にありがちな現象を止めたいのです。