人生のどん底から立ち直るには何が必要か。これまでに3度の絶望を味わったという起業家の保手濱彰人さんは「絶望的状況を経験した人だけが学べることがある。絶望を学びの場であると捉えられることが大切だ」という――。

3度味わった人生のどん底

大学受験やビジネスなどでより高いところを目指そうと思えば、今の自分の状況に絶望感を覚えることもあるでしょう。僕自身、学年最下位レベルから東大を目指そうと思ったとき、初めて起業した会社で共同創業者が全員離脱したとき、3億円もの借金を抱えて倒産間近になったときと、これまで3度にわたって人生のどん底を味わいました。今振り返ってもまさに絶望の日々でした。

キャラアート会長 保手濱彰人さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
キャラアート会長 保手濱彰人さん

そうした絶望から立ち上がるきっかけをくれたのが漫画でした。今の自分があるのは、漫画という教本のおかげといっても過言ではないでしょう。もともと漫画オタクではありましたが、人生やビジネスの力になると実感してからはますます読むようになり、今も月に最低100冊は目を通しています。

絶望したときに読みたい1冊

絶望したときにぜひ読んでほしい漫画を1冊だけ挙げるとすれば、僕は輪廻りんね転生をテーマにした作品『スピリットサークル』を推します。主人公は輪廻転生によって7回の人生を生きるのですが、その過程で、ある人生を利己的に生きて人の大切な物を奪ったがために、次の人生で自分が奪われる側になって絶望の中で死ぬという経験をします。

そこで初めて「大切なものを奪われるってこういう気持ちなのか」「絶望ってこういうことか」という学びを得て、それによって魂の次元が上がっていくのです。絶望を経験することによって魂を磨くという考え方を、具体的にイメージできる形で見せてくれる作品だと思います。

僕がこの漫画から学んだのは、絶望は学びの場であるということです。今の自分の絶望は魂の学びのためにあり、よりよく生きるための糧になるのだからポジティブに捉えるべきだと。

絶望とはどんなものなのか、一体どんな気分なのか、経験したことがない人には決してわからないでしょう。また、誰もが味わうものでもありません。だからこそ、絶望的状況を経験した人だけが学べることがあるのです。

つまり皆さんに伝えたいのは、絶望している状況を100%ネガティブに捉えないでほしいということです。視点を変えれば、どん底の状況は学びを得られる絶好の機会でもある。そうポジティブに捉えられるようになってほしいと思います。

稲盛和夫さんが語った「生きる目的」

経営の神様として知られる稲盛和夫氏は「人間が生きる目的は、この世にやってきたときよりも高い次元の魂をもってこの世を去っていくことだ」という言葉を残しました。『スピリットサークル』は、まさにそうしたことをすんなりと腹落ちさせてくれる作品です。全6巻ですぐに読破できるので、ぜひ手にとってみてほしいですね。

キャラアート会長 保手濱彰人さん
撮影=プレジデントオンライン編集部

漫画以外では、宗教にも人を絶望から救うためのエッセンスが詰まっています。仏教でもキリスト教でも、基本的に宗教は人を救うためにあるもの。こうしたエッセンスを正しく理解するには、僕は脚色されたものや話の一部だけを切り取ったものではなく、開祖のようなおおもとの人の言葉をそのまま学ぶことが大事かなと考えています。

それもあって、僕は特に仏道に関心があったことから仏教の学校に入学し、今現在も生徒として学び続けています。まもなく卒業試験があり、合格したあかつきには僧侶を名乗れるようになります。今後は、仏道の教えから得たことを、漫画から学んだことと組み合わせながら広く伝えていきたいですね。

もっと大変なヤツはいる

絶望的な状況でメンタルを保つために、もっと身近な方法もあります。僕がよくやるのは「今の自分よりもっと大変なヤツいるよな」「この人に比べれば自分はまだマシだな」と考えてみること。そして、それを実感するために、自分よりずっと大変な人が出てくる漫画を読むのです。

お勧めは、絶望的な怖さの巨人と人間たちの戦いを描いた『進撃の巨人』、メインキャラクターの一人である阿久津が絶望しながらも立ち上がるサッカー漫画『アオアシ』、日本壊滅という絶望的状況の中でサバイバルが繰り広げられる『ドラゴンヘッド』など。どれも主人公たちがものすごく大変な目に遭うので、読むたびに「俺なんて全然楽だな」と思えて、おかげで絶望を乗り越えてこられました。進撃の巨人でいえば、「エレンの状況に比べればまだ自分はマシだ」と実感するのです。

絶望するかしないかは、コップに水が半分入っているのを見て「半分しかない」と思うのか、「半分もある」と思うのかの違いではないでしょうか。前者なら絶望を抱えることになりますが、後者のようにポジティブに捉えることができれば、絶望も次の挑戦への糧や新たなスタート地点として見られるようになります。これを陽転思考といいます。

絶望を絶望と捉えなければいい

大事なのは、今の絶望している状況に対する視点を切り替えることです。人がなぜ絶望するかといったら“こうありたかった自分”に執着し続けているからではないでしょうか。だったら、絶望を執着を手放すきっかけと捉えればいい。執着を手放しさえすれば、意外とすんなり一から始める気になれるものです。

キャラアート会長 保手濱彰人さん
撮影=プレジデントオンライン編集部

人が受けとることのできる情報量には限りがあるので、絶望を絶望として捉えたままでいると、それを前提とした情報しか入って来なくなります。よく「思考は現実化する」といわれますが、まさにその通りです。だったら、いかに絶望的状況であったとしても、自分がそう捉えなければいいわけです。

テストや受験問題は正解がひとつであることが多いですよね。例えば「1+1=2」のように、正解はあらかじめ決まっているものであって、自分で決めていいものじゃない。でも、こうした受験思考では絶望から立ち上がることはできません。

人生やビジネスにおいては、正解がひとつしかないなんてシーンはかなり特殊です。一見正解に見えるものは常識や固定観念でしかなく、ほとんどの物事は自分で正解を決めることができるのです。

「自分は運がいい」と自分で決める

僕も20代までは受験思考を引きずっていて、正解はひとつに決まっているという固定観念を持っていました。例えば、僕は社会になじむのに苦労したので、世の中は自分に対して攻撃してくるもの、人生は大変なものだと思い込んでいました。また、自分は運がいい・普通・悪いのうちどれかと考えたとき「特によくも悪くもないから普通」だと思っていました。

それが、30代で視点を切り替えることの大切さに気づき、人生が大変かどうかも運がいいかどうかもあらかじめ決まっているわけじゃない、自分で決めていいんじゃないかと思うようになったのです。このときから僕は「世の中は悪いものじゃない」「自分は運がいい」と決めました。

そうすると不思議なもので、人の悪いところではなくいいところが目につくようになり、結果的にいい人にばかり出会えるようになりました。運がいいと決めたことで、そう思えることばかりに目が向くようになったのです。

採用面接で「あなたは運がいいですか?」

稲盛氏と同じく経営の神様といわれる松下幸之助氏は、採用面接の際に相手に自分は運がいいと思うかどうかを聞き、「いい」と答えた人のみ採用したそうです。人から見てどうかに関係なく自分は運がいいと思える人は、困難に直面しても前向きに立ち向かえると考えていたからだといわれています。

保手濱彰人『武器としての漫画思考』(PHP研究所)
保手濱彰人『武器としての漫画思考』(PHP研究所)

自分で決めていいんだという考え方は、『先生の白い嘘』という漫画からも学びました。人間関係のドロドロした部分を描いた暗めの作品なのですが、その中でメインキャラクターが最後にある男性を「愛すると決める」のです。

実際の婚活などでは、「愛せる」人を探そう、だから相性のいい人や理想の人を探そうという思考になりがちです。でも、この漫画の相手を「愛する」ことを、見た目や年収などのスペックに頼るのではなく自分で決めるのです。なるほどな、そんな考え方もあるんだと気づかされました。

同じように、今の状況を自分がどう捉えるかは自分で決めていいのです。絶望も、人からどう見えようが自分で「絶望的状況じゃない」と決めていい。その意味でも、絶望を学びの場や視点を切り替える機会だと捉えることはとても大事です。絶望を絶望だと捉えていると、余計それによって落ち込んでしまいますからね。

自分を責めなくていい

絶望的状況に陥ったときは、真面目な人ほど自分を責めてしまいがちです。そういう人は責任感も強いですから、自分の考え方や行動が今のひどい状態を招いたと考えてますます自分を追い込んでしまう。

そんな人に対しては、自分で自分のことを許していいんだよ、絶望を経験してこそ学べることがあるんだから今はいい状況なんだよと、周りの人が諭してあげることも必要かなと思います。今回の記事が、視点を切り替えるきっかけや絶望的状況から立ち上がる力につながることを願っています。