87歳で現役のデイトレーダー藤本茂さんは、19歳で投資をはじめ、68年間で18億円という資産を築いた。豪邸に住もうと思えば住めるのに、なぜ贅沢な生活をしないのか。近著『87歳、現役トレーダーシゲルさんの教え』から紹介しよう――。

※本稿は、藤本茂『87歳、現役トレーダー シゲルさんの教え 資産18億円を築いた「投資術」』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

株で勝つための「心・技・体」

私は、株は「心・技・体」が求められるものだと思っています。

「心」は株価の値動きに一喜一憂することなく、その場で最適な行動をとることができる冷静な心。「技」は「ここだ」というときに売買する技術。「体」は健康な身体と資金面での体力の2つの意味を持ちます。

どの要素が欠けても、満足のいく結果は出ないでしょう。

心や技については、経験を重ねるしかありません。私より頭のいい人はたくさんいるかもしれませんが、私より経験がある人はまずいません。株に対する心の在り方も、ちょっと自信があります。

前場が引けて、ペットの7代目ピーちゃんを頭に乗せながら昼食のうどんを食べるシゲルさん
写真=松田小牧
前場が引けて、ペットの7代目ピーちゃんを頭に乗せながら昼食のうどんを食べるシゲルさん

私は自他ともに認めるくらいの毒舌家ではありますが、思いどおりにいかないからといって、ペースを崩すことはありません。「絶対に勝てる」「絶対にこうなる」という思い込みは危険です。いついかなるときも“油断しない姿勢”が必要です。

株を始めたいと思うなら、最初は自分の好きな株を買うのでも、誰かの真似をしてみるのでもいいでしょう。どんなに頭のいい人でも、考えるのとやるのとでは、ぜんぜん違います。

自分のお金を使わないと、本気になるわけがありませんよ。

脳梗塞、心筋梗塞に見舞われながらも株取引に復帰

体力は、なるべく衰えないように、自分で気をつけるしかありません。たしかに年齢を重ねるにつれ、できなくなることも増えます。それは仕方のないことです。

藤本茂『87歳、現役トレーダー シゲルさんの教え 資産18億円を築いた「投資術」』(ダイヤモンド社)
藤本茂『87歳、現役トレーダー シゲルさんの教え 資産18億円を築いた「投資術」』(ダイヤモンド社)

病気も増えます。私自身、大きなところでいうと、2016年には脳梗塞のうこうそくを発症しました。麻雀をして外から帰ってきて、寝て起きたら病院にいました。女房が、大きないびきをかいて寝ていた私を見て、「これはおかしい」と思い、即座に救急車を呼んでくれたんです。

女房の判断のおかげで、一命をとり留めることができました。脳梗塞が起こると、筋肉が緩んでしまうので舌根ぜっこんが沈み、大きないびきをかくことが多いそうです。病院に入院する羽目になりました。

退院してひと安心、と思ったら、翌年には心筋梗塞に見舞われました。血流を守るために、いまも心臓の冠動脈に3cmほどのステント(狭くなった血管を内側から広げるための網目状の筒)が入っています。しかし、これだけの病気を繰り返しても、脳の機能に問題がなかったのは、本当によかったと思います。

頭が回らない、手が動かないといった事態になれば、株取引ができませんからね。

白内障手術でルーペなしで四季報が読めるように

目もだんだん見えなくなってきたのには、悩まされました。チャートも新聞も四季報も、私にとっては文字が小さい。ルーペを片手に売買する時間が増えました。

けれど、2022年、思い切って白内障の手術を行ったところ、すごくよく見えるようになったんです。私は「日帰り手術がいい」と言ったのに「まぁまぁ、一日ゆっくりしていってください」と宿泊になったのですが、本当に受けてよかった手術です。

その後は、ルーペを使わなくても売買できるようになりました。

血圧は高いですよ。最高が240mmHg、最低が120mmHgを記録することもあります。

最高血圧が140mmHg以上であれば「高血圧」と分類されますから、高血圧もいいところですよね。自戒の念を込めて、その数値が記録された用紙を机にはっていますが、血圧のためにやっていることといえば、それだけです。

とくに食事に気をつけたり、降圧剤を飲んだりしているわけではありません。そもそも、年をとって血圧が上がるのは自然なこと。無理に降圧剤で血圧を下げようとすると、頭もボーッとして、判断力が求められるデイトレードには向かないように思うんです。

まぁ、こんなことを女房に言っても、「何を言っても聞きやしない」と苦い顔をされるんですがね(笑)。

病院に行く時間がもったいない

そもそも平日はデイトレードで忙しいので、病院に行く時間がもったいないと思っています。たまに病院に行って、高齢者がじっと自分の順番を待っているのを見ると、正直なところ「もっと別のことに時間を使えばいいのに」と思います。

薬を飲んで健康のために生きる生活より、何か1つでも打ち込めるものを見つけて、その打ち込めるものを追求するために時間を使ったほうが、「最後まで自分の人生をまっとうできた」と言えるのではないでしょうか。私は心底、そう思うんです。

年をとっても判断力は衰えない

年齢を重ねるにつれ、記憶力は低下してきたと感じています。デイトレードをしていても、「いくらの指値で注文するつもりだったか」「取引したい銘柄のコード番号」といったことはすぐに忘れてしまい、もう1回確認する羽目になりがちです。

記憶力が昔のままであれば、一日のうちあと数回は取引回数が増えているでしょう。でも、記憶力が衰えるのも、年をとっているんだから仕方ないことですよね。それを補うためにノートもしっかりつけているわけです。

取引時間中は無駄な動きを一切せず、ひたすら画面に集中するシゲルさん
写真=川瀬典子
取引時間中は無駄な動きを一切せず、ひたすら画面に集中するシゲルさん

ノートを書いて1つひとつの取引を反省するということは、身体に覚えさせることになりますからね。「記憶力が衰えた」と落ち込むことで何かが変わるならば、いくらでも落ち込めばいいのですが、そうでないのであれば、自分ができることでカバーしていくしかありません。

ただし、年をとったからといって、判断力が衰えているとは思いません。もし衰えているのであれば、瞬時の判断が求められるデイトレードで勝ち続けることはできないでしょう。「能力が衰えてきた」と思う高齢者の多くは、普段頭を使っていないからではないかと思います。

頭を使い続けることが重要

そりゃあ60歳とか65歳までバリバリ仕事をしていた人が、定年になったとたんに頭を使わなくなれば、一気に衰えが来るのは当たり前です。

若ければ、一度頭を使わなくなっても、また再びエンジンをかければ勘をとり戻すことができても、年をとれば同じようにすぐに頭が活性化することはないでしょう。

だからこそ、頭を使い続けることが重要なんです。

私のように、丸一日頭をフル回転させ、一瞬の値動きに反応することが求められる生活を続けていれば、そうそう判断力が衰えることはありません。

私の周りにも、70歳をすぎて株を始めた友人がいます。たまたま知り合ったのですが、近所に住んでいたので、株を教えるようになりました。いまもよく私の家に来ては、ああだこうだと言いながら株取引をしています。

彼は始めるのが遅かったこともあり、なかなか最初のうちは勝てず、退職金を減らしたこともあります。ただし5年、10年と諦めずにやっていくうちに、少しずつ勝てるようになってきました。

彼ももう80歳を超えましたが、立派な投資家です。「もう自分は年をとっているから」というのは、逃げ文句だと私は思いますね。

株に必要のない余計な動作はせずに集中

私は取引時間中、疲れたからといって、たとえば腕を伸ばしたり腰をひねったりといった、株に必要のない余計な動作はほとんどしません。

私にとってデイトレードは、ワンチャンスをものにしないといけないもの。そのため、取引時間中は株以外のことはしないと決めているのです。

だからこそ、市場が開いているとき以外の時間で散歩をして体力をつけています。

午前9時から11時半までの前場、午後0時半から3時までの後場と、パソコンの前に座りっぱなしで画面を凝視しているわけですから、そりゃ疲れますよ。

商いが多い日には、頭がうまく回らなくなることもあります。若い人でも私と同じように午前2時に起きて、午前も午後もパソコンの前に座りながら、身銭を切って株をやれば「しんどい」と思うはず。けれど、「やる」と決めたら人間できるものです。

取引時間中はガマン、ガマンですが、引け後には無理をしないことも肝心です。しんどいなと思ったら、夕方5時ごろに寝ることもあります。そうしてまた翌日の午前2時から、心機一転がんばるわけです。

長年愛用している服を着てボロボロの帽子をかぶる

私はとくに贅沢な生活を送っているわけではありません。実際に私を見てもらえばよくわかると思いますが、豪邸に住んでいるわけでもなければ、服もいいものを着ているわけでもない。むしろ着衣は長年愛用して、使用感のあるものが多いです。

買おうと思えば数億円の豪邸を買うこともできますが、決して広いわけでもない、いまのマンションで十分だと思っています。私が気に入っている帽子は15年ほど前に数千円で購入したものです。だいぶボロボロになってきて、ほつれたところは女房に糸で縫ってもらっていますが、これがいいんです。

私は裕福ではない農家に4人きょうだいの末っ子として生まれ、子ども時代は貧乏暮らしでした。いまでも特別贅沢をしたいと思わないのは、当時の記憶が色濃く残っているからだと思います。

唯一、こだわっていること

多少こだわりがあるとすれば、おいしいものを食べたいということ。魚や果物が好物ですが、おいしいものを食べたいですからね。果物は何でも食べますよ。いつも女房が買いに行ってくれますが、たまには電車に乗ってうなぎを食べに行ったりね。

取り寄せることも多いです。伊勢海老やフグを食べることもあります。それに、ビールを1本。時々ワインを少しいただきます。ワインは甘めが好きですね。

癒やしのペットもいます。インコのピーちゃんです。ペットショップを経営していたくらいですから、動物は好きで派手な生活はせず、15年ほど前に買った帽子をつぎはぎしながら愛用し続けているすし、世話には自信があります。

犬も飼いたいところですが、マンションで飼うのは難しいですからね。

ピーちゃんの言っていることは、だいたいわかります。「お腹がすいた」とか「カゴから出してほしい」とか、私に訴えかけてくるんですよ。

7代目ピーちゃんと一緒に昼ご飯を食べる

お昼ご飯は、一緒に食べます。ピーちゃんもそれをわかっているので、前場が引けてお昼ご飯を食べるとなれば「早くカゴから出してくれ」と鳴くんです。

ピーちゃんは7代目のインコです。7代目まで、全員がピーちゃんという名前です。いまのピーちゃんは生後2週間程度でホームセンターから買ってきました。

ピーちゃんも、私がピーちゃんの言いたいことをわかっているのを理解しているから、よく懐なついてくれています。カゴから出たら私のほうに飛んできて、肩や頭に乗ったりしますからね。

ピーちゃん用のご飯ももちろんありますが、いつも私の食べているものを食べたがります。私にとってピーちゃんは、子ども同然なんです。