※本稿は、大江加代『新NISAとiDeCoで資産倍増 人生100年時代の新しいお金の増やし方』(日経BP)の一部を再編集したものです。
50歳でも60歳でも手遅れではない
NISAでの投資は若いうちから始めた方がいいというのはその通りですが、50歳、60歳になってからでも決して手遅れというわけではなく、それなりの使い方やアドバンテージがあります。では、65歳や70歳になったときに必要な資産をつくるために、50歳からどうやって新しいNISAを使えばいいのかを考えてみましょう。
なんといっても、投資に当たって最も有効に活用すべきなのが、運用資金額を早期にキャッチアップするための「成長投資枠」でしょう。中には、成長投資枠は株式投資が中心ではないか? とか、一度に大きな額をまとめて投資するための枠では? と考えている人がいるかもしれませんが、そんなことはありません。成長投資枠でも、つみたて投資枠と同様に投資信託を購入したり、積み立て投資をしたりできます。そこで、ここでは具体的な資産形成の方法について考えます。
基本はつみたて投資枠を利用した毎月の積み立て
50代になると、資産形成の目的は「老後」がメインになると思いますので、まずはiDeCoで拠出限度額に近い積み立てを行い、さらにその上乗せとして、投資に回してよい金額の範囲で新NISAの2つの枠を活用していきます。基本は、つみたて投資枠を利用した毎月の積み立てです。
例えば、頑張って毎月5万円ずつ積み立てると、1年間で60万円の投資額になります。
毎月の積み立てではなく、ボーナス時期に30万円ずつ年2回でも構いません。これを50歳から70歳まで20年間続けると、積立総額は1200万円となります。毎月5万円の原資は、月々の預金残高がそれくらい増えている人ならそれを投資に回せばいいですし、それでは足りない人なら携帯電話のプランや保険契約を見直すとか、もし配偶者が現在働いていないなら、パートやアルバイトをしてもらうという手もあります。
成長投資枠に数年間で資金を追加投入
一方で、50歳ともなればこれまでに貯蓄をしてきた分があるでしょうから、例えば、満期になる定期預金を毎年200万円ずつ3年間、あるいは毎年100万円ずつ6年間投資に回して、成長投資枠を使ってキャッチアップを図ります。成長投資枠は年間投資可能額が240万円と大きいので、そうした使い方が可能です。
こちらも、まとまった金額を年1回で投資するというよりは、何回かに分けて積み立てる設定にした方が買い付けるタイミングの分散になりますし、手間もストレスも少ないのでお勧めです。
この“キャッチアップ投資”の金額は、この例では600万円となります。前述のつみたて投資枠の積立総額1200万円と合わせて、新NISAの非課税保有限度額1800万円(取得金額ベース)をすべて使うことになります。
[成長投資枠]年200万円×3年間(年100万円×6年間)=600万円
→投資総額 1800万円
20年前に始めていれば1800万円は4600万円に
仮に毎月5万円、50歳から3年間は年200万円も上乗せして投資すると、投資元本の1800万円は70歳時点でどれくらいの時価評価額になるでしょうか。年率4%で運用できたと仮定すると、その金額は約3098万円になります。これをもし今から20年前にさかのぼって始めていれば、TOPIXに連動した投資を続けたとして積み立てでの運用利回りは年率7.75%(2003年7月~2023年6月の実績)、200万円ずつ投資した資産も3倍程度になって、評価額は約4600万円と大幅に増えています。
ここでのポイントは、新たに投資をするのはつみたて投資枠の毎月5万円だけで、成長投資枠を使う分の600万円はこれまでにためてきたお金を投資に回すということです。
実際に、日銀の金融広報中央委員会の調査によれば、2022年時点で50代の世帯(世帯人数2人以上)が保有する平均的な金融資産額は1684万円となっています。非常に大きな資産を持つ人も中にはいるため、平均値というのは実態に照らすと高めに出がちです。ただ、同調査ではちょうど真ん中の数字、つまり中央値で見ても810万円ですから、50代の人がこれまでにつくった金融資産から600万円を投資に回すというのは、ある程度現実的な話と言っていいと思います。
50代、60代のアドバンテージ
少しでも運用する時間が長く取れる50代のうちに手元資産を積極的に投資に回すことを想定していますので、その結果、定年時に手元にある現預金が少なくなっているようであれば、退職金はいざというときの資金として投資には回さず、定期預金などに置いておくようにすればいいでしょう。
若い人に比べて、50代や60代がアドバンテージを持つのは、既にある程度の貯蓄を持っているということにあるのです。ここでは1800万円の非課税保有限度額をすべて使い切るケースを紹介しましたが、これはあくまでも限度額であって、使い切らなければならないわけでは決してありません。
iDeCoの他に積み立てられるのが月2万円というのであればその範囲で、預金から投資に回せる金額が300万円しかないという場合もその範囲で、無理なく利用していけばいいでしょう。
60歳でも遅くない、積み立て投資は続けられる限り続ける
次は60歳からのNISAの活用法です。投資といえば「長期の構え」が必要、という考え方が世の中に浸透しつつあります。そうだとすると、もう60歳になってからだと遅いのではないか? 長期投資というけれど、いつまでやればいいのか? といった疑問を持つ人もいると思います。
そんな人に、私なりの答えをずばり言いましょう。
答え:期限はありません。死ぬまでずっと続ければいいのです。
問い:それでは、いつ現金化すればいいのですか?
答え:お金が必要な時に、必要なだけ売って引き出せばいいのです。
いかがでしょう。あっけないほどシンプルな答えだと思いませんか。そもそも、積み立て投資に期間を区切る必要はありません。続けられる限り、ずっと続けていけばいいのです。売ることについても、多くの人は「いつ売るのが一番いいのか?」ということばかり考えていますが、いつがベストの売り時なのか、すなわちいつが高値なのかなんて誰にも分かりません。だから答えは簡単で、お金が必要な時に必要なだけ売ればいいのです。
最近、資産の定率引き出し(残高の一定率を売却して定期的に受け取る)という方法も注目されています。生活のために毎月お金が必要なのであれば、そういう引き出し方をすればいいでしょう。生活自体は年金や働いたお金で賄えるというのであれば、旅行や家の改築、クルマの購入といった少しまとまったお金が必要になった時に引き出せばいいだけのことです。
海外旅行資金は投資信託を売却してつくる
ちなみに私の夫は現在71歳ですが、60歳で会社を定年退職した頃から積み立て投資を始めて、現在も続けています。たまに夫婦で海外などに旅行へ出掛けますが、その際には積み立てている投資信託を売却して、そのお金を使っています。
相場の暴落があれば、その年は近場に1泊2日くらいの旅行に変更になることもあります(笑)。本人は90歳までに自分のお金は使い切ると言っていますが、それはたぶん無理で、いくらかは残ると思います。別に無理して使い切る必要もありませんが、根拠のない老後の不安を抱えてお金を使わずじっとしているのもばかばかしい話です。
シニアにとってNISAは、そうした楽しみの原資となる資産を管理する器として活用するのが理想ですし、自然だと思います。