今やテレビや講演で引っ張りだこの経済アナリストの馬渕磨理子さんは、実は自他ともに認めるコミュ障だ。そのため、人前で話すことにかけては人一倍努力をしている。中でもプレゼンや講演で、どうしても緊張してしまうときの対処法は効き目抜群だという――。

コミュ障だからこそできる解説がある

私はこれまでに、取材や打ち合わせなどで2000人以上の経営者やビジネスパーソンとお話ししてきました。ありがたいことに、講演やテレビの討論番組など大勢の人の前でお話しする機会も数多くあります。

でも実は、話すことは大の苦手です。コミュニケーション能力も決して高くありません。自他ともに認める典型的な「コミュ障」で、医師からもコミュニケーション障害だと診断されています。

経済アナリストの馬渕磨理子さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
経済アナリストの馬渕磨理子さん。以前は人と話すだけで息があがることもあったという

以前は、誰かと話すときは常に緊張状態で、息があがってしまって言葉が出なくなることもありました。この点は、自分を隠さず自然体でいようと開き直ったこと、そしてアナリストとして「コミュ障だからこそ世の中の事象をわかりやすく簡潔に解説しよう」と意識を変えたことでカバーできるようになりました。

それでも人前で話すとき、特に講演の前は今でもひどく緊張します。どれほど準備や練習をしても、いざ登壇するとなると手足や声が震えてしまうのです。コミュ障を何とかカバーできるようになった後も、この登壇前の緊張だけはどうしてもコントロールできませんでした。それが、講演に備えて3つのことを実践するようにしたら緊張を断ち切れるようになったのです。

緊張を断ち切る3つのステップ

1つ目は、緊張するシーンの前に手足をブルブル震わせること。気持ちと裏腹に震えてしまう前に、自分で物理的に震わせてしまおうというわけです。これを実践し始めてからは自分で緊張をほぐせるようになり、大勢の前に出ても震えることはなくなりました。今も、舞台に出る前には入念に手足をブルブルさせています。

この際、「アー、アー」と声を出して喉も一緒に震わせておくと、声の震えもなくなります。プレゼンなどでどうしても緊張してしまうという人は、試しに取り入れてみていただけたらと思います。

2つ目は、徹底的に準備すること。話す内容や資料は事前にしっかり整理して、頭に叩き込んでおくようにしています。そうすると、緊張したときも「これだけ準備したんだから大丈夫」という思いが支えになってくれるからです。

とはいえ、以前はいざ登壇すると緊張と震えで頭が真っ白になり、言いたいことが言えなくなってしまうこともありました。この点は手足や喉を震わせることでコントロールできるようになったので、その運動と事前準備は私の中で「講演前に必ずやること」としてセットになっています。

3つ目は、話し方を学ぶことです。前述の通り私は話すことにコンプレックスがあり、どもりやすいのも悩みの種でした。なかでも最大の悩みは「言葉がもたない」ことで、これが緊張の原因にもなってしまっていました。執筆の仕事で言葉を書くことはできるようになったものの、話すとなると語彙ごいが続かず、何をどう伝えようかと迷っているうちに話が終わってしまっていたのです。

そこで「きちんと自分なりの言葉を持とう」と決心し、話し方のレッスンを受けることにしました。2年ほど前に始めて、今も毎月1回、自分が伝えたいことをちゃんと整えて外に出すためのレッスンを受け続けています。

20代のころは自己紹介ができず悩んでいた

学んでいるのは演説や討論のスキルではなく、落ち着いて自分の言葉で話すためのスキルです。これを実現するには、言葉や話し方を磨くほかに、話す中身を持つことも大事ですよね。そう気づいてからは、「自分なりの考えを持とう」という思いがより強くなりました。

馬渕磨理子さん
撮影=プレジデントオンライン編集部

ネットや人から見聞きした情報に加えて「自分の考え」を伝えようと思ったら、専門性を高めながら幅広い経験を積んでいく必要があります。こうした気づきがきっかけになって、勉強や仕事に取り組む際の意識もより高まったように感じています。

皆、何かしら苦手なことはあると思います。私の場合はそれが話すことで、20代のころには「自己紹介して」と言われても何も話せず、とても恥ずかしい思いをしました。自己紹介の仕方って学校では習わないですし、自分から学ばない限り誰も教えてくれませんよね。なぜ皆はできるのか、なぜ自分はできないのか、非常に悩んだものです。

今思うのは、苦手なことやわからないことは習えばいいということ。練習したり習ったりするのは、決して恥ずかしいことではありません。自己紹介も、以前はアピールしすぎることなく柔和な雰囲気で話せる人をうらやましく思うだけでしたが、今では練習すればできる、むしろ練習しておくものだと考えています。実際、自宅では鏡の前で大真面目に自己紹介の練習をしています。

どうメンタルを整えるか

一方、メンタルをどう整えるかという点も、自分なりにずっと模索してきました。仕事には緊張だけでなくイライラもつきものです。私は、仕事でうまくいかないことがあったときは、内心イラッとしても「怒らない」「不満や愚痴を言わない」「いったん持ち帰って自分に非があったかどうか考える」と決めているのですが、実はこれ、結構メンタルにきます。

その点も何とかしたいとずっと思っていて、最近になって自分なりの解消方法を見つけました。イライラしたり思い詰めたりし始めたら、溜め込んでしまう前に少し時間をとって運動をするようにしたのです。

心が荒廃している状態で自分の非に向き合うのはよくないですから、ストレッチやヨガなどをして血流をよくし、心も体もいったんフラットな状態に戻してから熟考に入る。私にとっては、これが心の健康を保つうえで大いに役立っています。皆さんにも、自分なりの「フラットに戻れる方法」をひとつ持っておくことをおすすめしたいです。

忙しくても、心が荒廃しないように

もうひとつ、忙しさへの対応も大事ですね。多くの仕事をこなせばそれだけ自分の幅が広がりますし、成長にもつながるのですが、あまりに忙しい時期が続くとどうしてもメンタルに悪影響が出がちです。

馬渕磨理子『収入10倍アップ超速仕事術』(PHP研究所)
馬渕磨理子『収入10倍アップ超速仕事術』(PHP研究所)

忙しい中でも心の健康を保つためにはどうすればいいのか。私の場合は、自分が「好きだな」と思える仕事の割合を、ある程度確保しておくようにしています。どんな仕事も大好きでやりがいを感じられるならそれに越したことはないのですが、ビジネスにはそうでない作業もつきもの。すべての仕事を好きになれるかといったら、それは幻想だと思います。

ですから私は、例えば自分の成長が感じられる仕事、好きな人や尊敬できる人との仕事などを、できる限り一定の割合で確保できるよう心がけています。忙しい中でも光が感じられるような、心がときめく時間を守っておく。こうすることで、心が荒廃しにくくなったなと実感しています。

私が代表理事を務めているシンクタンク、日本金融経済研究所での仕事もそのひとつです。今は日本企業の企業価値をどう高めるかについて大学との共同研究を進めていて、大きなやりがいを感じています。ここでの仕事は自分のコアとして、またライフワークとして、これからも大事にしていきたいと思っています。

また、書籍の執筆も大事にしている仕事のひとつですね。ニュースだけを伝えるのに比べて3段階ぐらい思考を深める必要があるので、時間も労力もかかりますが、そのぶん完成したときの満足度はとても高いです。こうした満足感や成長実感が得られる仕事は、どんなに忙しくなっても大事に守っていくつもりです。

「ときめく仕事」は、全体の何割を占めているか

皆さんも、忙しさでストレスが溜まりそうになったら、一度自分の仕事を整理してみてはいかがでしょうか。「ときめく仕事」と「ときめかないがやらざるを得ない仕事」というように分けて、全体の中で前者が占める割合をしっかり守るようにするのです。

楽しみだな、待ち遠しいなという思いは、そうでない仕事にも取り組む元気をくれるもの。自分の中で整理ができたら、ときめかない仕事に関しては合理化や効率化を進めていけるといいですね。

そして、整理する際にはぜひ自分の感覚を大切にしてください。周囲の期待に過度に応えようとしたり、苦手な部分を隠そうとしたりすることなく、自分の気持ちと正直に向き合いながら整理していくことが大事かなと思います。