円安の恩恵で日本の美術品が高値で売れている
いまお金持ちはこぞって絵画を売却しています。特に現代美術のような世界の投資家が注目する分野の作品が多くオークションに出品されています。円安でドル建ての価格が上昇しているからです。
たとえば、葛飾北斎の浮世絵や草間彌生さんの作品のように世界中の投資家に人気の作家の作品はドルでも取引されています。そのため、いまのような円安では価格が上昇します。そうした作品を保有しているお金持ちは、「円安の間がチャンス」と考えて売りに出しているのです。
私も時折国内のオークションで売買をしますが、最初に参加したのは2017年ごろでした。当時の為替レートは1ドル115円前後でした。いまは、1ドル148円程度です。海外でも人気の作家の絵画は、価値が当時と変わっていないとしても、為替レートの影響で約3割増しの売却代金を手にすることが期待できます。
オークションハウスの取引額は2~3倍に
その影響もあって、オークションハウスの取引額も上昇しています。2014年当時は、小さなオークションハウスの場合、1回のオークションで取引される金額は1億円程度でした。それがいまは2、3倍になっています。1枚の絵が円換算で数百万円、数千万円で取引されることもあります。海外の大手オークション会社のクリスティーズなどでは珍しくありませんが、国内の小さなオークションではこれまでにないことです。
この人気がどこまで続くかわかりませんが、少なくとも円安が続いている間は同じ状況でしょう。
絵をコレクションしているようなお金持ちは、買っても手放さないイメージがあるかもしれません。ルノアールのようなごく一部の有名画家であれば、長期で持ち続けていれば、さらに価値が上がることもありますが、そうでない画家の場合はブームが来て急に高値に取引されることもあります。とくに現代美術はその傾向が強いので、そのときには売り抜けた方がいいかもしれません。その意味では株式投資と似ています。
国内の主なオークションハウスは5社
お金持ちがよく売買をしている国内のオークションハウスにはいくつかありますが、最大手は毎日オークションです。2位がシンワオークションです。この2社が国内では断トツのトップ2社で業者間取引でもよく利用されています。
ちなみにシンワオークションの持ち株会社であるSHINWA WISE HOLDINGSは東証に上場しています。
ほかにも中堅のオークションハウスとして、iART auction(アイアート株式会社)、SBIアートオークション(SBIアートオークション株式会社)、マレット アートオークション(株式会社マレット ジャパン)などがあり、それぞれ得意分野があります。
毎日オークションは毎月オークションを開催しているので、出品される数も膨大になります。売り手も買い手も膨大な人数が参加しますが、こだわりの一品のようなものは、あまり出品されません。
画商が手元にある絵画を処分するときに利用するケースなどが多くあります。あるいは、相続の際に業者が引き取った絵画を換金するために出品するケースもあります。そのため、業者間の売買が非常に多いのです。シンワオークションも同じです。
iART auctionは元が個人のコレクターがつくったオークション会社なので、こだわりの作品が出品されるケースも多くあります。SBIアートは、現代アートのみ扱っています。「国内で現代アートを売買するならSBI」と言われるほどの地位を築いています。
実家に眠るお宝を発掘
地方に実家が残っている場合には、お宝が眠っている可能性があります。絵画や掛け軸、陶器などの美術品が残っていれば、高く売れる可能性があります。相続したまま放置されているものなどがある場合、この機会に確認してみるのもいいでしょう。
実家に美術品などが残っていても、多くの場合は古物商に引き取ってもらうことになります。すると、価値のあるものが含まれていて「全部まとめていくら」と二束三文の価格にしかならないことが多いでしょう。オークション会社に情報を送って査定してもらえば、エスティメートと呼ばれる見積もりを出してくれます。その時点の相場を考慮して「この程度で売却できるだろう」という価格の目安を教えてくれるのです。その前に本物かどうかを鑑定に出す必要があるケースもありますが、オークション会社がサポートしてくれます。
画商に「よくて10万円」といわれた絵が80万円で売れたことも
普通は面倒だと思ってそこまでしません。しかし、後になって「安く買いたたかれたのではないか」と後悔したという話も聞きます。何十万、何百万になるかもしれないお宝が眠っている可能性は十分にあります。それでも古物商に依頼すれば数千円、数万円で引き取られてしまうかもしれません。
鑑定の申し込みはオークション会社のサイトから情報を送って、写真のデータをアップできるようになっています。オークション会社には現代アート、洋画、掛け軸、びょうぶ……とそれぞれの担当がいますので、振り分けてくれます。
画商に持ち込むのも注意が必要です。私自身も「この絵は古い絵だから高く売れませんよ」などと言われてだまされそうになったことがあります。
画商に「良くて10万円」といわれた絵をオークションに出したところ80万円で売れたこともありました。画商も商売ですから、安く買い取ってもうけようと考えたのでしょう。よく話をして、信頼できる画商を見つけましょう。
画商以外にも「現金で買い取ります」「売却の代理をします」という業者もありますが、安く買いたたかれないように注意してください。
相続の立ち合いで見つけたお宝
以前、相続で実家の残置物のチェックに立ち会ったことがありますが、掛け軸が山積みになっていました。よく見ると、日本画壇の巨匠と言われた川合玉堂の掛け軸が混ざっていました。
相続人は「こんなの二束三文だから」と言っていたのですが、「鑑定してもらったら価格がつくかもしれませんよ」とアドバイスをしました。三越で買った履歴が残っていましたから、本物の可能性が高いと思いました。版画なのかもしれませんし、結果はどうなったかわかりませんが、そうしたお宝は意外に多いはずです。
本物かどうかがわからないときはオークション会社が美術品鑑定や作者に照会をかけてくれることもあります。美術品鑑定には費用がかかりますが、本物であればある程度の価格が付く可能性が高くなりますし、偽物とわかればがっかりしますしスッキリもします。
お金持ちも円安のうちに、とにかく売りたいと考えているはずです。少しでも高く売るためにいま急いで出品しています。年末に帰省した際などには、お宝が実家に眠っていないか、確認してみてはどうでしょうか。