上司や先輩などから怪しい投資話を持ち込まれたときにどうすればいいか。ファイナンシャルプランナーの藤原久敏さんは「できない理由ではなく、できる理由を提示することで円満に断ることができる。しかもこの手法はさまざまなものに応用できる」という――。
契約を勧めるビジネスマンと断る顧客
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「できない理由」「やらない理由」は逆効果

怪しい投資話を断るのに、とくに理由はいりません。

ただ一言、「投資しません」と言えばいいだけです。それが電話セールスであればガチャ切りでもいいわけで、DM等であれば無視でかまいません。

ただ、勧誘してくる相手によって、そうはいかないケースもあります。

上司、先輩、親戚、お世話になっている人など、これからも関係が続くような人に対しては、無下に断ることは難しいですよね。

ただ、無下に断りづらいからといって、「できない理由」「やらない理由」を言って断ることは、避けたいところです。

なぜなら、その手の断り文句に手慣れた人であれば、その理由をつぶしにくるからです。

たとえば、よくある投資話の断り文句として、「お金がないから」があります。

これについては、「毎月1万円からの積み立てなので大丈夫、1万円ならなんとかなりますよね」「定期収入があれば、低金利でローンを組むことができます」など、その解決策を示されてしまう可能性が高いです。

そうなると、また、その解決策を断る手間が発生してしまうわけです。

また、「では、いくらくらいなら投資できますか?」などと切り返されると、それに答えなければならず、話は広がってしまいます。

さらには、「お金がないからこそ、お金を増やすために、投資をするべきです」などと諭されるきっかけを与えることにもなり、そうなるとますます面倒ですね。

「できない理由」をつぶされると、もう、断れない

「家族が反対しているから」には、「投資はご自身の意思でやるものですよ」
「その投資商品のしくみがよく分からないから」には、「どこが分かりませんか? 納得いくまで、しっかり説明させていただきます」

などなど、できない理由を言ってしまうと、いくらでも、食らいつく口実を与えてしまうことになりますよね。

そして最終的に、そのできない理由をつぶされてしまうと、もう断る理由がなくなってしまうので、断り切れなくなってしまうのです。

実際、「お客さまの、断る理由を聞け」「そして、その理由を解決しろ」といった営業ノウハウは有名ですし、中には、「断られてからが、勝負だ」のように、営業される側からすれば、ハタ迷惑な営業マニュアルもあると聞きます。

なので、できない理由を言ってしまうことは、むしろ、そんなセールスの手助けをしているようなものなのです。

「できない理由」ではなく、「できる条件」を示す

そこでお勧めなのが、「できない理由」ではなく、「できる条件」を提示することです。

勧誘されている投資話をそのまま受け入れるのではなく、たとえば、「一口1万円なら」「過去、年間平均5%以上のリターンを上げているなら」のように、「もし、○○であれば、検討してみる」といった条件を出すのです。

そして、その条件は、ちょっとやそっとでは実現できないくらいに、相当高いハードルに設定することです。

そんな投資話があれば、誰もが飛び付くような、虫の良い条件でもいいでしょう。

そのように、こちらから条件を提示することで、無下に断っているわけではないことをアピールできるわけです。

そして、その条件が難しいとなれば、それは「こちらが断った」ではなく、「条件が合わずに投資できなかった」となり、相手との関係も気まずくならないわけです。

さらには、勧誘してきた相手に、「要望をかなえてあげることができなかった」という負い目を負わすこともできるかもしれませんね。

ミーティング
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相手にボールを預けて立場を逆転させる

実際、私もこの方法を、大いに活用しています。

以前、かつてお世話になった人から、とある海外ファンドへの投資を勧められました。

一口50万円からで、コンスタントに年率20%を超えるリターンをたたき出しているようですが、どう考えても怪しさ満点で、これはお金をドブに捨てるようなものだと直感しました。

ただ、その人との関係は今後も続くので、無下に断るのは避けたかったわけです。

そこで、「一口5万円なら」「最低5%のリターンを保証してくれるのなら」との条件を提示しました。

その際、「できることなら、より高いリターンの保証がほしいですが、さすがにそれは無理でしょうから、せめてその2点だけはお願いしたいのですが、なんとかなりませんか」と、こちらもかなり譲歩している姿勢をアピールしながら。

このように、こちらから条件を提示することで、勧誘を受けている立場(ボールを預けられた立場)の私ですが、逆に、相手にボールを預けている立場となり、立場逆転するわけです。

結局、やはり(というか思惑通り)、最低でも一口50万円は規定なので、これはどうしようもないとのこと。

そして、投資である以上、リターンの保証はできないとのことで、これも思惑通りでした。そしてお互い、これは仕方ないね、とのことで、スムーズに断ることができたのでした。

投資話以外にも、応用が利く

ちなみに、この「できる条件を提示する」というテクニックは、投資話の勧誘だけでなく、いろいろと応用が利きます。

たとえば、保険の勧誘を受けた際、それを無下に断ることができない場合には、「お金がないから、無理なんです」などと言ってしまうことは多いかと思います。

しかし、それには「お金がない人に万一のことがあれば、遺された家族はどうなりますか? お金のない人こそ、保険に入るべきです。これを機に家計を見直して、保険料を捻出してみませんか?」などと、食いつかれてしまう可能性がありますよね。

その際には、「○○年後に解約返戻金が××万円あれば、加入したい」「保険料が○○円以下で、死亡保険金が××万円あれば、加入したい」など、これなら加入するとの条件を、こちらから提示すればいいわけです。

そしてもちろん、その条件を満たす保険は、誰もが加入したい夢のような保険であることは言うまでもありません。

借金の申し込みにも、うまく対応できる

あと、私はこの「できる条件を提示する」ことで、借金の申し込みをうまく断ったことがあります。

数年前、とある人から、「お金を貸してくれ」と頼まれました。

その人は、無下に断れない関係性の人というよりも、貸してくれるまで引き下がらないような、強引かつ面倒な人でした。

実際、「嫌です」「無理です」と言っても、「なんで?」と理由を聞いてくるような人でして、貸せない(貸したくない)理由を言っても、なんだかんだ言って引き下がりません。

当然、周りからは疎まれていましたが、諸事情があって縁を切ることが難しく、皆、へきえきしておりました。

そして、その人がついに、私のところにも、お金の無心にやってきたのでした。

そして、この場合にも、「できる条件の提示」は、大いに効果を発揮したのでした。

まず、借用書は「公正証書」で作成することを条件としました。

公正証書とは、公証人に作成してもらう書面で、裁判なしで強制執行ができるくらいに非常に強い効力があります。

これは借りた側には相当なプレッシャーで、公正証書の説明をすると、彼は若干難色を示しました。

そして、もし返済できない、返済が遅れるとなれば、その顚末てんまつは、セミナーやコラムなどのネタにさせていただきたいとの条件を出しました。私の仕事が、お金に関する講演や執筆メインなので、そこで体験談として披露させていただいてもよいかと打診したわけです。

これには相当な難色を示しましたが、こちらとしては、それは譲れない条件であることを伝えました。

そして、その2点さえ承諾いただければお金を貸しますよ、と、逆に、こちらから貸し付けの申し出をしているかのような状況にして、相手に判断を委ねる形に持っていきました。

結果、彼から「それなら、もういいです」と、借金申し込みの辞退を引き出すことに成功したわけです。

相手が条件をのむこともひそかに期待

前述の通り、こちらが提示する条件は、相当高いハードルを設定します。

なので、その条件が実現することはまずあり得ないわけですが、その可能性はゼロではありません。もし、相手が、その条件をのむようなことがあれば、また、その条件を満たすような商品があれば、それはそれでラッキーと思っています。

たとえば、先ほどの「公正証書の作成」「返済トラブル時にはセミナー・コラムのネタにする」といった条件については、相手が受け入れる可能性も、わずかながらあったわけです。

もし受け入れてくれたのなら、それはそれで、仕事のネタになるのでラッキーと思っていました。

また、IPO(新規公開株)の勧誘を受けた際には、私はいつも、「これまで貴社で取り扱ってきたIPOで、実際に上場した銘柄があるのなら、検討する」との条件を出しています。

実際、そのような実績のある業者であれば、勧誘してきたIPOが上場する可能性はまったくゼロではなく、もし上場が実現すれば相当な利益が期待できるので、投資してみる価値はあるとの判断です。

ただ、残念ながら今のところ、この条件を叶えてくれる業者は一社もありません。

このように私は、「できる条件を提示する」ことで、無下に断れない話を断りつつも、実はひそかに、その条件をのんでくれる案件があることにも、淡い期待を抱いております。