指針が示されて27年、なぜ実現しないのか
日本の男女平等は遅々として進まず、先進国で最下位だと言われ続けています。
私が訴え続けている選択的夫婦別姓についてもそう。何年かかっているかご存じですか? 27年です。27年も状況は変わっていません。ですがその状況も、あと少しで変わると私は見ています。自民党が変わりつつあります。
それについては、後でお話しするとして、選択的夫婦別姓がなぜ必要なのか、必要なのになぜ実現にこんなにも時間がかかっているのか、そこからお話ししていきましょう。
そもそも日本では民法第750条によって、婚姻の際には、男性か女性かどちらかの姓を名乗ることが定められています。世界広しといえども、夫婦同姓が義務づけられているのは日本しかありません。
1970年代から、国連の女性差別撤廃委員会から日本の夫婦同姓の強制は差別的であり、法改正すべきだという勧告をたびたび受けてきました。そこで1996年に法制審議会が選択的夫婦別姓制度を含む「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申しました。しかし自民党の保守層からの反対があったため、国会提出は見送られました。
そこから27年。いまだに国会で議論すらできていません。
法律が早くつくれる2つの条件
私自身、国会議員という法律をつくる仕事に30年間携わっていますが、法律が早くできるには条件があると思っています。大きくは2つ。
一つは、何か事件や事故による大きな苦しみや悲しみを、国民が目の当たりにしたとき。世の中の関心が高まり、その勢いで法案成立に向けて進んでいくパターンです。もう一つは、男性にとって大切だと思われること。たとえば、これは法律ではありませんが、禁煙外来やメタボ外来などの保険は、あっという間に適用されましたが、不妊治療の保険適用は、なかなか進みませんでした。衆議院議員の9割、参議院議員の7割半ばが男性議員なので、やはり男性が自分事として、その痛みなり苛立ちなりを受け止められるものは進んでいくんです。
夫婦同姓で世の中のほとんどの男性は困っていない
夫婦同姓で、痛みや苛立ちを受けるのは圧倒的に女性です。夫婦のほとんどが、夫の姓を選ぶのが現状だからです。
女性は改姓によって、銀行口座や公共機関などでの名義変更の手間を負うし、通称の旧姓と戸籍上の姓の二重管理といった煩わしさを強いられる。結婚や離婚などのプライベートをわざわざ公にすることにもなる。女性ばかりが大変な不利益を被っています。
他にも国会議員に立候補する際の届出書類に書く名前は、戸籍上の氏名です。選挙で有権者の方に書いてもらう名前と、議員としてポストに就くときの名前が違う。「誰、この人?」と思いますし、私自身それがいいとは思っていません。
我が家の場合、夫には仕方なく野田姓になってもらっていますが、「早く別姓にしてほしい」と、言われています。
私の夫は困っている当事者ですが、夫婦同姓は、男性議員も含めて世の中のほとんどの男性は困っていない。だからその痛みや苛立ちを理解できず、法制化が進まないということです。
「家族の一体感が失われる」と反対する自民党保守層
そういった男性議員の無関心に加えて、自民党の保守層の根強い反対も、法制化が進まない大きな理由の一つです。反対している議員は、1996年の民法改正案の答申から、ずっと反対。何をやっても反対。交渉の余地がありません。
彼らが挙げる理由の多くは「家族の一体感が失われる」というものです。夫婦と子どもが同じ姓を名乗ることで、家族の絆や連帯感が生まれるという、日本に昔からある保守的な価値観からきているものですが、現在結婚件数の3組に1組の夫婦は離婚している時代です。夫婦同姓だから家族の一体感が生まれるというものでもないですよね。また、男性議員だけでなく、ほんのわずかですが、正面切って夫婦別姓に反対する女性議員もいます。その人たちによって「いや、女性たちは困っていない」というミスリードをされてしまうのは困ったことです。
国民も無関心
夫婦別姓に対する無関心は、議員ばかりでなく、国民も同じです。無関心というより不熱心。
また少子高齢化社会である日本では、夫婦同姓の中で生きてきて、それが常識だと思っている高齢者が多く、世論調査をすると、この厚い層の人たちによる反対意見が多く出てしまうということになります。
若い人たちのために多様な社会をつくるという発想より、自分たちが同姓で生きてきたことを否定されたくないという気持ちが強いのだと思います。
通称使用は国際社会で通用しない
最近、この折衷案として「通称使用を拡大しよう」という動きになっていますが、実はこれが法制化のブレーキになっていることも事実です。
通称使用は法律ができるまでの暫定措置のはずなのに、企業がどんどんそれを進めて広げていくと、働くという世界の中では、どんどん不都合がなくなっていく。仕事をするうえで、通称使用に不自由がなくなっていくと、「このままでいいんじゃないか」という停滞感が出てくるわけです。しかも今、よくないことに、通称使用を法制化しようという動きまで出ています。ですが通称使用は、二重の姓を認めることになり、国際的には通用しません。通称使用はゴールではないんです。ゴールは選択的夫婦別姓の法制化です。
女性の不都合の解消は国の不都合を解消すること
選択的夫婦別姓を進め、女性の不都合を解決することは、国の不都合を解決することにもなる。女性にとって生きやすい環境をつくらなければ、この国の抱えている、最も深刻で重大な少子化問題を解決することもできません。そのことに全議員、そして何より全国民に気づいていただきたいです。
2023年日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位で、過去最低の結果。各国では、ジェンダー政策を進めれば国が栄えていくことを理解していますが、理解していないのは日本だけです。国際社会の一員だと自負しているのであれば、国際社会の一員たる政策を進めるべきです。
コロナ禍で女性の就業者数が大幅に減少し、雇用や生活面で大変厳しい状況にある女性がたくさんいます。企業の経営者の方々には、女性が男性と同様にその能力をいかんなく発揮できる環境をつくり、男女間の賃金格差などを見直していただきたいと思います。女性が経済的に自立できれば、たとえ離婚してひとり親になったとしても、貧困に陥らずに済むはずです。現在企業では、女性の役員登用がゼロの会社は投資されなくなるということが常識になりつつありますが、そのようなわかりやすい指標ができたらいいですよね。
誰も傷つかないのに
改めてお伝えしたいのですが、別姓にするか、同姓にするかを自由に選べるようにするわけで、同姓を否定するものではありませんし、誰かを傷つける話ではありません。別姓を選ぶと「子どもがかわいそう」というのが反対派の意見ですが、現在結婚件数の3組に1組は離婚していて、苗字が変わる子どもはたくさんいます。逆にそういった意見は、親と苗字の違う人を差別することにつながる気がしてなりません。
夫婦別姓に賛成するなら選挙に落とすぞ
反対派の人たちの根底にあるのは「女性はこれ以上いばるな」という根強い思想もあると思っています。そういう人には、どんなことを言っても何を言っても、絶対に妥協しません。その証拠に反対派の団体は、何十年も前から選挙で落選運動を行い、「選択的夫婦に賛成するなら落とす」と圧力をかけることがあります。
このような話をすると、この制度に反対の議員ばかりが増え、法制化は絶望的に見えますが、最初に選択的夫婦別姓の議員連盟をつくったときに行動を共にしていた森山眞弓先生(故人)は「焦らないで。法律は変わるものだから」とおっしゃっていました。
また小池百合子さんが東京都知事になってから、女性でも行政のトップとして指揮を執ることができるということが証明されました。またこども家庭庁だって、私の構想から20年経って、ようやく創設されたのです。現状を変えるには、時間が必要だということです。
自民党内に変化の兆しが見えている
これからの時代の主役は女性です。私はそれがわかっているから、明るく生きていられます。まだ可能性があるって思うんです。
その兆しは、自民党の中にも見えています。これまでは安倍晋三さんという保守派の支柱があり、私も含めて、みんなが安倍さんのことをリスペクトしていました。安倍さんは専業主婦を大事にしていたので、夫婦同姓、配偶者控除の維持、移民反対などが、自民党の価値観になっていました。
しかし亡くなって一年が経ち、自民党の空気がだんだん変わってきているのを感じています。
私たち選択的夫婦別姓を望む議員も、引き続き努力していきますので、読者のみなさんも、少しずつでいいので、この制度に関心を寄せていただきたいと心から願っています。