汗と臭いのメカニズム
日本人の「体から発せられるにおい」いわゆる体臭に対する関心は世界的に見ても高いと言われています。自分ではわかりづらいけれど、他人に「今、自分…….臭くないかな?」と聞くことはなんとなく恥ずかしいもの。そのため、普段の会話で体臭の話題が出ることは決して多くありませんが、実は日本人男性の7割、女性では9割もの人が何らかの汗対策を講じているという調査結果(インテージ調べ)からも、その関心の高さがうかがえます。
夏場に気になる「汗のツンとした酸っぱい臭い(汗臭)」は、汗・皮脂・角質といったにおいの材料が、皮膚常在菌(微生物)に分解されることで発生します。そのため、もし仮に汗を全くかかない、あるいは皮膚常在菌が一切存在しなければ、汗臭を気にする必要はないというわけです。さらに皮膚常在菌は、汗の水分により皮膚上が高温多湿になった際に活性化します。
この汗臭発生のメカニズムに基づくと、汗は「①においの材料であること」「②水分で皮膚常在菌を活性化させること」の2つの要因をもって、汗臭の発生に寄与することがわかります。
主な原因は汗が皮膚常在菌を活性化させること
ただ、汗の99%はただの水。つまり汗そのものはほぼ無臭です。もちろん汗を舐めるとしょっぱく感じることからわかるように、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウムといった電解質や、それよりも微量のアミノ酸、乳酸、アンモニアなど、水以外の物質も汗には含まれますが、それらの占める比率はたかだか1%未満。
アンモニアは単体で臭気を有しますし、アミノ酸や乳酸は皮膚常在菌に分解されると不快な臭いに変化します。しかし、繰り返しになりますが、汗に占めるそれらの含有率は1%未満と微量なため、汗が汗臭の発生に寄与する2つの要因のうち、「①においの材料であること」の寄与度はそれほど高くないと考えられます。
つまり、汗をかくと汗臭くなることの主な原因は、汗の「②水分で(においを生み出す)皮膚常在菌を活性化させること」という側面に求めることができるのです。
制汗剤の仕組み
制汗剤は、デオドラント製品の1つです。デオドラント(deodorant)は、odorant(臭気物質)とde(打ち消しの意味)の組み合わせで、消臭剤や防臭剤を意味する言葉です。そのため、体臭ケアの文脈でデオドラントといえば「体臭防止剤」、つまり「体臭を防いだり抑えたりするためのもの」全般を指します。
そして、体臭を防いだり抑えたりするためのものであるデオドラント製品は、「防臭剤:体臭の発生を抑えるもの」と「消臭剤:発生した体臭に対処するもの」の2つに大別できます。この記事で取り上げる制汗剤は、体臭の発生を抑えるもの、つまり防臭剤に分類されます。
それでは、制汗剤はどのように体臭の発生を抑えてくれるのでしょうか。制汗剤が発汗を抑える主なメカニズムには、「皮膚表面(角質層)をギュッと締める収斂作用により、汗の出口である汗腺を狭める」「薬剤がプラグ(栓)を生成し汗腺に蓋をする」の2つがあります。全ての製品に当てはまるわけではありませんが、大まかには「スプレータイプの製品は収斂作用」、「スプレータイプ以外(クリーム、スティック、ロールオンなど)は汗腺に蓋をすること」で発汗を抑制するという理解で問題ないでしょう。
また、市販の制汗剤の多くは、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、ハロカルバン、塩化ベンザルコニウムといった殺菌成分が配合されています。これにより、制汗作用で汗の分泌を抑えると同時に、においを生み出す皮膚常在菌の働きを弱める効果も期待できるのです。
制汗剤は、このような仕組みで汗臭の発生を抑えてくれるのです。
「汗をかいた肌にシューッと一吹き」は意味がない
前述の通り、制汗剤は防臭剤の一種、つまり体臭の発生を抑えるものですので、既に発生してしまった体臭に対しては効果を見込めません。あくまでも汗臭の原因となる発汗を抑えるものであり、汗を消すものではないためです。
特にスプレータイプの制汗剤は、冷寒効果があり冷たくて気持ちいいからと汗をかいた後に使う方も多いと思いますが、体臭予防の観点からはその行為に意味はありません。せっかく制汗剤を使うのであれば、汗をかいたり体臭が発生した後で制汗剤を使用しても、それは無意味な行為となってしまう点はしっかりと理解しておきたいところです。逆に、汗をかいたり体臭が発生する前、つまりお風呂上がりやボディシート使用直後といった皮膚表面が清潔なタイミングで使うことで、制汗剤はその効果を最大限に発揮することができます。
気を付けたい「臭い混じり」
また、制汗剤を使ったとしても、毎回完璧に汗臭を抑えられるとは限りません。その日の活動や体調によっては汗臭くなってしまう可能性は十分にあります。その際、香りの強い制汗剤を使用していると、汗の臭いと混じり不快な印象を与えてしまう恐れもありますので、筆者個人的としては、制汗剤を選ぶ際は無香性や微香性の製品を選ぶことをおすすめしています。
さらに同じ理由から、すでに汗臭くなった後に香りの強い制汗剤を使うことは、前述の通り意味がないことに加え、臭い混じりの点からも避けることが望ましいです。
「汗臭い」がなくなる生活習慣
最後に、制汗剤の使用と併せて取り入れることで汗臭を予防できる4つの生活習慣をご紹介します。
まずは外出中にできることとして、汗をかいた際は放置せずにボディシートで体を拭くことが効果的です。ボディシートは汗を直接拭きとり、汗臭の発生を物理的に抑えてくれます。また、汗だけでなく臭いのもととなる皮脂や角質も同時に取り除くとともに、殺菌作用で皮膚常在菌の活動を弱める効果も期待できます。ただし、ボディシートは汗や皮脂と一緒に制汗剤も拭き取ってしまいますので、使用後はボディシートの薬剤が乾いてから再度制汗剤を塗布することを忘れないようにしてください。
もう一つ日中にできることとして、シャツや肌着を着替えることも有効です。「生乾き」と言うと洗濯直後の衣服から発生する臭いというイメージがありますが、着用中に汗や雨で濡れた衣服からも発生します。特に後者のケースを指して「戻り生乾き臭」と呼ぶこともあります。せっかく制汗剤やボディシートで体から発生する汗臭を抑えても、衣服のせいで周りの人から汗臭いと思われるのはとてももったいないことです。そのため、汗でずぶ濡れになった後、衣服が臭いを発する前に着替えられるように替えの服を携帯するとよいでしょう。
「戻り生乾き臭」を発生させない洗濯術
自宅でできることとしては、洗濯と入浴が挙げられます。汗臭対策としての洗濯は、衣服から前述の生乾き臭や戻り生乾き臭を発生しづらくすることに重点を置きます。それらの臭いの発生原因は概ね体臭と同じですので、「①汗や皮脂などの汚れをしっかりと洗い落とすこと」「②衣服に雑菌を繁殖させないこと」の2つがポイントです。
①には、皮脂を落とす効果が期待できるアルカリ性の洗剤を使用すること、②には、着用後に長時間放置するとその間に衣服で雑菌が繁殖してしまうため、着終わった衣服はできるだけ早く洗濯することが効果的です。
暑い日もシャワーだけで終わらせない
最後に入浴です。夏の暑い日はシャワーで終わらせてしまいたくなる方も多いと思いますが、湯船に浸かることで汗や皮脂といった汗臭の材料をしっかりと洗い落とすことができます。また、その際に使用するボディソープは、汗や皮脂を落とす除脂力の高さと、皮膚常在菌の働きを弱める殺菌効果の高さで選ぶとよいでしょう。
いかがでしたでしょうか。生理現象である発汗。それに伴い発生する「汗臭」は誰からも少なからず発生する体臭です。しかし、制汗剤を使ったり、今回ご紹介した簡単な生活習慣を取り入れることで汗臭を抑制することは可能です。ぜひそれらを無理のない範囲で生活に取り入れて、汗の臭いを気にせず夏を満喫していただければと思います。