東京慈恵会医科大学教授らによる調査で、日本人の98%が不足している栄養素が判明した。それが、骨の健康に関わるビタミンDだ。調査を実施した東京慈恵会医科大学の越智小枝医師は「将来の日本人の骨が危ない。このままビタミンD不足が続けば多くの人が骨粗鬆症に近づく」という――。
日焼け止め
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98%の日本人がビタミンD不足という衝撃

東京慈恵会医科大学と新橋健診センターの研究メンバーにより、2019年4月から20年3月までの期間に東京都内で健康診断を受けた5518人を対象にビタミンDの充足度を調査しました。その結果、健康な人の98%がビタミンD不足に該当していることが判明したのです(図表1)。

日本内分泌学会、日本骨代謝学会、日本整形外科学会が提唱するビタミンD基準濃度は30ng/mLです。それに対して、男性は7~30ng/mL、女性は5~27ng/mLと、男女問わずほとんどの人が基準濃度に達していないことが明らかになりました。

また、調査した成人の中でも年齢が低いほどビタミンD不足の割合が高いという結果が。高齢者よりも若年の働く世代のほうが、ビタミンD不足が深刻といえるのです。

【図表1】健診センター受診者の血清25(OH)D測定(N=5518)
出典=東京慈恵医学大学 ビタミンD調査結果 報道資料

ビタミンというと、ビタミンDよりもCやBの摂取を心がけている人が多いでしょう。あまり知られていませんが、ビタミンDは健康な骨を維持していくために、私たちにとってなくてはならない栄養素です。

そのためビタミンDが不足すると、カルシウムの吸収が減り、骨粗鬆症こつそしょうしょうや骨折のリスクが高まります。骨の老化の怖いところは、すぐには症状が現れず、骨がもろくなってトラブルが起きてから気づくこと。このままビタミンD不足が続くと、無言のまま骨の衰えが進行し、気づいた時には骨粗鬆症の一歩手前になる、ということも予測できます。

骨粗鬆症
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骨粗鬆症にはビタミンDだけでなく女性ホルモンも関係しています。閉経期に向かって女性ホルモンのエストロゲンが低下すると、急激に骨密度が低下します。30代の骨の太さ、強さが将来の骨粗鬆症や骨折リスクを減らすともいわれているため、若い頃からビタミンDを意識した生活を送ることが重要です。

ビタミンD不足は不妊や感染症の重症化にも影響

ビタミンDは骨粗鬆症以外に、男女の生殖機能や不妊との関係についても注目されています。ビタミンDの摂取で、男女ともに性ホルモンの分泌が高まる、妊娠率を含めた体外受精の成績が上昇する、反対に不足すると多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)により不妊の原因になりやすいことなどが、研究で明らかになっています(“Vitamin D and fertility: a systematic review”)。

そのほか、ビタミンDには免疫を調整する役割もあり、感染症に対する防御作用を高めて重症化を防ぐほか、血管の動脈硬化や自己免疫疾患の重症化予防、がんの死亡率が下がるといったこともわかってきました(東京慈恵会医科大学「ビタミンDサプリメントの摂取と癌の死亡率」報道資料)。

ビタミンDを産生しづらくなった現代人の生活

現代人のビタミンD不足が深刻な理由は、大きく2つ考えられます。1つは日光に当たる生活が少なくなったことです。ビタミンDは日光に当たると体内で産生される、特殊なビタミンです。

昔の人は日の出とともに起きて、一日中裸で過ごし、外で狩りや農業をしていました。それに比べて人間が服を着て暮らすようになってからは、生物としてのビタミンD不足のリスクは各段に上がったわけです。

しかも、“日焼け=危ない”という美白信仰によって日焼け止めを塗る生活が当たり前に。紫外線による皮膚への健康被害は、ある程度は注意すべきですが、全身をすみずみまで日焼け止めで覆ってしまうことで、皮膚で産生できるビタミンDが大きく減少したと考えられます。在宅ワークによって日中の外出がさらに減ったことも大きいでしょう。

もう1つは食生活の変化です。ビタミンDは一部の魚やキノコ類に多く含まれています。食事が欧米化したことで、昔の人に比べてこれらの食べ物からビタミンDを摂取する機会が減ったことが考えられます。

キノコ
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実際に今回の研究でも、検出されたのは日光由来もしくは動物性のビタミンDで、シイタケなどのキノコ類に由来するビタミンDはほぼ検出されませんでした。このように現代人の生活そのものが、ビタミンDを充足させる生活とは遠ざかっているといえます。

体の一部だけ日焼け止めを塗らずにビタミンDをアップ

ビタミンDを産生するためにもっとも手軽な方法は、日光に当たることです。しかし、女性の多くは紫外線を浴びることへの抵抗感もあるでしょう。

そのため例えば、顔や首はしっかり紫外線対策をして、腕や脚の一部は日焼け止めを塗らないといった方法で、ビタミンDを増やすことができます。1日数分でもいいので、外出をして日光に当たる時間をつくってみてください。

ビタミンDの摂取には焼鮭定食、シラスごはんを

ビタミンDが豊富な食べ物には、サケや干しシイタケ、シラスなどが挙げられます。日本人の食事摂取基準(2020年版)では、男女ともに1日8.5µgを目安に摂取することがすすめられています。

サケは1切れ(80g)で25.6µg、サンマ1尾(正味100g)で14.9µg、シラス干し大さじ2(10g)で6.1µg、干しシイタケ2個(6g)で0.8µg、乾燥キクラゲ2枚(2g)で1.7µgとなっています(公益財団法人骨粗鬆症財団「ビタミンDを多く含む食品」)。

シラス丼
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週に2~3回からでもいいので、焼鮭定食を食べる、ごはんにシラスをかけるなど、食事で工夫をしてみましょう。食べ物で毎日十分な量を摂取するのが難しい場合は、無理せずビタミンDのサプリメントを活用するのもおすすめです。

また、年齢を重ねても活動的に過ごすには、骨の強さに加え、筋肉量の維持も大切です。そのため日頃から、肉や魚、卵、豆腐といったタンパク質をしっかり摂り、筋肉を減らさない食生活を心がけましょう。

骨量は20~30代をピークにゆるやかに低下

カルシウムの吸収を高めて、骨の健康を維持するビタミンD。骨そのものに作用をして、骨の細胞を増やす働きのほか、反対に破骨はこつ細胞と呼ばれる骨を溶かす働きを抑制することもわかっています。

骨量は20~30代でピークを迎え、それ以降はゆるやかに低下していきます。低下するスピードが速いか遅いかは、現在の生活習慣がカギを握っています。

ビタミンD不足による骨の老化はほとんど自覚症状がなく進み、肌や髪の老化、体型の変化と違って目には見えないものです。「まだ先の話だから」と思わず、ビタミンDの力を味方につけて、力強く若々しい骨を今からめざしましょう。