年収300万円の人がを収入を上げるにはどうすればよいのでしょうか。10回転職したキャリアコンサルタント・中小企業診断士である森田昇さんは「年収アップのために副業や投資、はたまた起業に時間と労力とコストをかけるくらいなら、最高にタイパとコスパが良い転職を最初に実行するのが確実です」と言います――。

※本稿は、森田昇『年収300万円から脱出する「転職の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。

年収をアップするには転職がおススメ

年収アップには会社外で職種を変えなければなりません。ですので、最もおススメなのは、転職です。

転職という年収アップの解決方法を今までまったく考えたことがない。そういった人はほとんどいないでしょう。コロナ禍では約8割の人が「転職を考えた」というデータも、株式会社TalentX(旧MyRefer)による「コロナ禍の転職意向調査」で示されています。ところが、実際に転職をした人は1割のみと、「多くの人が考えたものの実行しない」という結果でした。

もちろん転職するしないは自由ですし、年収アップだけではない人生を変える1つの手段でもあるので熟考していただきたいのですが、実はその大半が「面倒くさい」という身もふたもない理由なのです。

履歴書を記入
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何もしないと収入は下がっていく

時間や労力をかける費用対効果を冷静に考えて「自分にはタイパやコスパが悪い」「このタイミングでの転職はリスクがある」「今の会社と仕事に十分満足している」と結論付けて転職しないのならまだしも、現状に不満や不安が大きいのに「面倒くさい」「変わるのがイヤだ」「我慢すればいい」といった現状維持思考の人は、厳しいことを言いますが年収を上げられません。「誰かがどうにかしてくれる」と他力本願で考えてばかりの人もまた、年収300万円から脱出できません。

「求人自体が年収300万円しかないんだが」「地方の求人なんてそんなものだぞ」「ハローワークや転職サイトにそれしかないんだ」「国や求人を出している会社は何を考えているんだ」「どうにかしてくれ」そんな切実な声が聞こえてきそうなので、だからこそ転職です。

求人は溢れているのに年収が低いものばかりなのは、そういった地方や業界の求人なので見なくていいです。テレワークの進展で地方在住のままでも首都圏の求人に応募できる時代になっていますし、様々な業界の求人もありますから、首都圏や今まで経験のない業界の求人もチェックしましょう。今のあなたを取り巻く状況だけで何とかしようとするのではなく、世界を広げて積極的に変化していかないといけません。

世界が狭いまま、同じ業界のまま、現状維持だけを考えて何もしないでいると、状況は悪くなる一方です。評価もされず、若手に追い抜かれ、収入が下がっていきます。

現状維持では生活は苦しくなる一方

国に頼ろうとしても助けてくれません。助けないどころか、私たちを将来にわたって苦しめる存在となりつつあるのが今の日本です。

サラリーマンの平均年収はここ30年で472万円⇒443万円(2021年)と減少しています。『週刊少年ジャンプ』の定価は190円⇒290円(2022年)と、物価は上がり続けているにもかかわらず収入が下がっているのは周知の事実ですが、サラリーマンが給料から天引きされる各種税金や消費税、保険料負担は増加しています。

このように、実質賃金としての年収が減少する中、社会保険料や税負担の増加で手取りの給料も減っているというのは非常に深刻な問題です。進展する少子高齢化による医療費負担増や、団塊の世代が後期高齢者になることでの介護保険の負担増等、給料から天引きされる金額の割合は今後も増え続けます。年収をアップさせない限り、現状維持のままでは手取りの給料が減り続けて生活は苦しくなる一方です。

サラリーマンは最も社会的に保障されている身分ゆえに、国は私たちを苦しめてきます。老後に貰えるはずの公的年金もどんどん減っていくので、「人生100年時代」まで長くなった定年後に備えようとすると、お金のやりくりはキツくなり続けます。会社の定年は60歳、65歳と上がり続け、今後は70歳、80歳、定年廃止と、生涯にわたって働き続けないと生きていけなくなるのだから。

銀行の通帳を見てびっくりした高齢者
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定年を迎えて「年金で余生」は夢物語

「だったら社会保険料を折半で負担してくれて雇用保険も払ってくれる今の会社を頼ろう。年収がそんなに上がらないといっても、年齢を重ねれば多少は増えるだろうし、ずっと働き続けられるし」そう思っている人は危険です。茹でガエル状態です。

会社の平均寿命は、もはや私たちのサラリーマン人生より短くなっています。大卒から定年まで、今の定年制度なら約40年間働くことになりますが、会社の平均寿命は23.8年(2021年に倒産した企業の平均寿命。東京商工リサーチ調べ)しかありません。ここ10年で創業された企業は20万社ありますが、逆に倒産した企業は9万社もあります。創業100年を超える長寿命の会社は日本全国で2%しかありません(帝国データバンク調べ)。

ただでさえ長くない企業の寿命は、テクノロジーの進化が加速している現代では、莫大な利益を生んだビジネスモデルが数年後には赤字に転落しているケースも珍しくないため、加速的に短くなっています。「終身雇用を守っていくのは難しい」と2019年にトヨタ自動車の社長が発言したとおり、1つの企業に長く勤め上げ、そのまま定年を迎えて年金で余生を過ごすという昭和の人生設計は事実上崩壊しています。夢物語となりました。

サラリーマンなら誰もが1回は転職する「大転職時代」を、私たちは生き抜く必要があります。もし会社が倒産したら、無職で放り出されてしまいますから。

悲しいことに、健康で文化的な最低限度の生活に必要な収入や雇用の確保に、国や会社は責任を負うことができなくなりました。そして、「これらの穴埋めは国や会社に頼らずに自分自身で頑張れ、それが自助だ」という意味で副業や投資を今になって推奨しているのだから本当にタチが悪いのです。これ、もしかして事実発表罪で捕まりますかね?

副業や投資はタイパもコスパも悪い

「タチが悪い」とまで言っちゃいましたが、なにも副業や投資自体を否定しているわけではありません。むしろサラリーマンなら積極的にするべきだと思っています。転職だけでは大金持ちにはなれません。会社に雇用されている限り年収の上限は決まっています。だから副業や投資で大金持ちになりましょう。そうそう起業もいいよね、なのですが。

そのためには正しい順番を知る必要があります。最初に転職、次に副業からの起業、最後に投資です。副業と投資を始めるにも、まず転職から始めるのがセオリーです。年収300万円のままで副業や投資を開始するのは、どちらも実にタイパとコスパが悪いのです。

お金の雨の下でラップトップコンピュータで働く成功したスマートな男の隣に座って赤い矢を下に落ちるのを見てストレス絶望的なビジネスマン
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簡単に稼げる副業はマイナスになることも

副業については、厚生労働省の「モデル就業規則」にも記載されて大企業のサラリーマンでも可能となったことから、始める人が増えています。「やらなきゃ損! 今すぐ副業を!」くらいの勢いですが、誰でも簡単に稼げるようになるわけではありません。

当たり前ですよね、本業でやっている人たちとの競争になるのですから。「誰でも簡単に稼げる副業」を謳っているものの中には詐欺案件か高額情報商材の売り込み案件も多く、まったく稼げないどころかマイナスになるので騙されないように。

副業の大事な視点は、「時給で考えてはいけない」ということです。時給で稼ぐのは単なる時間の切り売りですので、本業で残業したほうがマシです。せっかく大事な時間を費やすのだから、アンケートモニターやポイントサイトといったお小遣い稼ぎで疲弊するのはやめて、本業にも活かせるスキルや人脈、やりがいを手に入れましょう。

それと、「コストをかけない」ことも大事です。仕入れが発生するようなせどりや転売、はたまたネットワークビジネスは売れなきゃ損するだけです。

理想的な副業は、お金をかけず、在庫も持たずに、小さく始められ、ゆくゆくは本業以上の収入までコンテンツを育てられるスモールビジネスですが、育つまで時間がかかります。ブログアフィリエイトや動画編集、Webライター等、どれも月5万円の収入を定期的に得られるようになるまでには何百時間とかかります。

そんな時間を仕事以外の睡眠時間等を削って捻出するくらいなら、残業がなく疲れも溜まらないホワイト企業に転職して、時間と気力を確保できる環境整備から着手するべきです。副業に取り掛かれる時間と気力を生み出すためには、まず転職なのです。

というか、転職することで年収100万円上げれば月5万円の副業以上の収入を得られますから、無理に副業することはないですよねぇ。

簡単に稼げる投資は詐欺案件でしかない

投資については、国による政策で「つみたてNISA」の拡充も発表される等、リスクの少ない商品が登場したことで、始める人が年々増加しています。これまた「やらなきゃ損! 今すぐ投資を!」くらいの勢いですが、誰でも簡単に勝てるわけではありません。

当たり前ですよね、投資は最終的に資金力のある人間が勝つものですから。「誰でも簡単に稼げる高利率商品」を謳っているものは詐欺案件でしかありません、有名なポンジ・スキームです。投資額すべて持っていかれますから騙されないように。

理想的な投資は、「ドルコスト平均法でインデックスファンドへの積立投資」だと思います。詳しい説明は省きますが、『年収300万円FIRE 貯金ゼロから7年でセミリタイアする「お金の増やし方」』(山口貴大著、KADOKAWA)によると毎月5万円を利回り5%が可能なインデックスファンドで運用していけば、複利の力で30年後には4000万円以上となる計算です。

ギャンブル的な欲に目がくらんだ投機さえしなければ、日々の生活を助けてくれる資金を投資で創り出すのは決して不可能ではありません。

日本円記号と硬貨を持つ木製のブロック。
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投資の前にまず転職を

投資は統計的にも正しいのでおススメなのですが、いかんせん時間とコストがかかります。年収300万円の人であれば、月の給料はボーナスを除くと平均20万円前後。税金保険料等が天引きされると17、8万円ほどですが、その中から5万円も30年間積み立て続けられますか? と言われると相当の覚悟が必要ですよね。現実的ではないと思います。

食費等を無理矢理削って生活がカツカツになるくらいなら、無理せず稼げる業界に転職して、元手を確保できるよう年収アップから着手するべきです。投資にかけられる時間とコストを生み出すためには、まず転職なのです。

というか、転職することで年収100万円上げれば月5万円の投資資金は余裕で作れますから、無理に今の生活費を削らなくても投資は可能ですよねぇ。

起業は誰でも簡単に生き残れるわけではない

起業については、起業支援や身分保障の拡充といった個人事業主でも安心して働ける環境整備が進んだことで、フリーランスになる人が年々増加しています。「やらなきゃ損! 今すぐフリーに!」くらいの勢いですが(しつこくてすみません笑)、誰でも簡単に生き残れるわけではありません。

当たり前ですよね、あくまで仮説ですが創業者の3割は1年で、5割は3年以内に廃業する。10年後まで生き残っている創業者は1割程度と言われる厳しい世界ですから。前準備もなく「いきなり会社を辞めて独立」は絶対にやめてください。私が全力で止めます。

サラリーマンは最高です。毎月確実に給料が振り込まれますし、社会保険や厚生年金の半額を会社が負担してくれます。税金関係の作業もしなくて良く、住宅ローンやクレジットカードの審査も通りやすい。社会的な信頼性が高いのがサラリーマンです。

森田昇『年収300万円から脱出する「転職の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)
森田昇『年収300万円から脱出する「転職の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)

起業することにより、これらを一度すべて失います。さらに、軌道に乗るまでの数年間は時間と労力とコストも奪われ続けます。恐ろしいですよね。

会社は辞めずに、安定した身分と収入を得ながら時間をかけてじっくり考え、副業からスモールビジネスを育てていずれ起業できるようになるのがおススメです。今の年収が300万円だからって決してリスキーな行動をしてはいけません。

というか、転職することでサラリーマンという社会的に認められた身分のまま収入を上げられますから、無理に起業することはないですよねぇ。

というように、「年収アップのために副業や投資、はたまた起業に時間と労力とコストをかけるくらいなら、最高にタイパとコスパが良い転職を最初に実行するべし」という結論になるのです。