株主総会に参加すると、投資に値する会社や応援したい会社を見つけやすくなる。気になる会社が見つかったら、試しに買って株主総会に出席してみるのもいいだろう。渡部清二さんは「いま勢いのある業界や業界で注目を集めている事柄などを知る機会となり、それが投資のチャンスにつながる」という――。

※本稿は、渡部清二、複眼経済塾『株主総会を楽しみ、日本株ブームに乗る方法』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

ChatGPTなどのAIビジネス利用
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株主総会に参加すれば業界の最新事情の一端がかいま見える

株主総会での社長の発言から、ときに業界の最新事情の一端がかいま見えることもあります。たとえばAIアルゴリズム開発などを手掛けるPKSHAテクノロジーの株主総会に参加したときは、こんなことがありました。

社長の上野山勝也氏は、日本における人工知能研究の第一人者・東京大学の松尾豊研究室の出身で、AIにも当然、深い見識を持っています。そこで上野山社長に「仲間同士で、いま何が話題になっていますか」と質問してみました。

すると「ChatGPTのようなAIです」という答えが返ってきました。「グーグルの人たちが戦々恐々としている。なぜなら、これが普及してしまったら、もう誰も検索しなくなり、広告ビジネスが成り立たなくなる」というのです。

2022年11月の話です。案の定、それから3カ月後には、猫も杓子もChatGPTについて取り上げるほどで、世界中この話題で持ちきりです。株主総会は時代を知るうえでも有益な場であると、あらためて思いました。

株主の疑問を解消してくれた技術担当役員の一言

もう1つ、データセンターサービスを行うブロードバンドタワーの株主総会でも、同じようなことがありました。今後スマートシティやAR(拡張現実)、VR(仮想現実)などが普及すると言われます。いずれもデータセンターで膨大なデータを管理することが必要になります。ニュースなどを見ると、NTTドコモが6Gの商用化を数年前倒しするとか、これにKDDIも乗るなどといった話もあります。

にも関わらずこの会社では、いまだに「5Gイノベーションズ」をうたっています。ブロードバンドタワーは時代とズレ始めているような気がしました。

そこで「外部環境が急速に変わっている中で、御社としてはどのような取り組みを行っているのでしょうか」といった質問をしました。すると技術担当役員の樺澤宏紀氏が出てきて、次のように話してくれました。

「確かにそのとおりです。先ほども待合室で、これからは宇宙にデータセンターができるかもしれない。そのときに問題となるのは消費電力ですね。そんな話をしていました」

次世代に向けての問題意識はしっかり持っているわけで、質問してよかったと思っています。同様の疑問を感じていた他の株主も、樺澤氏の発言を聞けてよかったのではないかと思っています。

株主総会後の事業説明会で感じた社長の熱意

株主総会のあと、あらためて事業説明会などを行う会社もあります。この事業説明会が印象的だった会社もあります。メディアフラッグの名で創業し、のちに社名変更したインパクトホールディングスも、そうした会社の1つです。

もともとはスーパーなどで値段をデジタル表示するタグなどのデジタルサイネージと、覆面調査を行う会社でした。それが突然インドでコンビニ事業を始めるという話が会社四季報に載った頃の話です。

あまりに唐突な話で、株価もそこから大暴騰していきました。真意を探ろうと株主総会に出席したところ、福井康夫社長の説明はデジタルサイネージや覆面調査で得た小売りのノウハウを生かして、インドにコンビニエンスストアを出すというものでした。

びっくりしたのは、株主総会が終わると福井社長が壇上から降りてきて、参加者全員に名刺を配りだしたのです。こんな光景を見るのは初めてで、事業にかける熱い思いを感じました。

コンビニの存在しないインドマーケットの魅力

その後、事業説明会が開かれましたが、これが非常にインパクトのあるものでした。

進出にあたり、インドの大手財閥と手を組むという話で、インドは人口が多いだけでなく、まだコンビニが存在していないため、そのマーケット規模はとてつもなく大きいとのことでした。

ジョードプル市場でのラッシュ(インド)
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あとで聞いた話では、インドのコンビニ事業は、その後、二転三転して非常に苦労したようです。一因として、共同開発をもちかけたインドの財閥の娘婿が、突然自殺してしまったことがあります。株価もストップ安にまでなり、さらにコロナ禍も相まって、インドどころではなくなってしまいました。

このときに社名もインパクトホールディングスに変えたのです。その後、MBO(経営陣による買収)で株式を非公開にしたので、もう株は持っていませんが、あのときの事業説明会の社長の姿は忘れられません。

「またやってくれる」という期待を感じさせた若手社長

同様に社長が情熱的な方で、一時はどん底まで落ち込みましたが、復活を期待したいのがロボットホームです。もとはインベスターズクラウドという社名で「TATERU(タテル)」というアパート経営プラットフォームを運営していました。土地情報を武器に地主にアパート経営を持ちかけ、施工を請け負うといったビジネスモデルです。

創業者の古木大咲社長は当時30代後半と若かったのですが、体育会系的な雰囲気の漂う会社でした。株主総会に行くと、株主も社長への質問を怖がっていた印象でしたが、私としては「彼は何かやってくれる」と感じ、期待していました。

ところがその後、預金残高の改竄かいざんや不正融資が発覚して事業停止となり、倒産寸前までいくのです。売上げは20分の1まで落ち、株価も暴落します。それでも社長は経営を続け、現在は累積損もすべてなくなり、新たな状態でスタートしています。

天国と地獄を見た社長が手掛ける新たな不動産ビジネス

若くして天国と地獄の両方を見ているわけで、古木社長の強烈なキャラクターもあって、こういう会社には「またやってくれる」という期待が持てます。これもやはり株主総会で社長を見ているからで、そうでなければ、このような期待は持たないでしょう。

上場したばかりの頃に見た古木社長に、ものすごい迫力を感じたことは確かです。問題となった預金残高の改竄も、社長が体育会気質なので、気の弱い社員がノルマをこなすために思わずやってしまったのではないでしょうか。これでいっきに信頼を失ったにも関わらず、復活劇を遂げました。

現在運営しているのはIoTを活用した賃貸管理で、言わば賃貸物件のマッチングサイトです。借りたい人と貸したい人をつなぎ、うまくマッチングした賃貸物件を管理し、家賃の5~10%を管理費として受け取る仕組みです。

いわば“持たない”系で、管理費を地道に積み上げていくというビジネスモデルです。それまでの不動産売買で大きく収益を得るのとは、真逆のやり方といえます。

契約件数が増えるほどキャッシュが積み上がる

ここで思い出すのが、光通信です。ITバブルの時代に携帯電話販売で急成長した光通信の株価は、2000年2月に24万1000円という最高値をつけました。

渡部清二、複眼経済塾『株主総会を楽しみ、日本株ブームに乗る方法』(ビジネス社)
渡部清二、複眼経済塾『株主総会を楽しみ、日本株ブームに乗る方法』(ビジネス社)

ところが3月に入って架空契約疑惑が週刊誌で報じられ、営業利益も赤字に転落したのを機に株価が暴落、今度は20日営業日連続でストップ安になりました。この20日連続は、いまも最長記録として語り継がれています。

その後、光通信は事務機や宅配水などサブスクリプションモデルに業態を転換し、いまはキャッシュフローが潤沢な会社として復活しています。

ロボットホームが運営する「TATERU」も、マッチングがうまくいけば、その後、安定して管理費が入ってきます。契約件数が増えるほどキャッシュが積み上がるという確実なビジネスモデルに転換した点で、両者はとても似ています。