天真爛漫な「甘えん坊」に母性をくすぐられ結婚。しかし実は自分勝手な言動で妻を振り回す「かまってちゃん」だった……。弁護士の堀井亜生さんは「モラハラ夫の中には、長く母親に甘えてきたために中年になっても子どもっぽさが抜けず、極端なことを言って相手の思いやりを搾取するような言動を引き起こすタイプの人も多い」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、堀井亜生『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)の一部を再編集したものです。

母性くすぐる「甘えん坊」が結婚したら豹変

特徴
・自分だけに見せる甘えが魅力
・女性のリアルな姿に拒否反応
・離婚調停は義母が主導
堀井亜生『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)より
漫画=ゆむい
堀井亜生『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)より
漫画=ゆむい

結婚後に豹変「いびきがうるさい」「すっぴんが汚い」

これから紹介する事例は、一見モラハラに思えないかもしれません。たしかに、大声で怒鳴るような攻撃性はありません。しかし、自分勝手な言動で妻を振り回し、心をすり減らしていく点で、まさにモラハラなのです。

広告関連会社に勤めるI子さん(27歳)。新卒で入社してからの5年間、企画提案の部署で働いてきました。ある時、人事異動で営業部門に異動。

そこで出会ったのが、10歳年上の先輩社員、現在の夫です。

畑の違う部署からの異動。わからないことだらけのI子さんの業務を先輩としてサポートしてくれたのをきっかけに、交際へと発展。仕事のできる落ち着いた大人の男性と思っていた彼が、意外にも天真爛漫な性格だとわかっていくにつれ、そのギャップにさらに心惹かれたそうです。

聞けば、エスカレーター式の有名大を卒業して、父親は医師、良家に生まれた三兄弟の末っ子で家族仲は良好。そんな要素も「甘えん坊で、ちょっと頼りないところが可愛い」というギャップに見えて、「私が守ってあげなくちゃ」と思うようになった、と結婚に至った理由を振り返りました。

しかし、結婚生活が始まると夫の態度が豹変ひょうへんします。I子さんに「いびきがうるさい!」と怒りだし、寝室を別にすると言いだしました。驚いたI子さんは専門のクリニックにかかりましたが、診断結果は「気にするほどではない」とのこと。夫に報告すると、次は「すっぴんが汚い」と言いだします。I子さんは大変傷つき、寝る間際まで化粧をするように。

“かまってちゃん”な行動に嫌気

ある日、友人と飲んで深夜に帰ると、リビングに夫の姿がありました。I子さんを見ると「浮気してきたんだろ?」とだけ言い残し、寝室へ。翌朝、これ見よがしにスマホをいじっている夫に声をかけると、「僕も浮気相手を探すことにした」とマッチングアプリの登録画面を見せ、「ほら、スペックが高いから引く手あまただ」と自慢してきたそうです。

結婚前までは可愛いと思えていた夫の“かまってちゃん”な行動に、徐々に嫌気が差してきたのはこの頃から。それでもI子さんは、夫婦として話し合いを重ねて改善できれば、と思っていたそうです。が、話し合いの場すらもてないほど、夫の行動はエスカレートしていきました。

仕事はできる人だと思っていたのに、ちょっとしたミスを引きずっては家でグジグジ。I子さんは持ち帰った仕事にも取りかかれず、ずっと夫に寄り添っては話に耳を傾け、朝まで慰め励まし続けたと言います。

「離婚」の言葉でこれみよがしに母親に電話

それでも「もう会社を辞める」と言って聞かず、「これからはI子ちゃんが僕を養って」と言い残して出社。帰宅すると「会社を辞めてきたから!」と宣言します。今後の生活をどうしたものかと頭を悩ませたI子さんが一睡もできずに朝7時を迎えると、隣の部屋からアラームの音が。すると夫はいつものように支度を始め、朝8時ちょうどに「行ってきます」と言って玄関を出ていきました。会社を辞めたというのは嘘だったのです。

夫の子どもっぽさに我慢の限界を感じ始めたI子さんは、一度、離婚のワードを口にしたそうです。すると、夫は隣の部屋に駆け込んで母親に電話。「I子ちゃんが離婚するって言ってる! どうしたらいい?」とわざと聞こえるように話し始めました。

I子さんとしては、本気で離婚を提案したわけではなく、SOSを発したつもりでしたが、逆にこの夫の言動を見て「この人との間に、子どもをつくるのはナシかも」とスイッチが入りました。そして私の元に法律相談にやってきたそうです。

母親の言う通りに離婚調停

離婚までの筋道を立てると、I子さんは、すぐに実行。「弁護士を依頼したのでそちらに連絡してほしい」と手紙を置いて家を出ると、モラハラ事案の中では珍しく、すぐにI子さんではなく私のところへ連絡が入りました。ところが、電話の相手は夫本人ではなく夫についた弁護士。しかもすでに離婚調停を申し立てたと言うのです。

それは母親の差し金でした。年下の嫁から離婚を言い渡されるなど一家の恥と考えた夫の母親が、息子から報告を受けた時点で、知り合いの弁護士に話を持っていったとのことでした。

そのため、そこに夫の意思はありません。母親の言う通りに調停を申し立てただけなので、いざ調停の場に臨んでも、離婚の理由も条件も、具体的なことは一切話せないのです。

話し合いが膠着こうちゃくしたため、私から調停を打ち切りにして裁判に進むよう提案すると、夫は慌てて調停室を出て、電話をし始めました。相手はおそらく母親です。「裁判なんてもってのほか」とでも言われたのでしょう、戻ってきた夫は、いろいろなことを諦めた様子で、急に態度を変えました。夫がようやく出したいくつかの条件に、I子さんも合意。こうして離婚が成立しました。

この夫の特性を一言で表すなら、「新型マザコン」です。最近の親子は仲が良く、大人になっても母親と頻繁に二人で出かけるなど親密な関係を続ける人が増えています。それはもちろん良いことですが、長く母親に甘えてきたために中年になっても子どもらしさが抜けず、極端なことを言って相手の思いやりを搾取するような言動を引き起こすのでは、と考えられます。

リアルな女性の姿に拒否反応

実家暮らしで恋愛経験が少ないせいか、すっぴんや家でのだらしない姿など、女性のリアルな姿に拒否反応を示すのも特徴です。

有名大学の出身で一流企業に勤めて、見た目もそこそこ。なのに、40歳手前まで独り身だったのには、何かしらの理由があるのかも……とついつい考えてしまいます。

蓋を開けてみれば、思い通りに甘やかしてほしくて延々と妻を振り回す、信じられないほどのかまってちゃん。家ではネガティブなことを言っていても、職場や友人の集まりではケロッとしていることも多いです。振り回されて疲弊してしまう前に、「そこまでつき合い切れない」ときっぱり伝えてみましょう。

まとめ
結婚前は萌えポイントでも、結婚後は破綻の原因になることも

「友だちがいない夫」の危険性

モラハラ相談で最もよく聞くのは「夫には友だちがいないんです」という言葉です。

大人になって学生時代の友人との関係が薄くなる人は多いですが、モラハラ夫の場合は少し違います。そもそも友だちらしき人が一人もいないのです。

友だちがいないだけでなく、会社の同僚とのつき合いも全くない、と相談者の皆さんは口を揃えます。そのため夫は、仕事が終わるとまっすぐ帰宅。毎日きっちり17時半に玄関のドアが開きます。週末も趣味や遊びで家を空けることはありません。

友だちがいない。人づき合いがない。趣味がない。この3拍子が揃った時、モラハラの危険信号が点灯します。

メールは即レス、尽くしてくれる「最高の彼氏」

どれも結婚前に気づけそうと思うかもしれませんが、案外気づかないものです。というのも交際中は、相手の生活を全部見ているわけではないからです。

声が聞きたくて電話をしたら必ず出てくれるし、メールやLINEも即レス。デートしたいと言えば全部予定が合います。彼女ファーストで尽くしてくれる「最高の彼氏」と思って結婚しますが、実際は友だちがいなくて趣味もなく、スケジュールが白紙なだけだったのです。

友人や同僚だけでなく親との関係性が壊れている人も多いです。「親と縁を切っている」と聞いても、意外と交際中はあまり深く考えなかったと相談者の皆さんは言います。むしろ、「結婚したあとに面倒な親戚づき合いがなくていいかも」と感じるそうです。

夫にネチネチ文句を言われ続ける結婚生活

しかし、いざ結婚してみると、夫に人づき合いのないことが途端につらく感じられるようになります。なぜなら自分の時間が持てず、家にずっといる夫に生活のペースを合わせなければならないからです。

堀井亜生『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)
堀井亜生『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)

想像してみてください。暗くなるより前に帰宅して、ただ不機嫌そうにソファに座って「ご飯を作るのが遅い」「一日家にいたくせにゴミが落ちているぞ」と、ネチネチ文句を言う夫。

夫は昼はお弁当持参で、仕事終わりに飲みにも行かないため、朝・昼・晩と毎日必ず3食準備しなければいけません。息抜きに外食したいと言うと「家で食べたほうが安上がりだ」と怒り出します。

妻が休日に友だちと出かけたくても、「誰と行くんだ」「交通費がもったいない」「時間の無駄だ」と小言が始まり、家にいることを要求してくるのです。考えただけで、息が詰まりますよね。

結婚式に呼べる友だちがいなかった

相談者の多くが、「今思うと夫は結婚式に呼べる友だちがいなかった」と振り返ります。そのため、夫が式は挙げないと言い出した、式は挙げたが自分は呼ぶ友だちを大幅に減らした、友だちは呼ばずに親戚だけで式をしたといった話が出てきます。なかには、人数のバランスを取るために、夫の友人としてサクラのバイトを呼んだという人もいました。

ポイントは、友だちが多いか少ないかではなく「一人でも友だちがいるかどうか」です。ゼロと1では大違いで、これまでの人生で友人と呼べる存在が一人もいない、誰も彼に寄り付かなかったということは、よほどのことです。

交際中は軽く考えがちですが、友人だけでなく親ともうまくいかない人が、果たして妻や子どもとうまくやっていけるでしょうか。違和感を覚えたら、一度結婚について真剣に考えてみてください。