「褒め」にはメリットが多い
もともと日本人は、褒めるのが苦手な人が多く、「褒めて伸ばす」のは最近の風潮で、長らく「叱咤激励して伸ばす」のが普通でした。しかし一般的には、上司が部下を褒めるのは、いいことばかりです。
まず、信頼関係ができます。褒められた部下は、「認めてもらった」という安心感を持つようになり、働きやすいと感じるようになります。上司からすると、二人三脚で何かを進めるときにもコミュニケーションがとりやすくなりますし、チームも力を合わせやすくなります。
また部下は上司に褒められると、「もっと頑張ろう」とやる気が出ます。特に最近の若い人たちは、自分の成長を実感できないとモチベーションが続きません。上司に褒められるとモチベーションが高まり、やる気を起こしやすくなるのです。
ただ褒めればいいというものではない
しかし、ただ褒めればいいというものではありません。褒め方によっては、こちらの意図がまったく伝わらなかったり、本人のやる気につながらなかったりしてしまいます。褒める時に避けた方がいいポイントは大きく2つあります。
あいまいに褒めない
たとえば、一つのプロジェクトが終わったあと、上司が「君の働きっぷりはよかったよ」「あなたがいて助かったよ」といった褒め方です。褒めていることは伝わりますし、言われた方はうれしい気持ちにはなりますが、「自分の働きぶりのどこが、なぜよかったのか」「自分のどんな行動が、どのように助けになったのか」はわかりません。
あいまいな褒め方だと、「(具体的にどこが良かったのかはわからないけれど)上司に評価された」「喜んでもらえた」と思うだけで、次につながらないので、「褒め」の効果が一時的なものになってしまうのです。これでは、せっかくの「褒め」の効果が半減してしまいます。
人と比較しない
たとえば「君のアイデアは、Aさんに比べて数も質も圧倒的にいいよ」など、他の人と比べて褒めるのはやめましょう。褒められた部下は、一時的にはうれしく思うかもしれませんが、「Bさんより優れている」「Cさんより劣っている」など、他人を基準とした比較でしか自分の価値が測れなくなる可能性があるからです。
どんなに頑張って、昨日の自分よりも成長できたとしても、ほかの人と比べて劣っているように感じてしまえば自分の成長を認められなくなってしまう。自分の強みや個性がわからなくなり、自己肯定感の低下につながります。人と比較することで褒めるのではなく、本人の努力や成長を認める方が、長い目で見ると本人のためにもチームのためにもなります。
モチベーションを上げる褒め方
では、どうやって褒めるといいのでしょうか。ポイントは3つあります。
具体的に褒める
どんな行動が、なぜ良かったのか、できるだけ具体的に伝えます。たとえば「新しいクライアントを獲得するための提案をしてくれてありがとう。普段から『もっといいやり方はないだろうか』と考えながら営業活動をしていないと、あんなに具体的で効果がありそうな提案はできないと思うよ。ほかのチームメンバーにも『こんなふうに考えて提案すればいいのか』と参考になったと思うし、チームの士気も上がって、いい影響があったよ」という感じです。
具体的に褒められると「そこまで自分のことを見てくれているのか」「こんなふうに人のためになっているのか」とうれしい気持ちになり、自分の行動に自信が持てますし、上司への信頼が高まります。また、「こういった行動がいいのか」とわかるので、「またやってみよう」と、褒められた行動を再現しようという気持ちが生まれ、成長につながります。「褒め」の効果が一時的でなく、長期的なものにつながるのです。
プロセスに着目する
「今月の営業目標をもう達成できたなんてすごいね」など、営業成績や資料の完成、タスクの完了といった目に見える結果の方がわかりやすいので、褒めやすいですが、できるだけプロセスにも着目して褒めるようにしましょう。
もちろん、結果を認めて評価することも大切ですが、それだけに目を向けていると、目に見える結果がまだ出せていない部下に対しては「何を言えばいいかわからない」「どこを褒めよう」と、“褒めポイント”がなくなってしまいます。
成果を出そうと頑張っている途中の本人の苦悩に共感し、その頑張りによってどのように成長できているかを評価してあげるのです。自分がどのように成長しているかは、本人にはなかなかわからないものです。そこで上司が成長を伝えることで、「目に見える結果はまだ出ていないけれど、ちゃんと見てくれている人がいるんだ。このまま頑張ればいいんだ」という安心感を持つようになるはずです。
たとえば「前回よりも効率よくデータ分析ができているし、間違いが随分減ってきているね。わからないことがあったときも、抱え込まないですぐに相談してくれるから、進捗状況がよくわかって助かるよ」などです。
以前、東大に合格した人たちが「合格したことを褒められるのもうれしいけれど『合格するまでにすごく頑張ったんでしょう』『やりたいことを我慢して勉強していたんでしょう』と、プロセスの大変さを共感してもらえるほうがうれしい」と言っていたのを聞いて、なるほどと思いました。
タイミングを逃さない
褒めるにはタイミングも重要です。時間が経ってしまうと、本人も自分がどんな行動をとっていたのか、よく覚えていないということもあり得ます。「先週の会議の発言はすごくよかったよ」と言われても、ピンとこないでしょう。できるだけ直後に、そうでなくても間を空けずに伝えましょう。
さらに、1対1で褒めると、上司の熱量が伝わるのでおすすめです。人から聞いた事例ですが、オンライン会議でプレゼンをしたところ、会議が終わってすぐに、上司から「さっきのプレゼン、簡潔にまとまっていて、すごくわかりやすくてよかったよ」というメールが届いたそうです。自分の頑張りをすぐに認められて、うれしかったと話してくれました。
「具体的に」「プロセスを褒める」「タイミングを逃さない」となると、普段から部下の仕事ぶりをしっかり見ていないといけませんし、本人の気持ちを想像し、共感することも欠かせません。
漫然と部下の様子を見ていて、期末の評価面談が近付いてあわてて「いいところはどこだろう?」と探すようでは、良い褒め方はなかなかできません。意識をしていなければ、悪いところばかり目に入ってしまうものだからです。
上司には、「褒めポイント」を見つける力が必要です。日頃からこれら3つのポイントに気を付けながら見ていれば、誰に対しても何らかの「褒めポイント」が見つけられるはずです。
「ありがとう」から始めてみる
それでも、部下をなかなか褒めることができない、褒めるのに抵抗があるという上司の人は、「ありがとう」と感謝を示すところから始めてみてください。
「力を貸してくれてありがとう」
「指示したことをちゃんとやってくれてありがとう」
「部下も組織の一員なんだから、仕事をするのは当たり前だ」「指示したことをやるのは当たり前だから、わざわざお礼を言うべきことではない」と思いたくなるかもしれませんが、そうではありません。自分のチームに与えられた業務を、その部下がやってくれたわけですから、ぜひ感謝の気持ちは言葉にして表してください。
「ありがとう」は「褒める」のとほぼ同じ効果があります。「ありがとう」の習慣がつくと、「褒めポイント」を見つけることも簡単になります。部下も「認められた」と感じて、仕事に前向きに取り組むようになっていくはずです。