転職で年収は上がるのか
「転職するからには今より年収を上げたい」という声が多く聞かれます。しかし実際には、よほど高度なスキルや希少価値が高いスキルがなければ、大幅な年収アップは期待できません。
中途採用時の年収は、基本的に「前職年収」を基準に設定されます。入社後どれくらい活躍してくれるかわからない段階では、「前職の年収額維持」もしくは「若干アップ」で提示されるケースが多いのです。
とはいえ、経験・スキルが高く評価されたわけでなくても、年収が上がるケースもあります。それは、給与水準が低い業界・企業から高い企業に転職する場合です。
例えば、給与水準が比較的低い製造・流通・小売業界などから金融・コンサルティングなどの業界に移った場合、担当する業務レベルが変わらなくても年収アップとなる可能性があります。IT業界も、人材不足により給与水準が上昇しています。
給与額にこだわって失敗
ここからは、転職活動時に「給与」にこだわることによって失敗を招くパターンについて、事例も交えてご紹介します。
失敗事例① 内々定獲得後、態度を変えて給与交渉
最終面接まで終え、内々定を獲得した段階で強気になり、年収交渉を始める方がいらっしゃいます。しかし、このような「態度の豹変」は不信感を抱かれます。
Aさんの例を挙げてみましょう。
Aさんはオーナー企業に応募し、社長との最終面接もクリアして「内定」を確信。「私は評価されている。期待されている」と自信を持ち、提示された給与額に対して「やはり給与は○○万円いただきたい」と交渉を持ちかけました。
社長は「面接の印象では、謙虚な人だと思ったのに」「仕事に魅力を感じてくれていたのではないのか」と落胆。結果的に採用を見送りました。
失敗事例② 他社を引き合いに出して給与交渉
複数企業に応募していたBさん。第一志望の企業で順調に選考が進み、給与額の提示を受けたときに「他社では○○万円でオファーを受けていますので、それくらいの額はいただきたい」と切り出しました。
しかし、その額は企業側の給与テーブルから大きく外れており、「特別扱いしてまで欲しい人材ではない」と判断され、不採用となってしまいました。
このように、他社のオファー額を引き合いに出して交渉するのもリスクが伴います。本人に対する評価が高く、どうしても来てほしいと思ってもらえていれば「ならば、うちはそれ以上出します」と言われる可能性はありますが、「仕事選びにおいて報酬を最優先する人なのか」と思われると評価が下がることもあり得ます。
失敗事例③ 入口の報酬に引かれて入社したが、入社後昇給せず
入社時に高額な給与提示を受け、それに飛びついて入社。ところが、入社後にどんなに成果を上げてもいっこうに昇給しない……そのようなケースもあります。
Cさんはあるベンチャー企業に応募。最終面接で社長から提示された金額に対し、2割増しほどの額を要求しました。社長は「出せなくはない金額」と要望を承諾。Cさんは満足して入社を決めました。
しかし、その会社にとってはかなり無理をして出している額であるため、入社後は給与を上げられません。Cさんは仕事でいくら実績を上げても給与に反映されないことに気付き、モチベーションが次第に低下。結局1年ほどで再度転職することになったのです。
「給与」で転職を成功させるには
「転職の成功」とは、入社時点で希望条件をすべてクリアすることではなく、入社後も長期間にわたって納得・満足しながら働くことです。そのためには、「入社時」という“点”で転職を捉えるのではなく、「入社後」の中長期を見据えて転職活動をする必要があります。給与の条件を考えるときには、次のルールを心がけてみてください。
ルール① ちょっと「しゃがんだ姿勢」で入社する
前職より大幅な年収アップでの入社は、実はあまりお勧めできません。
企業側としては、「これだけの報酬を用意して迎えたのだから、それに見合うだけの活躍をしてほしい」と、期待値が高まります。高い目標を設定されたり、経験がないハイレベルな業務を任されたりすることもあります。
そして期待値が高まった分、成果が上がらないと「この程度の働きしかできないのか」とがっかりされやすくもなるわけです。
自身はそうした期待をプレッシャーに感じ、成果を出すことに焦ってしまいがち。結果、空回りして悪循環に陥り、最悪の場合、いたたまれなくなって退職してしまう事例もあります。
ですから、入社時はちょっと「しゃがんでおく」のも有効です。企業側としては、前職から年収ダウンして入社してもらうと、「申し訳ない」という気持ちを持ちます。その分、本人のアウトプットが期待値を超えたときや会社が成長したときには上げてもらいやすくなるでしょう。
実績を上げることで、給与アップの交渉もしやすくなります。
人事評価制度、報酬制度を把握しておく
ルール② 入社後の「昇給可能性」を確認する
転職先を検討する際には、「年収アップで迎えてくれる企業」よりも、「入社後の働きにより、年収を上げられる制度・仕組みがある企業」という観点で選ぶのが望ましいといえます。
入社時の給与提示額が現在よりダウンしたとしても、評価の制度や仕組みが整っている企業であれば、短期間で大幅に給与額を上げられる可能性があります。昇給タイミングが年2~4回ある企業も存在します。
実際、大手企業などから事業が軌道に乗っていないスタートアップに転職して大幅な年収ダウンとなったものの、事業成長に貢献したことで1~2年後には前職年収と同水準に戻り、その後さらにアップしたケースは少なくありません。
入社を決意する前に、その企業の人事評価制度・報酬制度を確認しておくことが大切です。面接の場で、「どのような成果を上げれば」「いつまでに」「どの程度」の昇給が可能なのかを聞いてみてもいいでしょう。
ルール③ 給与交渉は転職エージェントに任せる
企業への給与交渉は、自身で行うよりも転職エージェントに代行してもらうことをお勧めします。
先ほどNG事例①でも挙げたように、交渉の持っていき方を誤ると、マイナス印象を与えてしまいます。仮に給与アップ交渉が受け入れられたとしても、企業側にはどこか不信感が残り、入社後にぎくしゃくしてしまう可能性があります。
転職エージェントは、応募者が計り知ることができない「企業側の本音」もつかんでいます。例えば、応募者に対して、どれくらい評価・期待しているか、企業からフィードバックを受けています。
つまり、給与額アップの交渉を持ちかけた場合、企業側が「増額してでも採用したい」と考えているのか、「その給与額で採用するほどの価値はない」と考えているのかを判断できるのです。それにより「交渉の余地がある」「交渉は通用しない」という境界線を見極めてくれます。
なお、エージェントが応募者本人に代わって給与交渉を行う場合、「本人が希望している」という事実は伏せ、婉曲的に進めてくれることも期待できます。
「この人の市場価値であれば、これくらいの給与額でオファーするのが妥当」と、マーケットと照らし合わせて説得してくれるケースもあります。
このように、給与交渉は転職エージェントに任せておくほうが、企業の心証を損ねるリスクを軽減できます。自身で給与交渉をする場合は、「○月に昇進の予定があり、昇進すれば○○万円になる見込み」「業績不振によって賞与の支給を受けていない」など、事実に基づく情報を伝えるにとどめたほうがいいでしょう。