※本稿は、小林正子『子どもの異変は「成長曲線」でわかる』(小学館新書)の一部を再編集したものです。
「思春期スパート」は身長の急伸から始まる
思春期スパートはまず身長の急伸から始まるのがほとんどです。
体重のスパートは、女子の場合は一般的に身長より2年ほど後になります。これは身長の最大発育期とほぼ同時くらいです。男子の場合も身長から先に始まりますが、体重はその後1年くらいが一般的で、中には身長のすぐ後から体重がスパートすることもあります。
女子と男子では、スパートの時期は違いますが、9割ほどが、身長→体重の順でスパート開始となります。しかし、1割弱ですが、体重が身長よりも先にスパートする例も見られます。この場合は肥満傾向が進んでスパートと間違える、というケースが含まれているかもしれません。
女子の場合、体重が先にスパートすると、初潮が早く発来する傾向があり、そうなると身長はあまり伸びないことになります。この原因ははっきりとはわかっていませんが、生活習慣や遺伝的なものも関係するように思われます。
身長の伸びに座高は関係するのか
お子さんの身長の伸びを気にされる方でも、おそらく座高と下肢長までは考えたことがない、という方が多いのではないでしょうか。実はこの視点は非常に重要です。最終的に身長が伸びる子は、座高や下肢長もしっかりと伸びているからです。
身長はからだの縦方向の長さの合計ですが、その長さはどの部分も一定の速度で伸びるわけではありません。上体部分は座高という測定値で知ることができますが、その上体でさえ、頭部、脊椎(頸椎、胸椎、腰椎、仙骨、尾骨)に分かれています。
頭部の大きさは小学生くらいでほぼ決まってしまいますが、頸椎など脊椎は伸び続けます。ただし頸椎は1年の内伸びる時期が1カ月程度で、その量はわずか。他の部分も伸びに違いが見られます。
しかし、こうした細かい部位の発育についてはさておき、ここでは上体を座高、下体を下肢長ということで、大きく二つに分けて見ていきましょう。
足→座高→足の順に伸びてから止まる
図表1「身長と座高の伸びの関係」を見てください。これは私が自分の子ども(女児)の身長と座高を5年間、毎日、朝と夜の2回、測り続けた結果の一部です。身長と座高の関係がよくわかるように、左側に身長軸、右側に座高軸をとって、目盛の間隔を同じにして比較しています。
まず注目していただきたいのは、身長も座高も、計測値が上と下の2本の線に分かれているということです。点線が朝の測定値で、実線が夜の測定値です。身長は朝高く、夜低くなります。起きてすぐに身長と座高は測定していますが、朝と夜の値がこんなに違うというのは驚きですね。こうした身長に見られる1日の変化を日内変動といいますが、それはこの図から、座高の変化に起因していることがわかります。
ここで最も注目していただきたいのは、身長と座高の伸びの関係です。この子どもは、身長スパートがあまりはっきりとは見られませんでした。しかし、11歳半頃からスパートに入ったと思われます。そのときの座高は身長の伸びに比べて緩やかな伸びです。これはつまり足(下肢長)が伸びているのです。やがて○で囲んだ部分となりますが、これは身長の伸びと座高の伸びがぴったり一致しています。座高の伸びが身長の伸びそのもので、足は伸びていないということになります。
身長と座高の伸びがシンクロする期間は3~4カ月です。その後は座高の伸びが緩やかになりますが、まだ身長は伸びています。すなわち足の伸びが身長に寄与しているのです。
今の子どもは胴長短足化が進んでいる
こうして見ると、思春期の身長スパートにおいて、からだの上体と下体では伸びる時期が異なることがよくわかります。このように毎日測ったデータは世界でも少ないですが、ある程度頻繁に測定されたデータからも同じような結果が示されています。
結論として、身長スパートは、まず足が伸び、次いで座高が伸び、最後にまた足が伸びて、やがて止まるといえるでしょう。もちろんこの順序にも例外はありますが、最後の足の伸びる期間が非常に大切、ということです。ところが近年は、最後の足が伸びるはずの時期に「足が伸びない」現象が顕著になっています。
図表2をご覧ください。男女共30年前の親世代より「身長に占める足の長さの割合」が減少しているのです。実際の数値としては、男子17歳で約1cm縮んでいます。最後の足の伸びが見られなくなれば、最終身長に影響します。
早熟型か、晩熟型か
身長が止まる時期については、身長の伸びと同様で個人差がとても大きいのですが、成長曲線を見ればだいたいわかります。男女とも18歳付近ではほとんど伸びが見られません。一般的には、身長は思春期スパートで大きく伸びたあとは、次第にあまり伸びなくなり、18歳くらいで止まる(女子はもう少し早い)ということになります。しかし、20歳過ぎても伸びたという話をときどき耳にします。
そもそも思春期に身長が伸び始める時期に個人差が見られます。早熟の場合、最初から背が高ければ最終身長も比較的高くなりますが、どちらかというと晩熟型の子どもに抜かされてしまうケースが多いです。また、思春期に身長スパートが早く始まると、その伸び方は急激なことが多く、パーセンタイル基準線のレベルを1つか2つ越えてぐんぐん伸びます。でもそれは長く続かず、早期に止まってしまいます。
晩熟型は伸び始める時期が遅く、ゆっくり伸び始めて、しかも伸びる期間が長いので、まだ伸びているの? と思うくらい伸びることがあります。
それなら誰でも晩熟型になればよいのに、と思っても、そううまくはいかないのが発育というものです。ただ、もともとの資質を十分に発揮するための生活の仕方、というものはあります。ここでは身長が止まることについてもう少しお話ししたいと思います。
身長は、とにかく伸びがゼロになったら止まったということなのですが、日内変動があり、なかなかぴったり同じ値は出ないものです。ときにはマイナスになったりして何度も測り直すこともあるでしょう。また、少しでも前より高い値が出たら、伸びた! と思うかもしれません。そこで、多くの研究においては、1年間の伸びが1cm未満になったときを止まったとしています。もちろんこの後もまた伸びが見られることもあり、まだ止まっていなかったという事例も見られます。
男子は声変わり、女子は初潮
外見からそろそろ止まるかな、とわかるのは、男子なら声変わりをした後、女子であれば初潮が発来したあとに、徐々に伸びる量は減っていき、やがて止まる時期が訪れます。
しかし、なかには、そこから10cm以上伸びたという例も男女ともにありますから、これまた一概にはいえません。
一般的には、身長スパートが始まり、1~2年して最大発育期を迎えて大きく伸び、その後伸びが少し緩やかになった頃が、思春期(第二次性徴)が後半に入ってきた印です。ここからの身長の伸びは限られてくるのが普通です。
ただし、最大発育期の後の生活の仕方も重要で、睡眠不足などが続くとその後の身長の伸びに明らかに悪影響を与えますし、食事の内容や摂り方も重要です。さらに運動の仕方も影響が大きいことから、「身長が伸びている時期の過ごし方によって、伸びる量も期間も違ってくる」ということになります。
「骨端線」が残っていればまだ伸びる
身長がまだ伸びるのか、止まってしまったのかをはっきり知りたければ、骨端線(成長線ともいう)がまだ残っているのかどうか、レントゲンを撮って確認しなければなりません。
骨端線とは、骨が細胞分裂する成長軟骨層の部分がレントゲンを撮ると、線になって見えるもので、この骨端線が残っていれば、まだ身長が伸びる余地があるということになります。
私は研究のために、朝夜の1日2回を5年間、自分の娘二人の身長、体重、座高を測り続けていましたが、次女はとても協力的で、小学4年生から中学3年生になるまで、いつ大きくなるのかなぁと楽しみにして、おとなしく測らせてくれていました。ところが大きな身長スパートが見られず、年間6cm程度の伸びが続いていたので、私は「今に伸びる」「今にきっと大きくなるよ」と言って鼓舞し続けました。けれども中学3年生の初めに遅めの初潮が発来した後、伸びが止まってしまい、次女は、もう私にかまわないで! と言って、測定しなくなってしまいました。
こんなことから高校時代は親子関係が悪くなり、身長も伸びないので内心とても心配していたのですが、大学生になって家を出て、夏休みに帰ってきたときに、あれ? 背が伸びている! と思ったのです。次女も気をよくしていたので測らせてもらったところ、なんと3cmも伸びていました。ということは、骨端線は閉じていなかったのです。もしかして、精神的に大きなストレスがかかって身長の伸びがストップし、家から解放されたとたんに伸びたのかもしれません。恥ずかしながらこんな例もあるのです。
伸びている時期を大切にする
それでは、もし身長がまだ伸びるかどうかを確かめるには、レントゲンで骨端線を撮ってもらえばよいだろう、ということになりますが、病気でもないのにレントゲンを撮ってほしいというのは、かなり難しい注文です。どうしても知りたいのであれば、成長を専門とするクリニック等で相談してみてください。
また、もしどこかケガをして整形外科でレントゲンを撮ったときなどに、骨端線のことを頭に入れておくと、ついでに確認することができると思います。ただし、この骨端線についても、無くなる時期はかなり個人差がありますし、レントゲン写真では消えていたはずなのに身長が明らかに伸びた、という話を聞くこともあります。
そうはいっても、20代半ばになっても身長が伸びているということは滅多に聞きません。もし1cm程度伸びたとすれば、日内変動によるものと思われます。いずれにせよ、何らかの異常がなければ、身長は一生の前半で止まってしまいますから、伸びている時期を大切にすることの方が重要です。