※本稿は、村上 臣『稼ぎ方2.0 「やりたいこと」×「経済的自立」が両立できる時代』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
今後必要なのは「ヨコ」のつながり
テクノロジーの発達によって、クリエイターがものを作ったり、売ったりする環境が整ってきた現象をクリエイターエコノミーといいます。今、欧米では、プロのクリエイターに限らず、一般の会社員が売れるものを作って、稼ぎを得るようになっています。
そんなクリエイターエコノミーの時代に必要なのが、会社の枠を超えた「ヨコ」のつながりを作ることです。ヨコのつながりを作るにあたって、最初に取り組みたいのは、「会社人」から「仕事人」へとマインドセットを変えるということです。
会社人は、自分が所属している会社をベースに物事を考えています。「会社から寄せられている期待に応えるために働く」「会社に守られているから仕事ができている」など、会社に自分を合わせるという発想で動いています。
一方、仕事人は自分に何ができるかを考えます。自分が持っているスキルを生かすことを優先し、それによって会社にどう貢献できるかを追求しています。「会社に守られているから自分がいる」ではなく、「自分がスキルを発揮できているから会社にいる」というマインドで仕事に取り組んでいるわけです。
転職しない人も「働き方改革」が必要な理由
会社にしがみつこうとしても、会社そのものが消滅してしまうリスクがあります。特に日本には中小企業が圧倒的に多いという特徴があります。中小企業庁によると、2016年の中小企業・小規模事業者は約358万。企業全体に占める割合は実に99.7%に達しています。
東京商工リサーチによれば、2020年の中小企業の休廃業・解散件数は4万9698件となっています。決して他人事ではなく、「いくらなんでも会社はつぶれない」というのは、正常性バイアスと呼ばれる思い込みにすぎません。
特に大企業に勤務している人ほど、うちの会社は大丈夫と思いがちですが、大企業も決して安泰とはいえない状況です。現実に、コロナ禍では創業100年を超えるような老舗企業も倒産を余儀なくされるようなことがありました。これまで100年安泰だったからといって、この先100年安泰である保証などは1ミリもありません。
また、会社が倒産しないまでも、ある日突然、会社の経営が変わる可能性もあり得ます。これからの日本企業は、外資に買収されることが増えると考えられています。買収された企業では、一夜にして経営陣が入れ替わり、仕事のやり方や、評価の方法や人事制度といった社内ルールが一新されるようなことも珍しくありません。
この場合、希望退職を募るケースも多いでしょうから、会社の外に出るという選択肢が浮上します。外に出ずに同じ会社にしがみつくにしても、まるで転職したかのような新しい働き方を強いられることになります。いずれにしても、今までと同じような働き方を維持するのは難しくなる可能性が大です。
本業で1つの会社に在籍し続けている人も、複数のキャリアを成立させるためには、仕事人の考え方へシフトする必要があります。言い換えれば、会社視点から個人視点へと視点を切り替えるということです。
マインドを変えるだけで、これだけ変わる
仕事人のマインドを持てば、会社内での仕事の仕方が確実に変化します。例えば、自分のスキルを生かせると思えれば、新しいプロジェクトにも積極的に関わろうとするでしょう。部署を超えて会社に貢献する余地を探すようになるはずです。部署横断のプロジェクトに取り組む場合、他部署の人とのつながりが強くなります。
必然的にタテのつながり(上司や先輩)だけでなく、ヨコのつながり(他部署)にも自然と目が向くようになります。つまり、仕事人のマインドに変えることで、ヨコのつながりへの意識が確実に高まるのです。
仕事人のマインドを持つと、社内のプロジェクトに限らず、社外のプロジェクトでも貢献できるかもしれないと考えられるようになります。これがプロジェクト中心で動くという発想へとつながります。「プロジェクト中心」で動く人は、もはや会社に縛られることがありません。社内の部署の枠を超えて仕事をするレベルから、会社の枠を超えて「プロジェクト中心」で動けるようになるのです。
私が知る限り、スタートアップで成功している人は、ノリで始めたプロジェクトが盛り上がり、そのまま起業するようなパターンが多いです。「会社の仕事かどうか」などはたいした問題ではありません。興味があること、自分が貢献できそうなことを積極的に見つけて動く習慣を身に付けることが重要なのです。
ところで「社外のプロジェクト」というと、会社の枠を超えたコラボ企画など、大がかりなものをイメージする人がいるかもしれません。社外のプロジェクトは選ばれた人しか参加できない特殊な機会と思われがちですが、実は気軽に取り組めるものもたくさんあります。
ヨコのつながりを作る方法①「趣味を公言する」
参加するプロジェクトをもっと趣味的に捉えてもいいと思います。例えば、別々の会社で働く人たちが「バイク」「グルメ」「キャンプ」など共通する趣味をテーマにPodcastで番組を作るといった事例があります。好きな趣味で仲間とつながってクリエイターエコノミーに参加するチャンスもたくさんあります。
もっと古くからあるポピュラーな趣味の集まりは、アニメや漫画などの同人サークルです。「好き」が共通している人たちが集まり、同人誌を作り、コミケ(コミックマーケット)などで販売する。こういった活動は、すでに文化として定着しています。そう考えると、コミケはクリエイターエコノミーを象徴するようなイベントではないでしょうか。
興味・関心軸で人とつながるためには、興味・関心に関わるタグで検索して仲間を見つけておくのが一つの方法です。あとは、自分の周囲の人に「○○に興味・関心を持っている」と公言しておくことも大切でしょう。
ヨコのつながりを作る方法②「キーパーソンに接近を」
ヨコのつながりを作る有力な手段の一つとして、最近私が注目しているのが各種のビジネスカンファレンスです。ビジネスカンファレンスが開催されるときには、しばしばボランティアスタッフの募集が行なわれます。
例えば、日本最大級のビジネスカンファレンスである「Industry Co-Creation(ICC)サミット」は、宿泊・交通費などを自己負担するボランティアによって運営が行なわれています。こうしたカンファレンスの運営に参加することは、会社では決して作れないヨコのつながりを構築できる非常にいい機会です。
ビジネスカンファレンスやイベントに参加する場合は、主催者に近い人、あるいはハブ的な役割を担っている人と積極的につながることをおすすめします。いわゆる「キーパーソン」と呼ばれるような人です。主催者とつながるのもいいのですが、必ずしも主催者がキーパーソンであるとは限りません。主催者以上に顔が広く、いろいろな人とつながっているキーパーソンが、カンファレンスやイベントには必ず何人か存在します。
そういったキーパーソンと仲良くなると、ヨコのつながりが一気に広がりますし、何かあったときに人とつなげてもらえたりします。
ヨコのつながりを作る方法③「定期連絡のクセをつける」
ヨコのつながりを維持するためには、一度つながった人と定期的にコミュニケーションを取り続ける必要があります。とはいえ、つながっている全員とコミュニケーションを取らなくても大丈夫です。
何かのプロジェクトで力を借りたいとき、相談を求めたいときに助けになってくれるのは、自分にできない役割を担ってくれる人、自分にはない視点からアドバイスをくれる人です。だから、自分には真似できない特別な能力を持っている人、尊敬できると思える人を中心に、つながりのメンテナンスを行ないましょう。
コミュニケーションの方法としては、SNSで「お元気ですか?」「最近、どうされていますか?」などと軽いメッセージを送るのもいいですし、「久々にお茶でもしましょう」と声をかけるのもよいと思います。お互いに近況報告をするだけで、つながりは維持されます。相手に心理的な負担をかけない範囲で、定期的に連絡を取るクセをつけましょう。
私自身、定期的に連絡を取ってコミュニケーションを取っている人が何人もいます。例えば、『プロセス・エコノミー』の著者であるIT批評家の尾原和啓さんとはしばしば連絡を取り合っています。尾原さんが日本に来るときには、必ずお茶を飲みながら話をする機会を作り、海外で見てきたことを教えてもらったり、私がしている仕事について教えたりしています。
私が書籍を出したとき、尾原さんからプロモーションの方法を事細かに教えてもらい、そのとおりに実践しました。本の出版は私にとってのクリエイター活動であり、まさにヨコのつながりがクリエイター活動に生かされた事例だと思います。
上下関係の意識を壊してフラットに
最後にお伝えしたいのは、ファンとの上下関係を作らず、フラットに付き合うことの大切さです。会社では、どうしても年齢や役職に基づく上下関係を意識する機会があります。日本では「席順は○○さんが上座」「挨拶は○○さんが先」など、配慮を求められる職場が多いと思います。しかし、クリエイターエコノミーの世界ではクリエイターとファンはフラットな関係であるのが原則です。
特にヨコのつながりにおいては、誰に対しても同じように接することが基本です。私自身、どの年齢の人と話すときも敬語を使い、「さん付け」で呼ぶように意識しています。もちろん、ファンとの関係はクリエイターとしてのキャラクターに依存する部分が大きいので、あえて上から目線で話すのもアリです。
例えば、デーモン閣下がファンに向かって急に敬語を使ったら、かえって違和感が生じるでしょう。ただ、副業クリエイターは少しずつヨコのつながりを広げていくわけですから、上から目線でキャラ作りをしたり、偉そうに話したりするのは得策ではありません。
フラットな話し方以外に意識したいのは、一言でいうと「謙虚さ」です。クリエイターというと「我が道を行く」「自信に満ちあふれていて当たりが強い」というイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、実際に優れたクリエイターには謙虚な人が多い傾向があります。なぜなら、ファンの声を聞いて、アジャイル的に変化を加えていくにあたっては、親しみやすさや話を聞き入れてくれそうな雰囲気を持つ必要があるからです。
謙虚なクリエイターは、苦言を呈されたときにも、ヒートアップして反論するのではなく、貴重な意見を受け止めて改善へとつなげています。逆に、うまくいったときも天狗にならずに、ファンの声を大事にして自分を高める努力を続けます。