日本は先進国で唯一、過去20年間の給与が上がっていません。元・LinkedIn日本代表の村上臣氏は「日本企業の部長クラスの年収は、タイよりも低い事実があります。日本は先進国という考えはいよいよ通用しなくなってきました。今後日本で収入を下げないようにするためには、これまでのキャリア観を根本的に改めなければなりません」といいます――。

※本稿は、村上 臣『稼ぎ方2.0 「やりたいこと」×「経済的自立」が両立できる時代』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

本業と副業のカードを持つ手元
写真=iStock.com/takasuu
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このままだと「ジリ貧」生活は免れないワケ

「日本企業の部長クラスの年収は、タイよりも低い」

経済産業省が2022年5月に発表した「未来人材ビジョン」という報告書が衝撃的な事実を明らかにし、各メディアを賑わせました。

「日本が過去20年、給与が上がっていないこと」、しかも「主要先進国の中で唯一日本だけが上がっていないこと」は、皆さんすでにご存知のことかと思います。しかし、それでも心のどこかでは、「日本は先進国だ」と信じ、我々を取り巻く現状があたかも普通のことだと思っている人が大半でしょう。そんな日本人に「日本企業の本当の“ヤバさ”」を指摘したのが「未来人材ビジョン」でした。日本は「アメリカや中国に負けている」などというレベルではなく、これまで後進国だと思っていた「東南アジアにも負けている」。

このような例は枚挙にいとまがなく、例えばこれまで日本に出稼ぎに来ていたベトナム人などの外国人労働者が、今となっては日本では稼げなくなってしまったため、本国に出戻る例が後を絶たないのです。「自国のほうがまだ稼げる」ということです。

安いニッポン――。これはもはや現実のものとなっており、今後日本で収入を上げていくためには(もっというと、下げないようにするためには)、これまでの「1度に1社だけに勤める」という「20世紀的キャリア観」自体を根本的に改めなければなりません。たとえあなたが会社員であっても、1社に勤めながら同時に別キャリアを複数作る。そうして「パラレルキャリア」を築くことにより、複数の収入源を確保しなければ、ジリ貧となってしまう時代がもう来ているのです。

幾度も聞いてきた「パラレルキャリア」という提案…

日本では1社だけでは収入が増えない。だからこそ、誰もが1社に勤めながらも、同時に別キャリアを複数作らなければならない時代が来ている。こう申し上げました。このことを聞いたあなたは、こんなことを思ったのではないでしょうか。

「とはいっても、そんなことできたらやってるよ」

そのとおりです。「パラレルキャリアを作りましょう」などということは、何もいま私がはじめて言い出したことではありません。こうして最先端の働き方の本を読んでいるあなたでしたら、もう耳にタコができるほど聞かされていることでしょう。

問題は、そんなことを言われても、実行にまで移せる人はほとんどいないということです。なぜでしょうか。

「わかっているのに踏み出せない」2つの理由

大きくは以下の2つの問題があるからです。

原因① そもそも「個」で稼げるコンテンツなんて「作れない」
原因② 仮にコンテンツがあっても「個」では「売れない」

そうです。「別キャリアを作ろう」などと言われても、誰もそう簡単に売れるものなど個人で作れないし、仮にあなたが何かを作れたとしても収入になるほどの金額で売ることなどできない。本当にそのとおりなのかは別として、少なくともあなたはそう思い込んでいるからこそ、パラレルキャリアを実行しようなどとは思わないのでしょう。

しかし、それが本当に「思い込み」にすぎない時代がやってきているといったら、どうでしょうか。

個人でもキャリアが作れる時代が来ている

これまでの「別キャリアを作ろう」というキャリア論は、実際には理想論にすぎませんでした。しかし、実は欧米では、この理想が現実になってきている「現象」が起こっています。欧米では今、会社員が、勤めている会社とは別で、個人でもキャリアを作るというブームが起こっているのです。それを可能にしたのが、「クリエイターエコノミー」です。

皆さんも近年のNFT熱の高まりで、一度は聞いたことがあるかもしれません。クリエイターエコノミーとは、テクノロジーの発達によって、クリエイターがものを作ったり、売ったりする環境が整ってきた現象を指します。「そんなのクリエイターだけのものでしょ?」と思われるかもしれませんが、いま欧米で起こっているのは、実はそういった限定的な現象ではありません。

欧米では、プロのクリエイターに限らず、一般の会社員が売れるものを作れるようになっています。そして、作ったものを十分な収入源として売ることで、パラレルキャリアを実現する人が増えているのです。つまり、クリエイターエコノミーは、多くの人がこれまでパラレルキャリアに踏み出せなかった「2つの原因」を見事に解決している潮流なのです。

では、実際にどのように「作るハードル」と「売るハードル」を解消しているのでしょうか。ここで少しだけ、「クリエイターエコノミー」を象徴するテクノロジーについて触れておきましょう。

スキルはなくてもOK! チェックすべき便利ツール4選

例えば、「作るハードル」を解消するツールの一つが「Midjourney(ミッドジャーニー)」です。ミッドジャーニーは、AIが説明文やキーワードとインターネット上にある絵を結びつけ、画像を生成してくれるサービスです。

簡単にいうと、自分で絵を描かなくても、「こういう絵を描きたい」というイメージをちょっとした言葉で伝えると、それに合った絵が自動で生成される技術です。「絵を描く」という技術を持っていない人でも、簡単に「絵」というコンテンツが作れてしまうのです。

ほかには、文章の自動生成をする「GPT-3(ジーピーティー - スリー)」というツールがあり、欲しい文章のタイトルや要約だけを入力すれば、それに基づいてAIが長文を作ってくれます。こちらも同じように「文章力」などなくても、「文章」というコンテンツが作れてしまいます。

クリエイターエコノミーでは、こういった「作る技術などなくても高品質のものが作れる」テクノロジーが次々に出てきているのです。「とはいえ、仮に作れても、収入源になるような値段で売れないでしょ?」と思う方もいるかもしれません。

そんな「売るハードル」を解消しているツールに、「Fanhouse(ファンハウス)」というプラットフォームがあります。これは個人がコンテンツを有料で提供することを助けるサービスです。買い手に対して、月額課金を取ることもでき、個人が稼ぐことができています。

また、趣味としてやっていたことが、大きな収入源として売れる例もあります。それが、会員制のオンラインスクール(講座)を個人が作れる「Maven(メイブン)」というプラットフォームです。このサービスによって1対1のオンラインレッスンを開催したり、レッスン動画や教材などを配信したりできるようになっており、海外では普通の会社員でも、趣味で培った知見を人に教えることで、収入源にしている人が増えています。

これらはたくさんある例の一部にすぎませんが、クリエイターエコノミーではこのようなテクノロジーが次々に出てきており、多くの人が「パラレルキャリアを持つのが当たり前」の世界になってきているのです。

挑戦しない人は終了していく時代の到来

「とはいっても、それは海外の潮流であって、日本には来ないでしょ?」と思う方もいるかもしれません。しかし、過去を遡れば「欧米のテクノロジー」と「テクノロジーに端を発した新しい働き方」は確実に日本にも影響を及ぼしてきました。

さらに、日本では今後、大企業を中心に副業解禁の流れが加速すると予測されていますから、一気にクリエイターエコノミーが活性化すると考えられます。従来の日本人の働き方である「稼ぎ方1.0」と、誰もが「個」で稼げる最先端の「稼ぎ方2.0」とを対比する形でまとめたのが図表2になります。

村上 臣『稼ぎ方2.0 「やりたいこと」×「経済的自立」が両立できる時代』(SBクリエイティブ)
村上 臣『稼ぎ方2.0 「やりたいこと」×「経済的自立」が両立できる時代』(SBクリエイティブ)

一言で説明するなら「クリエイターエコノミー」は「楽しんで働いたもの勝ちの世界」だということです。なぜなら、個人の提供するものやサービスが売れるかどうかは、「共感」が重要になってくるからです。だからこそ、「自分が好きで好きで仕方ないこと」を第二のキャリアに据えるべきです。そうして、「自己実現」を中心に、「やりたいことを仕事にする」。それにより皆さんの心に生まれる「熱狂」こそが、買い手の「共感」を呼びます。

「遊ぶように働く人」こそが成功する時代。それが「クリエイターエコノミー」であり、そんな新時代に適した働き方が「稼ぎ方2.0」なのです。ぜひこの機会にあなたの働き方を変えていきましょう。