※本稿は、辛酸なめ子『大人のマナー術』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
昨年末に見た、米国の景気後退の影
2022年末、年末に向けて株式相場は回復するというJPモルガンのマルコ・コラノビッチ氏の予想を信じたいところでしたが、コロナ禍や戦争、インフレにスタグフレーション(景気停滞と物価上昇のダブルパンチ)の懸念もあり、まだ予断を許さない状況でした。
証券会社で渡されたグラフを見ると、ナスダックもS&P500もガクッと下がっていて、1年前よりかなり低い値です。そして自分の含み損の金額もえらいことに……。
この状態からV字回復することはあるのでしょうか。米国株を推していた厚切りジェイソン氏はもしかして損切りジェイソン氏になっていないか、とか様々な思いが去来します。証券会社の人は、今は想像以上に下がっていて、混乱期だと語っていました。
堂々巡りの不安を語る男性
先日は、カフェで隣に座った男女が、投資で損している男性と、証券会社の女性、という組み合わせのようで、男性が独り言のように堂々巡りの不安を語っているのが聞こえてきました。
「毎日毎日気をもんでプラスマイナスゼロになるならやめた方がいい。でも1年2年で戻せれば平気だけど。今は下げ相場だけれど、落ち続けるってことはないと思うし……」
女性は男性をなだめるような口調で「そうですね」と相づちを打っていました。ちらっと聞こえてきて気になったのは、「証券会社では『損切り』は禁句なので言えない」ということです。
たしかに「時間を味方につけましょう」と言われますが、損切りの話はまだ出ないです。また、顧客の中でも70代80代の富裕層は、下がってもあまり慌てていないとか。自分が亡くなるまでの老後資産はすでに確保していて、余裕の部分で運用しているのでしょう。
それより若い40代50代の老後のことを見据えて投資を始めた人たちは、今の状況に焦りを感じずにはいられません。
投資信託の含み損が大変
お金に関してプロの話を聞ければと、保険会社につとめる友人Aさんのつてで、某保険会社の営業所所長の男性にお目にかかりました。大学は経済学部会計学科でゼミでは証券市場論を学ばれ、サーティファイド ファイナンシャル プランナー(CFP)の資格も持っている、マネーリテラシーの塊のようなお方。若いのに投資用マンションや株(スポーツ系の会社や新興国の株)で着実に資産運用しているとか。保険会社の友人女性によると、講習会などではドSトークが炸裂しているとか。マスクごしには今風のイケメンに見えましたが……。
今、投資信託の含み損が大変だという相談をしてみました。
所長「慌てるようなお金を株に投資するのが悪いとも言えますね。生活費まで投資には使わない方がいいです。何年か前、外貨建て保険がすごく問題になって。リスクをちゃんと説明できていなかった上、定期預金を全額入れさせるケースがあったんですよね。そうして10パーセントも目減りしたら不安になるのは当然です。1000万円のうち100万円ならそんなに問題にならなかった。資産は分割するのが重要です」
貯金を3分割する
投資を勧められるとき、海外では資産の半分以上運用してますよ、とか言われましたが、いきなり多額を投入するのではなく、細かく分割する方が安心かもしれません。
所長「私がいつもお客さんに話すのは、お金に限らずリスクを3分割してください、ということ。貯金は、短期、中期、長期で分けましょう。短期は、急な出費などに対応する、ないと困るお金。お財布や銀行の普通預金です。中期は、5~10年、目的があって貯めておくお金。旅行のため、家を買うための資金です。長期は、今必要ないから運用しておこう、というお金です。リスクをある程度取れます」
生活資金と目的資金と目的のない投資資金とにお金を分けて、運用はとりあえず使わないぶんを回すのが良いそうです。
所長「今そのお金いらないから下がっててもいい、という余裕ができます。むしろ株が下がったときに買い足ししておこうかって、思えたり」
私も一回それをやったんですが、さらに下がったんです……。損益が雪だるま式に。時期が悪かったんでしょうか……。
お金のプロ直伝「資産運用テクニック」
所長「今、難しいんですよ。金利だけで決まらないし、ベンチャーはいつ潰れてもおかしくない要素が多すぎて誰も予測できない。今は何もしないのが一番いい。ドブに捨ててもいいと思えるお金を投資に回すのがいいかもしれません」
今はドブ川の中を這い回っているような心境です。お金のプロから見て、今後上がりそうな株はあるのでしょうか。
所長「おすすめって言われると難しいけど、元手があるならメガバンクの株。配当利回りは悪くないです。ただ、デパートとか小売系は復活しないと思ってますね。地代が高すぎる。衣食住に関してはないと生きていけないので必ず戻ると思います」
現時点では余裕がないので、いつかの参考にさせていただきます。
所長「投資の内容は道具なんで。お魚をさばくのに中華包丁は使わない。果物ナイフじゃ切れないでしょ、というのと一緒で道具を的確に選んでいく。株主優待など目的に合わせて選ぶのも良い。あとは好き嫌いかな」
所長の比喩はレベルが高すぎて、素人的にはわからなかったのですが……。
リスクを減らす禁断のテクニック
所長「私は証券マンに、そんなに儲かるならあなたも買ってください。一緒にやりましょう。やってくれるなら同じ金額買いますよ、と言ってみます。『いや~』って返ってきたら怪しいですね」
また別の人間関係のリスクがありそうですが、機会があったら言ってみたいです。再三、米国株の今後について伺ってみます。
所長「ウクライナの状況の先行きが不透明だったり、利上げもありますが、アメリカは産油国ですから。資源がある国は地盤が強いです。コロナが落ち着けばロス五輪もあるし、株価も上がると思います」
ほのかに希望が持てると感じました。若い所長の先見性を信じて、長期保有を続けようと思いました。
「神様の視点」を活用する生保レディ
所長を紹介してくれた、保険会社で生保レディとして活躍しているAさんも、保険や金融について勉強するうちに、金融リテラシーが上がり、今まで苦手だったお金に対する意識が変わったそうです。
Aさん「今までお金のことが苦手すぎて資本主義を批判していたんです。保険の継続的な仕組みを知って考え方が変わりました。ファイナンシャルプランナーの資格を取るために勉強できる環境はいいですね。自分の金運も上がった気がします」
Aさんは、契約を取る方法もそっと教えてくれました。
Aさん「神田明神か、某稲荷神社にお参りすることが多いです。空いている神社だと、神様の声が聞こえることがあるんです。この前も声がして、コミュニケーションが取れました。契約あと一件欲しいんですが、どうすればいいですか? と聞いたら『周りの人に優しくして、純粋に楽しい時間を過ごしましょう。小さい積み重ねの延長で契約を取れますよ。欲を前面に出さないで、愛を持って接することを心がける方がいいですよ』と教えていただきました」
ずいぶん具体的にアドバイスしてくれるんですね。神様っぽい助言です。
Aさん「あと、この前は『陰の気が溜まりすぎてるので、デトックスして光を取り入れましょう』と言われたので、早起きして朝日を浴びるように心がけたら、営業成績が良くなりました。ここ数カ月は目標を達成して表彰されましたが、神様のおかげです」
保険会社は、人間と同様に神様へのアポ入れが重要
Aさん「神様と人間って一緒だと思っていて、神様にはお賽銭やお供えを、人間には手土産を持っていくように心がけています。神アポとお客さんへのアポの比重を同じくらいにすると、私の場合うまくいきます。とくに神田明神など平将門系の神社によくお参りしているので、私は将門に養ってもらってる感じなんですね。困ると助けてもらう。それが来なくなったときはやめ時かな」
保険会社の所長の話では、資金を分散させるのが良いとのことでしたが、同じく神と人間に対人関係を分散させるとうまくいくのかもしれません。
Aさん「あと、これまで恋愛依存的だった過剰なエネルギーも、数字を追いかけるエネルギーに換えたことで逆に恋愛運もうまく回るようになり、人生全体のバランスが取れるようになりました」
資産も対人関係も分散させることで心穏やかに
たしかに数字とか株価を追っていると、人間関係の心配どころではなくなってきます。これもある意味リスク分散なのでしょうか。
話を聞いて、とりあえず米国や日本の株が上がるように神社で神様にお願いしたくなりました。ちなみに調べてみたら、証券マンがよくお参りするのは、兜町近辺の兜神社と日枝神社、末廣神社などだそうです。やはり最終的には神頼みなのでしょうか。東京じゅうの証券マンが株の上昇をお願いしまくって、今の状況なのかもしれませんが……。
そもそもお賽銭で株式市場を動かせるのか、という疑問も浮かびます。神様の視点からは、損失という体験で人間が学びを得て成長するのを見守ってくださっているのでしょう。私も今回資金が激減しなければ、ここまで他国の経済に興味を持つことはありませんでした。勉強代……だと思えるようになりたいです。