国の税収を上げるためには、増税するしかないのだろうか。嘉悦大学教授で経済学者の髙橋洋一さんは「税収を上げる方法は、税率アップだけではない。漏れなく公平に税を徴収できるようにするためにはどうするかを考えるべきだ」という――。(第1回/全4回)

※本稿は、髙橋洋一『増税とインフレの真実』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

たくさんの一万円札
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日本はなぜコロナ禍でも消費税減税ができなかったのか

私たちに身近な税金といえば、消費税がある。

消費税は財務省にとって良い税制だ。

何といっても、徴税コストがとても安く、簡単に徴収できる。

また、店舗などに対しては仕入税額控除といって、売上にかかる消費税から仕入れにかかった消費税を引いて二重課税を避ける制度がある。これによって仕入れのごまかしが難しくなり、税金についても真面目に申告するインセンティブが働く。そういう意味で良い税制なのである。

税務当局が動かなくても、しっかり税を取ることができる。

ただ、日本の消費税は、実は大きな問題点を抱えているのだ。

コロナ禍において一時、街から人が消えた。日本の消費は激減し、消費税を減税すべしという意見も見られた。

ところが、政府は絶対にこれをやらなかった。

ドイツやイギリスなどは経済対策の1つとして、消費を喚起するために消費税減税をやることがあるが、日本は絶対にやらない。

なぜだ? と思った方も多いだろう。

ご説明しよう。しないと言うより、「できない」が正しいかもしれない。

消費税を社会保障に使うのは間違い

なぜできないかというと、消費税と社会保障を紐付けてしまったからだ。

世界中、こんな間違った方法をとっている先進国はない。消費税を社会保障に使うのは、とんでもない間違いなのである。

社会保障とは、社会保険料によって運営されるものである。年金は年金保険料で、医療保険は医療保険料で行われるべきだ。

これらは「保険」だからである。

保険原理というものがある。

たとえば社会保障というのは、「一部の人を助けるために、皆で負担しましょう」という原理のもとに運営されている。

年金は、「長生きの人には、先に亡くなった方の分を回しましょう」

医療保険なら、「病気の人を、健康な人が支えましょう」

という考えのもと運営されているのだ。

そして保険は、厳密に保険料を徴収して運営されるのが、世界の常識なのである。

“禁じ手”に手を染めた財務省

保険料をとる段階で、どのくらいの人が亡くなり、どのくらいの人が病気になって、どのくらいの人が長生きしているかが分かる。

人口統計は充実しているので、生命表が作れる。生命表とは、ある期間における死亡状況(年齢別死亡率)が今後変化しないと仮定したとき、各年齢の者が1年以内に死亡する確率や、平均してあと何年生きられるかという期待値などを、死亡率や平均余命などの指標(生命関数)によって表したものだ。これにより保険運営は、より安定させられる。

給付と負担を明らかにするのが、保険の大前提だ。だから、保険の運営を保険料以外の何か、つまり税に頼ってはいけない。つまり禁じ手だ。

まことに恥ずかしい話だが、これを日本はやってしまった。財務官僚が狡猾に政府をだましたのである。

隙あらば増税したがる財務省

いったん騙してしまえば、あとは赤子の手をひねるようなものだ。

「消費税を減税してもいいですけど、社会保障の運営が厳しくなりますよ。それでもよろしいですか?」

と言われれば、政府が消費税減税に動くのは難しい。

増税したい財務省にとって、減税などもってのほかだ。

消費税は上がり続けるばかりで、景気が悪くなっても、「社会保障」を人質に取られ、政府は下げることができない。

財務省は非常にうまくやったのである。

悲しむべきことに、こうして我が国は、すでに20年以上継続して消費税を社会保障目的税にしてきてしまった。

これは「ごめんなさい」で済む問題ではない。

もちろん、制度として間違っているのだから正すべきだと私は思う。変えなければ、社会保障制度の運営を間違える危険性をはらんでいる。

もし政府自らこの間違いを認めれば、政権が倒れかねない大事になる。だから政治家には期待できないだろう。

財務省というのは、とにかく隙あらば増税したくてウズウズしている人間の集団だと考えてほしい。年がら年中、増税のチャンスをうかがっている。早く増税しないと自分の出番がなくなってしまうと焦っている。

彼らにとって、増税を実現することこそ成果であり、手柄、勲章なのである。

財務省
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税収を上げる方法は増税だけではない

財務省が、大変嘆かわしいことだが、「増税だけが勲章になる組織」だという話をしてきた。

しかしそう言うと、

「日本の財政は大変な状況なのだから、増税もやむを得ないのではないか」

という、物分かりの良すぎる意見が噴出するかもしれない。

あるいは、そういうコメンテーターの声を聴くかもしれない。

はっきりここで否定しておこう。

税収を上げる方法は、税率アップだけではない。私は、漏れなく公平に税を徴収できるようにするためにはどうするかを考えるべきだと思う。

先に徴収漏れをなくすべき

現状ではこれができていない。取るべき所から取れていないのだから、これを解決するのが先決だ。

社会保険料の徴収など、かなりずさんだ。小さい事業所など、従業員の給料から社会保険料を天引きしておいて、実際にはその分を納めていないケースが少なくない。いわゆる徴収漏れである。

その他にも、それぞれの税に徴収漏れが数多くある。これらをきっちり取れるようになるだけでも、ずいぶん税収は変わってくるだろう。

たしかに、ふた昔くらい前であれば、税収を上げるには税率を上げるのが普通だった。

しかし、それはもはや過去のやり方だ。

しかし前例主義に凝り固まった財務官僚は、未だに過去のやり方にこだわって、アップデートできていない。

かつては、消費税や酒税など、いわゆる商品やサービスに上乗せする形で徴収される間接税が上がると、税務当局は所得税や住民税といった直接税を下げることでバランスをとっていた。

最近は、マイナンバー制度が導入されたことから、システムを整えればどちらでも徴収できるようになっている。

直接税はもちろんだが、間接税も、たとえば消費税なら簡易税率をやめ、すべてインボイスで漏れなく徴収できるようにすれば、かなり税収は上がるはずだ。

インボイスについて、ここで詳しい説明はしない。ただ、消費税を導入している国であれば、たいていは当たり前にある制度だ。端的にいえば、しっかり漏れなく消費税を徴収するための制度だと思ってほしい。

ただ、こうしてテクノロジーや新しい制度を利用して上がった税収分は、これまで徴収漏れしていた分であり、新たに税を課した結果ではない。これまで正しく公正にやってきた人は、何ら痛手を負わない税収である。

すべての人から公平に、平等に税を取れば、税率はそのままでも十分に税収は上がる。不公平が是正されるのだから、こちらの方がずっと良いだろう。

しかし財務官僚は、税率アップにばかり気が向いているようだ。徴収漏れの話などには耳を貸さないのである。

「すべて電子マネー」で税収アップを!

税収を上げたいなら、不公平にずる賢こくやっている人から取ればいい。「真面目に申告する方が賢い」という状況を作ればいいのである。

たとえば、電子マネーが一般化している現在ですら、領収書にこだわるのもおかしな話だと思えてならない。いちいち領収書をとっておくのも手間だし、かさばるし、集計するのも時間がかかる。

その点、電子マネーは利用すれば自動的に履歴が残るのだから、「これでいいじゃないか」といつも思うのだ。しかし私自身、税務署から「領収書を保存しておいてください」としつこく言われ続けている。面倒でしょうがない。

「漏れなく平等に徴収する」という発想が希薄

簡単で便利で確実なやり方がなぜ認められないのかといえば、そうでない方が得な人がいるからだろう。どうしても現金取引で、紙の領収書でやり取りしたい人がいるわけだ。

さらに言えば、財務省には「皆から漏れなく平等に徴収する」という発想がそもそもないのだろう。

政治家にもないのかもしれない。

自身が現金取引でやましいことをしていれば、「すべて電子取引にして、低い税率のまま、漏れなく公平に税を徴収する」などもっての外ということだろう。

思い返してみれば、かつて政治資金が問題になった政治家も、文書通信交通費の使い道について騒がれた政治家も、領収書は出さなかった。国民には領収書を出せとうるさく言うのに、自分たちは出さないのだから呆れた話、納税者をバカにした話である。

電子取引でやれば、取引の履歴がなくなることもないし、事務コストもかからず、管理もラクだ。良いことずくめである。

私は普段ほとんど電子マネーで取引しているし、領収書をわざわざもらうのも、とっておくのもいい加減面倒だ。政府も財務省も、そろそろ世界標準のテクノロジーに適応してほしい。

増税しなくても財源はある

前項までで、増税しなくても税収アップにつながる方法をお話しした。

昨年来、防衛費増額が取り沙汰されているが、私はいろいろな所で、「増税しなくても財源はある」と話している。

では、財源はどこにあるのかについて説明しよう。

大きく分けて5つある。この5つは、ロジカルに考えればこうなるという性質のものだ。なお、財務官僚であれば、この5つは知っている。

① 他の歳出カット

まずこれを考えるわけだが、他省庁に「予算をカットされるのは嫌だ」と反対にあうのと、捻出できる金額が少ないので、ほとんどお題目である。まずやらない。

② 建設国債の対象になっているかどうかを考える

②と③をどのくらいできるかがポイントになる。これができないと、だいたい⑤に行く。財務省は②、③にはほとんど触れずに⑤に持っていこうとしている。

②は、サッカーでいえば右サイドから攻めるやり方だ。自民党の保守系の人等が私に質問をしてくる。

カギは建設国債と埋蔵金

建設国債といきなり言われても、唐突に感じる読者が多いだろう。

実は建設国債の対象には、さまざまなものが含まれる。予算編成時に、一般会計の予算総則の中にある「表」に書き込めればOKということになる。

これまで、どういうものが書き込まれたかを説明しよう。

たとえば、海上保安庁の船舶建造費。これが公共事業関係費として計上されている。

「なぜ海上保安庁の船が公共事業なんだ?」と思われるだろうが、これはもう過去のいきさつからとしか説明しようがない。

ポイントは、海上保安庁の船舶が入っているなら、海上自衛隊の船についてはここに入らないという理由は、ロジカルにはないという点だ。

さらに、人工衛星の経費が書き込まれたこともある。

ちょっと考えてみてほしい。人工衛星とはどういうものか。

一番上に乗っかっているのは衛星だ。その下はロケットだ。

髙橋洋一『増税とインフレの真実』(秀和システム)
髙橋洋一『増税とインフレの真実』(秀和システム)

そして、ロケットとミサイルは、構造が同じである。衛星を爆弾に置き換えれば、ロケットはミサイルになる。

そして、安倍元首相が言っていた「防衛国債」とは、ずばりこの建設国債のことである。だから私はいろいろな所で、「この建設国債でやるというのは、安倍さんが言っていた話ですよ」と、話して回っている。

もっとも、財務省はこれについてもさまざまな理屈をこねくり回している。それこそディフェンダーが何人もくっついてくる。

③ 「その他収入(埋蔵金)」

これは少々複雑なのでここでは説明を省くが、野党の人等からの質問が多いので、いわば左サイドから攻める方法だ。

現状、財務省は医療法人については、やると言っている。これは2000億円、つまり0.2兆円だ。他に外国為替資金特別会計(外為特会)という話も出てきている。

ここも財務省のディフェンスが堅い。

④ 自然増収

これについては、確実性がないと財務省が消極的だ。

⑤ 増税

これこそ財務省の大本命だ。当面はつなぎ国債として増税に結びつけたいというのが財務官僚の戦略だ。

②あるいは③でゴールできれば、⑤の増税には至らないのである。