自己成長できる人間関係とはどのようなものか。起業家であり、2児の母でもある尾石晴さんは「気の合う人との付き合いは、快適な反面、自分がコミュニケーション下手になっていく気がします。一方でストレスを感じる居心地の悪い人は、自分を成長させてくれる要素を持っています」という――。

※本稿は、尾石晴『「40歳の壁」をスルッと越える人生戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

快適な人としか付き合わないことへの不安

会社を辞めてから、本当に人間関係のストレスがなくなりました。社内でのもめごとは特になかったのですが、人間関係の調整を無意識にやっていたのだと実感しています。

仕事だけでなく、人間関係も整理されていきました。好きな人、仕事が進めやすい人、気が合う人……と、日常的に関わる人もどんどん厳選されていきます。快適な反面、自分がコミュニケーション下手になっていく気もしています。

・快適な人としか付き合わないことへの不安……考え方が似た人しかいなくなる。快適だが、批判的、多様な視点を得る機会が減る。
・仕事のダメ出しをされる機会が激減……1人仕事には苦言を呈する人がいない。仕事の評価は次の仕事依頼=次が来ない仕事は切られて終わり。

周りにいるもっとも近しい5人は誰か?

ドロップボックスの共同設立者兼CEOのドリュー・ヒューストンが、2013年にマサチューセッツ工科大学の卒業式で、「あなたは周りにいるもっとも近しい人『5人』の平均になる。皆さんのもっとも身近にいる5人は誰か?」という言葉を残しています。

5人のシルエット
写真=iStock.com/molchanovdmitry
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人は会話、思考、知識などのレベルが合うから「一緒にいて楽しい」と感じます。一緒にいても話が合わない人とは、そもそも一緒にいません。積極的に付き合おうとはしない。そのため、自分を成長させてくれるような人は、待っていても「周囲5人」に入ってこないのです。

ドリューは、「理想の自分になりたいなら、自分にちょっと負荷がかかるような(自分の理想をすでに体現している)学びのある人たちと付き合いなさい」と言っているのです。

私もついつい、付き合うのに快適な「周囲5人」は、自分とレベルが合う人にしてしまいます(楽しいからね)。でも、ずっと固定されているわけではありません。時間とともにメンバーが入れ替わっていきます。

自己成長によりストレッチゾーンにいる人と関わる

自己成長に伴い、「なんとなく今までいた集団と合わないな」「これまで楽しいと思っていたメンバーとの会話が噛み合わないな」と感じたら、レベルが上がったサインです。そのタイミングで付き合う人々が変わっていきます(ここでいう「レベル」とは、レベルが高いから人間として優れているという意味ではありません。仕事や学び、やっていることの深度の「レベル」として捉えてください)。

ポイントは、まず自分が変わってから「周囲5人」が入れ替わるということ。そして、その平均が自分になるのです。同質的な人とだけ一緒にいても、自己成長はありません(図表1)。

独立してから最近感じているのは、「人間関係を選べる分、快適な人とばかり一緒にいないか?」「ちょっとチャレンジが必要な人(ストレッチゾーンにいる人)を遠ざけていないか?」です。

好きな人とだけ関わることができるのは、一見良いようですが、阿吽の呼吸が通じる人間関係ばかりになると、

・ コミュニケーションスタイルを多方面に合わせる。
・ 相手のレベルに合うような知識を修得する。
・ 視座を上げる会話に必死についていく。

という機会は得られにくくなります。

私は「話の運びがうまい」「誰とでも会話をスムーズにできる」と言われることがあります(本人はそう思っていない)。これはひとえに、会社員だった16年間で、いろいろな年代、ポジションの違う人たちと話したり、交渉したり、視座を合わせに行ったりして培われた「基礎力」によるものだと実感しています。そして、この「基礎力」は「好きな人」「心地よい人」との会話だけでは身につけることができなかった、とも理解しています。

強制的にストレッチゾーン(自分とはレベルが上下左右異なる人々)と関わってきたおかげなのです。

人間関係には親密度による階層がある

ダンバー数(人間がスムーズでかつ、安定的な社会関係を維持できる上限人数)は、30〜150人とされています。実は、この150人にも親密度によって階層があります。

・ 第0階層(3〜5人)……親密な関係、お金の貸し借りから困りごとまで話せる
・ 第1階層(12〜15人)……月に1回程度会うような親密な関係
・ 第2階層(45〜50人)……距離はあるが、知り合いと認識している関係
・ 第3階層(150人)……友だちの限界

第0〜第1階層は、先ほど挙げた「周囲5人」のメンバーが所属する階層になるでしょう。独立して自分で仕事をする場合、この階層に入る人を選ぶことができます。

独立して2年経ち、この階層にいる人たちを見渡してみると、人格的にも気が合い、コンテクストを読む必要も特になく、気楽にお付き合いしてくれる人ばかりです(感謝)。

そのため、自分のコンフォートゾーンは広がり、ストレッチが必要なコミュニケーションは減っていると感じています。

「会うと疲れる人」からのお誘いを受ける理由

こんな私でも、時間を取ってもらうのが申し訳ないような方からお誘いをいただくことがあります。実は、こういったお誘いがとても苦手な私。つい断りたくなってしまいます。

ストレッチゾーンに入る会話をするので、相手がいわゆる「すごい」人ほど疲れてしまうのです。会話についていけるか? (私が思う)レベルの低い話をしていいのか? と不安になってしまう。

この「自分が疲れるのが嫌だから」「自分が楽したいから」という思考は、コンフォートゾーンにい続けたい人の心理です。しかし、この考え方ではどんどん人間関係が狭くなり、コンフォートゾーンもいつか縮小していくな、と気づいたので、最近はこういったお誘いもありがたく受けるようにしています。

リビングで話す女性
写真=iStock.com/itakayuki
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先日、とある事業家さんとお話ししました。大先輩なので、私のやっていることに、遠慮なく質問や指摘が入る。そのたびに、ハッとしました。

私と同じような経験や視座では見えないものが、ストレッチゾーンにいる人にはバッチリ見えている。見えているから「問い」が立ち、その「問い」に答えられない私は、思考がストレッチして新たな行動(改善や情報収集)へと向かう。

自分にとって快適な人に囲まれていると、「それで大丈夫?」「それっておかしくない?」という視点を持ちにくいのです。コンフォートゾーンにい続けてしまう自分に喝を入れられた気分でした。

一方、私がその方に差し出せるものは何もないと思っていたのですが、愛用している家電・ホットクックを使った料理の話や家事外注の話は重宝されました。

私にとってストレッチゾーンにいる人でも、その人にとっては私がストレッチゾーンにいる部分があり、お互いに情報のやり取りが行えそうだと「会いたい人」として認定されていくのかも、と気づきました。

ストレッチゾーンにいる人が自分を成長させてくれる

ストレスを感じる居心地の悪い人は、自分を成長させてくれる要素を持っています。

【私的ストレッチゾーンにいる人】
・ 私のやりたい分野での知見がある。
・ 私の知らない経験や情報を持っている。
・ 結果が出ている(成功体験がある)。
・ 私より視座が高い。

会社勤めをしていたり、多くの人と関わる仕事をしていたりすれば、会うとストレスを感じる「ストレッチゾーンにいる人」とも付き合うチャンスが増えます。

独立すると、ネガティブなストレス(関わりたくないヒト・モノ・コト)を減らすことができますが、ポジティブなストレス(自己成長機会)も減ってしまう可能性がある。

尾石晴『「40歳の壁」をスルッと越える人生戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
尾石晴『「40歳の壁」をスルッと越える人生戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

自分自身が楽で快適=自分と同じ考えを持つ人しかいない状況は、近い未来は幸せです。でも、「周囲5人」や環境も成長していくので、遠い未来ではマイコンフォートゾーンが縮小してしまいます。「内向的だから多くの人と関わると疲れる」なんて言わずに、ストレッチゾーンを広げてくれる人々と関わりを持っていくことが、独立した者の心得として大事だなと思いました。

チャンスが来たらちゃんと打席に立ち、ストレッチゾーンにもコンタクトしていくことで、気づけば自己成長して「周囲5人」が入れ替わっていく気がします。

近い未来、遠い未来、あなたにはどんな「周囲5人」がいそうですか? ストレッチゾーンにアクセスしていますか?