41道府県議選の結果、女性議員の割合が全体の14%に
今回の統一地方選挙は、2018年に「政治分野の男女共同参画推進法」が施行されてから2回目となります。同法は、政党に対して、衆参議員や地方議会の選挙における男女の候補者数をできる限り均等にするよう求めるものです。
これを受けて、施行の翌年に行われた統一地方選挙では女性市議会議員が増加しましたが、女性県議会議員はそれほど増えず、10.4%にとどまりました。
ところが今回、4月9日に行われた41道府県議選では女性当選者が過去最多の316人に上りました。議員定数全体に占める割合も14%と過去最高になり、政治分野における男女共同参画推進法の成果がようやく都道府県レベルまで波及してきたなと実感しています。
鹿児島、香川、岡山で女性議員の割合が2割を超えた
日本のジェンダー・ギャップ指数(男女平等度)は先進国中最下位で、なかでも後れを取っているのが政治分野です。これは女性の国会議員や大臣が非常に少ないためですが、国政に女性を増やすには地方政治から女性を増やしていくことも重要です。今回の統一地方選では、その地方政治の場に女性が増えたわけで、これは大きな一歩だと思いました。
従来、都道府県議会における女性割合は都市部と地方の格差が激しく、2022年時点では最も高い東京が31.7%、最も低い熊本が2.0%とかなりの差がありました。しかし、今回の選挙では地方で、特に熊本、鹿児島、香川、岡山、青森、山形などで大きな動きが見られました。
熊本ではそれまで1人だけだった女性県議が過去最多の5人に、鹿児島では5人から倍以上の11人になりました。また、香川では9人、岡山では12人と、いずれも過去最多の女性当選者が出たのです。
逆に、以前から女性議員が2割前後の京都や神奈川などの都市部では、男女比率はあまり動きませんでした。今回は、男女比率が大都市圏ではなく、むしろそこから遠い場所で大きく動いたというのが面白かったですね。
女性候補を応援するさまざまな取り組み
もちろん、一口に地方といっても、女性議員が減った地域もあればほとんど変わらなかった地域もあります。増えた地域では、例えば熊本では地元の女性たちがネットワークをつくって女性候補者を支援する活動をしていましたし、そのほかの地域でも女性だけでなく男性もさまざまな取り組みをしていたと思います。
今回は、そうした取り組みがようやく成果として表れたように思います。女性地方議員を増やすための成功方法はひとつではない、この成果を今後に生かすには結果だけでなく各地の取り組み内容を細かく見ていく必要がある──。私にとっては、この2つをとても強く感じさせられた選挙でした。
とはいえ、地方政治がまだまだ男性優位であることには変わりありません。私が参加している「地域からジェンダー平等研究会」では、地域ごとの男女格差の特色を発見してもらおうと、毎年「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」を発表しています。3月には、その2023年版を公開しました(図表)。
自治体のジェンダー・ギャップ指数を読み解くには
このうち政治分野のジェンダー・ギャップ指数を見ると、男女平等度が高いトップ5は東京、神奈川、千葉、栃木、京都。ワースト5は宮﨑、鹿児島、石川、大分、青森という結果になっています。これだけ見ると、皆さん「やっぱり都市部は平等度が高くて地方は低いよね」と感じることでしょう。
しかし、中身を細かく見ていくとそう単純な話でもありません。実はこうして指数化すると、人口が減りつつある地域はどうしても不利になってしまうのです。人口が増えている都市部は新しい議席も増えるので「じゃあここに女性候補者を立てよう」となりやすいのですが、人口が減っている地域では議席も減りますから、女性候補者が新たに入ろうとしてもそもそも空席がないのです。
だからこそ今回、熊本や鹿児島などで女性候補者が躍進したのがどれほどすごいことか。他方で、京都や神奈川は府県議会の女性割合が2割程度で、統一選でもほとんど変わりませんでした。今後は2割の壁をどう突破するかが課題になると思います。
女性候補者は男性に比べればまだまだ少数ですが、ひとたび選挙に出れば強い。有権者の中には、今の日本に閉塞感を抱いていて新しい政治を求めている人もたくさんいます。女性候補者は、こうした人々の「新しいことをしてくれそうな人に投票したい」という思いに応える存在なのです。この期待感も、今回の選挙における女性候補者の大量当選につながったのではないでしょうか。
女性候補に期待が集まるのはアウトサイダーだから
しかし、「女性なら新しいことをしてくれる」「きっと日本の政治を変えてくれる」という期待感は、政治の場に圧倒的に女性が少ないという現状の裏返しでもあります。これは海外でも同じで、女性政治家自体が今の政治へのアンチテーゼのシンボルであり、アウトサイダーだからこそ人々は期待するわけです。
本来めざすべきなのは、女性がアウトサイダーではない社会。旧来の男性的な価値観だけで行われる「男性政治」は世界各国共通の課題ですが、解決に向けた動きを見ると日本は突出して遅れています。世界の変化のスピードについて行けていないというか、本当に時差が激しいですね。
2023年1月に刊行した『さらば、男性政治』(岩波新書)は、そうした現状や背景を分析・考察したものです。ここで言う男性政治とは、妻がいて家事や育児などのケア責任を免れている「ケアなし男性」だけで営まれ、新規メンバーも基本的にはそうした男性だけが迎え入れられ、それを当たり前だと感じる政治の在り方を指します。
従来の「男性的な」政治こそが問題の本質
ただし、男性の中にもそうした男性政治を拒否する人はいますし、逆に女性の中にも男性政治に迎合し自ら組み込まれようとする人もいます。ですから、単純に女性の数が増えればいいというものではないのですが、それにしても今は少なすぎます。日本は女性の地方議員を増やしつつ、市区長や知事、そして国政に女性の政治家を増やしていかなければなりません。
女性が全体の4〜6割にまで増えてくれば、発言者が男性であろうと女性であろうと個人の意見として捉えられるようになり、多様性のある新しい政治を実現しやすくなるでしょう。
よく「集団内での割合が3割を超えると意見として認められやすくなる」と言われますが、今の男性政治を壊すには3割ではまだ無理です。そして、5割で頭打ちと考えず半数を超えていく局面もあっていいでしょう。
これを実現するには、当然「ケアなし女性」だけでは足りません。家事や育児などのケアを担っている人も含めて多くの女性に参入してもらう必要があり、それを可能にするような新しい選挙文化が必要なのです。
組織力で決まる選挙のままでは女性議員が増えない
選挙で当選するには、現実的には組織力が必要です。こうした力を持つ組織は、今の日本ではほぼ男性の集団しかありません。組織力がモノを言う選挙文化を社会全体で変えていくべきだと思っています。
女性候補者が組織の外にいる有権者を取り込むことができれば、政治のダイナミズムは大きく変わります。そのためにも、議員の「なり手」だけでなく、支援者や選挙ボランティアなどの「支え手」にもどんどん女性が入っていってほしいですね。
選挙ボランティアに興味があっても、何となく尻込みしてしまう、どうしたらなれるのかわからないという女性も多いかもしれません。確かに国政選挙は政党色が強いので少しハードルが高いですが、地方選挙なら無所属の候補者もいるので、初めての人でも入りやすいのではないでしょうか。
支え手になる理由も、身近なことから考えていくといいと思います。保育園のオムツ持ち帰りに反対の声を上げてくれたとか、駅前の木を伐採せずに残してくれたとか、そうした「暮らしをよくしてくれた」という体験を基に、気軽に支え手に加わってもらえたらと思います。
地方議員は、私たちの暮らしをいい方向へ変えてくれる存在です。自分が応援した候補者が議員になり、実際に暮らしが変わった──。そうしたことを経験する女性が増え、その経験を周囲と共有してくれたら、きっと女性議員の増加につながっていくはずです。組織の外にいる女性同士がつながり、女性候補者を押し上げるネットワークをつくっていくことが大事なのです。
同じような顔ぶれの候補者では選ぶ気が起きない
大企業では意思決定の場に女性が増えつつあります。この変化は、やがて政治の世界にも波及してくるでしょう。本来なら国民が直接候補者を選ぶ政治の世界のほうが変えやすいはずなのに、残念なことに日本では政治のほうが企業に後れを取っています。
これは結局、皆が政治をあきらめているからなのかもしれません。現在の男性政治の下では、政党が出してくる候補者はいつだって同じような顔ぶれで、選ぶ気が失せている人もいるでしょう。レストランだって、いつも似たような数種類のメニューしかなければ選ぶ気が失せますよね。むしろ、投票用紙に候補者の名前を書くときより、レストランで注文するときのほうが時間をかけて吟味しているかもしれない。政党には「もっと私たちが食べたくなるメニューをつくってくれ」と言いたいです。
多様性のある政治をつくるには女性議員の増加が不可欠です。そのためには、なり手と支え手に加えて投票者の力も重要になります。有権者の方々には、どうか熱意を持って候補者を選んでいただきたいですね。そして、少しでも多くの方に「自分が選んだ議員が生活を変えてくれた」という体験をしてほしいと思います。