家事・育児・仕事と多忙な日々の中で、夫婦関係を保つにはどうすればよいか。起業家であり、2児の母でもある尾石晴さんは「中年の危機にぶつかる年代は、『緊急だが重要ではないこと』が多すぎる。この時期は夫婦関係の方向性を見つけるための情報収集期間(モラトリアム)にしたらいいのではないでしょうか」という――。

※本稿は、尾石晴『「40歳の壁」をスルッと越える人生戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

小1の壁と小4の壁にぶち当たる40歳前後

平均初婚年齢、出産年齢ともに30歳を超えている現代は、ちょうど40歳前後で2つの「子育ての壁」にぶち当たります。

・小1の壁……保育から学業への移行期。登下校を子どもが自分で行うようになる。夏休みなどの長期休みもあり、親のフォローが必要。
・小4の壁……学童の利用が終わる時期。学ぶ内容に抽象的な概念が増えて、難しくなり始める。反抗期も始まる。

小学生の後ろ姿
写真=iStock.com/paylessimages
※写真はイメージです

第二子、第三子がいる家庭は、保活や子どものイヤイヤ期なども「子育ての壁」になり得ます。経験上、保育園時代の子どもの「お世話」(食事、お風呂、寝かしつけなど)は、親でなくても問題ないことが多く、シッターさんに頼ったり、時間や手順を決めてルーチン化したりすることができていました。

しかし、小学校の学業にまつわるフォローは、子どもがどこまでできているかを大人が継続的に観察する必要があり、外注やルーチン化が困難になってきます。子どもが自分で宿題や持ち物の準備ができ、自宅の鍵の開け閉めができるようになる小学校3、4年生くらいまでの期間なのですが、意外と長いため「壁」と感じる人も多い。

・連絡帳に書いてある宿題や明日の持ち物(よく変わる)が入っているか確認する。
・ひとつひとつの宿題にサインをする。
・学業で遅れていそうな部分をチェックする。

やること自体は大したことがありませんが、毎日内容が変わるので、地味にしんどいものです。

帰宅後2時間という短い時間で、学童の準備、習い事の準備に学校の準備、下の子の保育園の準備までしていると、時々どこかに抜け漏れが発生します。

・宿題の丸つけをあとでやろうと思って忘れたまま提出(忘れ物扱い)。
・学童に行く日ではないのに学童に行かせてしまった。
・シッターさんの手配を失念していた(頼んだつもり)。

働き方を変えないという前提が「壁」に…

先輩ワーママからは「学年が上がるにつれて自分でやるようになるよ」「そのうち親の出番がなくなるよ」と言われるものの、楽になる日は一体いつ来るのか?

もちろん、子どもが小学生になっても、うまく仕事と両立している家庭も多くあります。

しかし、当時の私はワンオペ育児&フルタイム勤務。がんばっているのに抜け道がどんどんなくなっていく……。「小1の壁」と「40歳の壁」のダブルパンチ!

「一番大きな原因は何か?」を分解してみたら、毎日8時間以上職場にいる必要があり、働き方が固定されていることだとわかりました。

さらに見えてきたのが「私が働き方を変えない」という前提で、すべてのスケジュールやキャリアプランを組んでいるから抜け道がない、という事実。

働き方を変えるタイミングなのかもしれない……。そう気づいたのは、長男が小1の冬でした。まさに「40歳の壁」に潜む「子育ての壁」にぶつかっていたのだと思います。

結婚10年前後にぶち当たる「夫婦関係の壁」

続いて、「夫婦関係の壁」について考えてみましょう。

「40歳の壁」(中年期特有の心理的危機、中高年が陥る鬱病や不安障害のことで、30代後半〜50代にかけて陥りやすいミッドライフクライシス)にぶつかるのは、結婚してから10年前後。いろいろな悩みが小さな「石」となり、積み重なってできてくるのが「夫婦関係の壁」です。

小さな「石」とは、価値観のすれ違い、子育ての方針の違い、家事育児分担の不満、それらを解決せずに放置した違和感やズレなどです。

たとえば、冷蔵庫を買い換えたい妻と、それより車を買い換えたい夫で意見が分かれたとします。

妻「日常的に使う冷蔵庫が先でしょう」
夫「いや、家族の思い出につながる車がいいよ」

結局、どちらかが折れるものの、心の底では納得していない。似たようなエピソードは、どの夫婦にも山ほどあるはずです。

結婚生活におけるこういった些末なことを、繰り返しすり合わせて夫婦の絆を深めていくのが理想ですが、すり合わせられないまま「石」として足元に転がっていることもよくあります。そのまま踏み続けて砂になり、消えていくこともあれば、他の石とくっついて巨大化することもある。さらに厄介なのが、不満という名のセメントが流れ込んで岩盤化したり、自分を守る防波堤にするために自らが石を強固に固めてしまったりすることもあるということ。

各家庭によって石の種類、壁の高さや厚さも違いますが、アラフォーともなれば一緒に過ごした時間に比例して、石が積み重なって壁となり、存在感も増してきているはずです(図表1)。

夫婦関係にまつわる悩みは多い

私の質問箱(匿名で質問をする&質問を受け取れるオンラインのサービス)には、日々いろいろな悩みが飛び込んできます。これまで1500件以上の質問に回答してきました。

夫婦関係にまつわる悩みも多く寄せられます。価値観のすれ違い、家事育児分担の不満、子育ての方針の違い、セックスレス、自分のキャリアはどうなる問題……。わかるよ、わかる。私も結婚11年目。石を蹴飛ばしたり、積み上がった石の壁を乗り越えたりして、ここまでなんとかやってきたのです。

子どもがいる家庭は石の発生率が多い

他人同士が夫婦になる。子どもが生まれて家族になる。そのたびに1人から2人、2人から3人、3人から4人の関係性へと移行し、十数年後にまた2人の関係性に戻る。

関係性が変化すると、一時的に不安定になるし、不安にもなります。そのたびに、石は少しずつ積み上がっていく。

特に子どもがいる家庭は、石の発生確率が、夫婦2人の時期と比べて圧倒的に多いです。出産や育児など、夫婦ともにはじめての出来事も多いし、乗り越え方も「これでいいのかな」と手探り。

前述の「子育ての壁」を、手を取り合って一緒に乗り越えてきた夫婦と、当事者意識が大きくずれていた夫婦では、壁の厚さは確実に違いますよね。

日々のメンテナンスが大事

夫婦で、石の発生にどう対峙たいじしたかは、その後の夫婦関係にも大きく響いてきます(実際、60歳前後の方からのお悩みも質問箱に飛び込んでくる)。日々細かなメンテナンスをして、壁になる前に石を取り除いておくことが大事です。

理想は、「緊急でない重要なこと」にちゃんと夫婦で向き合うこと。具体的には、理想の夫婦像、家族のミッション・ビジョン・バリューの作成に取り組むこと。特にお互いの理想の夫婦像を知っておくと、今後の方向性が見えてきていいですよね。

しかし、「40歳の壁」にぶつかる年代は、「緊急だが重要ではないこと」(掃除・洗濯・買い物・料理・家計・育児・介護・健康管理・親族間の交流など、毎日の細かなタスク)が多すぎる時期です(図表2)。

これらをこなしながら、「緊急で重要なこと」(子どもの病気対応や家族のスケジュール調整など)まで対応していたら、「緊急ではないが重要なこと」(理想の夫婦像、家族のミッション・ビジョン・バリュー作成など)は、ついつい後回しになりがち。じゃあ、そんな夫婦は終わっているのか? といったら、そうでもないはず。

今すべきは情報収集

仕事、子育て、日々の生活に追われ、オムツを替えながら、宿題を見ながら、生ゴミを捨てる生活を送りながら、現在進行形で「緊急でない重要なこと」を「今」考えて話すのがつらいのよ。それが「夫婦関係の壁」を巨大化させないために重要だとわかっていたとしても、できない。そんな夫婦も多いと思います。

それなら「今」は、石を細かく取り除き「夫婦関係の壁」の巨大化を防ぎながら、夫婦関係の方向性を見つけるための情報収集期間(モラトリアム)にしたらいいのではないでしょうか。

石の壁
写真=iStock.com/Turnervisual
※写真はイメージです

「こんな夫婦でありたい」と、記念日にワインでも飲みながら夫婦で話せたらいいけれど、家事・育児・仕事に翻弄ほんろうされていて、そんな余裕なんてない。「日々の生活に追われていて、子どものこと以外話すことなんて特にない。2人で何話そう?」と思っている夫婦もたくさんいますよね。そんな時期は、お互いの情報を収集する「モラトリアム」だと考えればいいのです。

尾石晴『「40歳の壁」をスルッと越える人生戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
尾石晴『「40歳の壁」をスルッと越える人生戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

【夫婦のモラトリアム的過ごし方】
・石は言葉にしてみる(違和感やズレは、とりあえず書いて外に出す、ためない)。
・時々石を取り除く(夫婦で移動中や週末に一番気になっていることを話してみる、LINEで伝えてみる)。
・壁を巨大化させないための情報収集をする(例:お互いの両親の好きなところ、嫌いなところを紹介し合う。お互いの理想の夫婦像がよくわかる)。
・「子どもが巣立った後、どんな夫婦でいたいのか」を、今はストレートに話せなくてもいい。だって、モラトリアムだから。

なるべく壁を巨大化させない、石を増やさないことに目を向ける。とりあえずそこに集中すればいいと考えると、少し気が楽になりませんか?