「女性は昇進したくない」期待された役割を演じている
思うように女性管理職が増えない企業は少なくない。その理由を尋ねてみたところ(Q1、Q2)、かなりの割合の男性が「女性全体の昇進意識が低い」と考えていることが明らかになった。管理職に対象を絞ったQ1では、男性上司の約半数がそう回答しており、一般職を含め男性全体(Q2)でも3割近くに上る。
しかし、Q3で、実は男女の昇進意欲にはそれほど差がないという結果が出ている。そのため「女性は昇進したがらない」というのは実は男性の思い込みにすぎないのだが、ジャーナリストの白河桃子さんは「男性と女性が同じ態度をとると、女性のほうがより批判されるというジェンダーロールの問題が背景にあると考えます」と指摘。つまり、「女性は昇進したがらない」という男性、そして社会から期待されたジェンダーロールを女性が無意識に演じてしまい、昇進意欲を表に出さない傾向がある。
Q1で「プライベートとの両立が困難」が、女性上司ではトップ、男性上司でも2位にランクインしているのも、ジェンダーロールの固定化の表れだという。
「逆に男性が『プライベートと両立できそうもないので昇進したくない』などと言えば、女性よりも批判されてしまう。男女ともにステレオタイプに振る舞わない人は批判されやすいのです」(白河さん)
では、女性が本音でどう考えているのかというと(Q2)、「男性中心の企業風土」、そして「柔軟な働き方(フレックスタイムなど時間の柔軟性)が不足」の割合が高かった。
白河さんは「働き方や昇進システムに至るまで、すべて男性に有利にできており、女性はまだまだ不利なところで戦っているのが現実。場所、時間をいくら会社に拘束されても構わないという社員に最適化されている現状を壊し柔軟な働き方を認めていかないと、なかなか女性管理職は増えないでしょう」と提言する。
女性は「地位よりお金」管理職の給料が低すぎる
日本人の実質賃金がここ30年上がっていないことが話題となっているが、給料の安さはやはり女性の昇進意欲にも響いているようである。
「女性活躍の推進を含め、D&Iを推進するために、弊害になっているのは?」(Q4)という設問では、女性は「給料が仕事に見合わない」という回答が最も多く、約4割。男性は約2割なので、かなり男女差がついたが、白河さんは「女性のほうがお金にシビアなのは確か。管理職のポジション、いわば『名』よりも給料という『実』を取る、というわけですね」と話す。
日本企業では必ずしも昇進=昇給を意味しない現実も影響しているという。昇進の第一段階である係長級では、役職手当が少ない一方、残業代が出なくなり、一般社員の頃より実質減給になるケースも少なくないからだ。
女性では2位に「働き方改革の浸透度の低さ」がランクインしているのに対し、男性の同順位の回答が「特にない」というのも対照的だ。
「働き方改革に関する関心度は女性のほうが圧倒的に高いということですね。まだまだ多くの男性は、妻がライフイベントをすべて引き受けてくれるので、働き方の変化に無関心でいられるということなのでしょう」(白河さん)
D&Iの推進は企業のリスク管理にも寄与
管理職への昇進を希望しない、どちらでもよいと回答した人にその理由を聞いたところ(Q5)、男女ともに「責任が重くなる」と回答した割合が最も高かった。しかし、その割合を見ると男性が約6割、女性が約8割と大差がついた。
この男女差について、白河さんは「女性はどうしてもロールモデルが不足しており、男性よりも管理職の役割を真面目に考える。逆に言えば、管理職責任を重く受け止めている分、男性よりも管理職の適性が高いということでもあります」と分析する。
女性管理職比率を上げることに成功している企業は、管理職について一般社員に情報提供をしていることが多いという。
「管理職の実態について、部下から見える以上の情報を与えることが重要。研修の一環として『管理職体験』をさせるなど、昇進した後の景色を伝えるという試みは、さまざまな企業が取り組んでいます」(白河さん)
育児中の女性には、管理職の責任がさらに重くのしかかる。たとえ意欲はあっても責任感の強さゆえに昇進するのをためらうのも無理はないが、実際に育児と仕事の両立を妨げているものは何だろうか(Q6)。最も回答が多かったのは「緊急時に業務を引き継ぐ担当者がいない」。これは女性だけでなく男性も同様の結果だった。
白河さんは「緊急時というのは、子どものことだけではなく、すべての社員にも起こりうるが、仕事の属人化をそのまま放置している企業がいまだに多いということ」と指摘。
例えば1人で顧客対応をしていると、不祥事なども露見しにくく、「仕事の属人化は、企業のリスク対応として早急に見直さなければなりません」(白河さん)と警告する。
当然のことだが、D&Iの推進は、社員個人の働きやすさのためだけにあるのではない。多様な人材が起こすイノベーション、そして、リスクマネジメントにも大きく寄与する、ということを企業があらためて強く認識すべきなのだ。