具体的に、未来の姿を見せながら褒める
最近の若手は、褒めても改善点を指摘しても、素直に受けとらない人が増えているようです。良いところを伝えて褒めても、「機嫌をとるために言っているだけではないか。本当はそんなことを思っていないのではないか」と疑ってかかってしまう。改善点を指摘すると、「自分には力がないのだ」とショックを受けて必要以上に落ち込んでしまい、改善しようという方向に気持ちが向かない。弱点を指摘される経験が少なかったり、自分に自信がなかったりするために、なかなかうまく受け止めることができないのです。
こうした若手に限らず、部下と、評価や目標設定の面談をする場合は、相手が評価をゆがんで受け取らないように、行間を埋めながら伝えることが必要です。
まず褒める場合は、「リーダーとしてよく頑張ったな」「あの時のプレゼン資料は、いい出来だったね」だけではなく、「このプロジェクトが成功したのは、あなたがリーダーとしてみんなをまとめてくれたおかげだよ」「いいプレゼン資料を作ってくれたから、契約がスムーズに運んだよ」など、本人の行動が、仕事上のどんな成果につながったのか、しっかり伝えましょう。
さらに、過去や現在の頑張りが、どんな未来につながるかを説明すると、納得感が高まります。たとえば「あなたがA社との交渉を頑張ってくれたから、プロジェクトが成功する確率が高まったよ。プロジェクトが成功すれば、わが社とA社の社員全員が恩恵を受けるから、多くの人を笑顔にできるよ」「今回の経験は、これからあなたがチームリーダーになったときに生きて、いいチームがつくれると思うよ」など、未来の姿が見せられるといいでしょう。
「嘘くさい」と思われないようにするには
ただし普段まったく良いところを褒めたりしないのに、評価ミーティングの時だけ急に褒めたりすると、嘘くさく聞こえてしまう可能性があります。「本当は思ってもいないのに、このミーティングのためだけに無理やりいいところを探して言っているだけだろう」と受け取られてしまいます。
ですから上司は、日ごろから部下に対して「あなたを受け入れています」「あなたの敵ではない」ということをわかりやすく示す必要があります。
普段のあいさつや声がけが重要
そこで大切になるなのが、あいさつや声がけです。時々、部下がいるのに気付いていながら、部下からあいさつされるまで何も言わない上司がいます。でも、部下であろうが上司であろうが、先に気付いたらすぐにあいさつするのを当たり前にしてください。また、部下に何かを頼むときも、仏頂面でそっけなく頼むのではなく、しっかり目を見て「申し訳ないけどお願い」など丁寧に伝え、お礼もちゃんとするようにします。こうした小さな積み重ねが、上司・部下の信頼関係構築につながり、評価を伝える際にも効いてきます。
改善を促すときに抑えるべきポイント
褒め方も難しいですが、もっと難しいのは改善を促すときでしょう。ポイントは6つあります。
ポイント① 最初に結論を言う
改善を促すということは、相手の弱いところ、悪いところを指摘するわけなので、言いにくく感じて遠まわしに長々と話してしまいがちです。しかし、前置きからダラダラ話されると、聞いている側は、「結局何が言いたいのか」とイライラします。特に、タイパ(タイムパフォーマンス)を気にする若手は迷惑がります。単刀直入に、改善すべき点を指摘するようにしましょう。
ポイント② 一言前置きの枕ことばを
ポイント①では、「単刀直入に結論から話す」と言いましたが、最初に短い前置きの枕ことばを入れるとよいでしょう。「次に失敗してほしくないから、ひとこと言わせてもらうけど」などはお勧めです。
そうすれば、相手は「何か改善点を指摘されるんだな」という心の準備ができる一方で、「私のためを思って言ってくれているんだな」と、厳しい指摘であっても受け入れる気持ちになりやすくなります。
前置きは、相手のためを思って言っているのだということを、あくまでも短く伝えてください。つい前置きが長くなりがちですが、そうすると聞き手は「もういいから早く言って!」とイライラしてしまいます。
改善点を指摘する際のテクニックとして、「褒める」「厳しい指摘をする」「褒める」と、「弱み」を「強み」でサンドイッチする順番で話すと、後味よく終われるので良いとされています。しかし、この話し方は、どうしても取り繕った感が出てしまい、受け取る側は「まどろっこしい」「わざとらしい」と感じることが多いようです。万能なテクニックではないので、気を付けたほうがよいでしょう。
「改善しよう」というモチベーションをどう上げるか
ポイント③ 数字を入れるなど、できるだけ具体的に話す
単に「ここがあまり良くなかった」とだけ言われても、部下は「そんなことはないはず。こちらはちゃんとやっている」と、なかなか納得できません。足りないところを指摘するときは、できるだけ具体的に、可能な限り数字を盛り込んで表現しましょう。
たとえば「このサービスの成約率から逆算すると、アポの件数は週○件は必要だ。あなたはそこに達していないので、10件ぐらいは増やしてほしい」「あなたはいつも、提案書の作成が間に合わないので、締め切りの3日前にはドラフトを私に見せられるように進めてほしい」など、ある程度目安となる数字を入れて話すと、部下も自分の行動をどのように変えればいいのかがわかりやすいので、改善しやすくなります。
ポイント④ 「改善するとこうなる」という未来の姿を見せる
仕事に対してモチベーションがあまり高くない人は、仕事を頼むと「仕事を押しつけられた」と感じがちです。上司から指示された仕事をすることで、自分にどんなスキルが身に付き、それが将来どう生きるかが想像できず、ただ「面倒なことを押しつけられた」としか思えないのです。
目の前の仕事と、自分の未来の姿のつながりがイメージできない、想像力に欠ける部下に対して改善点を伝えるときには、「それを改善すると、自分にどのようにプラスになるのか。周りにどんな影響があるか」といった、未来の姿を見せるようにしましょう。
たとえば、「困ったことがあったら、もっと早く相談するようにしてくれると助かる。早いほうが、打ち手の選択肢が多いし、あなたもそうした選択肢をたくさん学べるのでプラスになると思う。困ったときの打ち手の選択肢をたくさん知っていれば、将来チームメンバーや後輩にそれを教えてあげることができるので、頼りになるリーダーになることができるはずだ」などです。
部下に仕事を頼むときも同様です。「○日までにA社へのプレゼン資料を作っておいて」だけでなく、加えて「業界トップのA社の契約がとれたら、同じ業界の他社への影響は大きい。きっと同業のほかの会社もわが社のサービスに関心を持つから、契約が取れやすくなり、事業をスケールアップしやすいはず」と、未来を見せてあげましょう。
さらに、「あなたはいつもお客さまが関心を持ちそうなポイントを押さえた、いい資料を作るから、あなたにお願いしているんだよ」と「なぜあなたに頼んでいるのか」という理由を伝えると、なおいいでしょう。単に「資料を作れと言われたからやる」のではなく、「私を選んで頼んでくれた」「この仕事で頑張れば、自分にも会社にもプラスになる」と思えるため、モチベーションにつながります。
「説教」にならないよう伝えるには
ポイント⑤ 部下の“言い訳”もしっかり聞く
ネガティブな指摘を受ければ、やはり「言い訳」をしたくなってしまうものです。もし、指摘を受けた側の部下が、何か言い訳をしてくるようであれば、それはしっかり受け止めましょう。内心「しょうもない言い訳だな」と思っても、さえぎらずに最後まで聞きましょう。
ここでさえぎってしまうと、「この人は私の話を聞いてくれない。どうせ何を言っても無駄だ」と思うようになり、日常の「報連相」も遅れてしまうなどの影響が出てしまいかねません。さえぎらずに最後までしっかり聞くと、「聞いてくれた感」が生まれ、安心感や上司への信頼感につながります。
ポイント⑥ 目安の時間を伝え、時間配分を意識する
優秀な上司は、面談するときはもちろんですが、ふだん相談事があるときも「ちょっといい?」などとあいまいに声をかけるのではなく、「○分ぐらいいい?」と時間の目安を伝えています。
時間のめどがわからないと、声を掛けられたほうは、話を聞きながらも、「ほかにもまだ話があるのではないか」「次の予定に間に合うだろうか」とドキドキして不安になります。あらかじめ時間の目安がわかれば、ゴールが見えるので心づもりができて、気持ちが楽になります。
さらに、あらかじめ時間配分も決めておきます。たとえば、部下に「15分ほど話をしたいんだけど」と声をかけて会議室に呼んだら、「最初の5分で改善点の指摘をして、残りの10分は部下の話を聞く」などと決めておくのです。
相手の悪いところを指摘していると、つい感情的になり、長くなってしまいます。時間配分をしておくことで、それを避けることができますし、一方的にこちらから指摘するばかりの「説教」にならずに済みます。相手の話を聞く時間もしっかり取ることができます。
真正面に座るのは避ける
部下を評価するときは、伝える内容だけでなく、伝えるときの相手との位置関係=ポジショニングも重要です。どのポジショニングで話をするかによって、話の伝わり方や感じ方は変わるからです。これは「スティンザー効果」と呼ばれています。
相手との心の距離が最も近くなるのは、隣に座ることです。ただこれは、既に相手とかなり親密になっていることが条件なので、カップルが、カウンターで横並びに座ってお酒を飲んだりする場合などはよいのですが、上司と部下の関係では適切ではありません。
避けたいのは、真正面に座ることです。これは、緊張感や不安感、警戒感が高まり、対立関係になりやすいポジショニングです。評価面談などのように、相手に何かを注意したり、悪いところを指摘して改善を促す必要があるときには、あまり適当ではありません。
評価面談はオンラインより対面で
同じ理由から、評価面談などはできればオンラインは避けたほうがいいでしょう。オンラインはパソコンの画面越しに向かい合うことになるからです。部下が離れたところにいるなどの理由で、どうしてもオンラインで面談をする必要がある場合には仕方がありませんが、対面かオンラインを選べる場合は、できるだけ対面で行ってください。
そして、ベストなポジションは、90度の位置に座ることです。隣り合わせではなく、テーブルの角を使って座るイメージです。それが難しい場合は、真正面ではなく、席を一つずらして、斜め向かいに座るといいでしょう。
このポジショニングだと、相手の顔をしっかり見ることもできますし、自然に視線を外すこともできます。警戒心がとけて、お互いにリラックスしやすくなります。
病院の診察室も、たいていそのような形になっています。医者が、机をはさんで患者さんと正面に座って診察することは、あまりないと思います。机の上のパソコン画面でカルテを見て視線を外すこともあれば、少し角度をかえて患者さんの目を見ながら話しかける場面も多いはずです。そのことで患者さんから「正面から患者の顔を見ていない」とお叱りを受けることもありますが、実はポジショニングを考え、あえてこの角度で話をしていることも多いのです。