どうすればわが子を算数が得意な子に育てられるか。教育ライターの佐藤智さんの問いにSAPIXの講師陣が答えた――。

※本稿は、佐藤智『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』(ディスカバー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

教育の概念、彼の机の上で一生懸命勉強している少年
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九九のポスターより効果的なクイズ

算数を身近に感じさせようと、九九や簡単な計算のポスターをリビングやトイレに貼る家庭は少なくありません。ポスター類は、マイナスにはなりませんし、やらないよりはやったほうがいいでしょう。

しかし、それよりも効果的なことは、子どもと数にまつわるクイズをすることです。

たとえば九九で子どもと勝負をしたり、「答えが12になる九九の掛け算は?」と逆算問題をだしてみたりしましょう。

ポスターで九九を覚えようとするよりも、お父さんお母さんに「12になるのは?」と問われて、「2×6と、3×4かな」と答えるほうが、頭を使いますし、ゲーム感覚で楽しめるよさもあります。

正解すると達成感を覚えるので、「算数は楽しい」「九九は得意!」といった思いを抱くようになります。印象的な体験になるので記憶にも残りやすくなるでしょう。

ときには意地悪をして、「47になるのは?」と質問をしてみるともっと盛り上がります。「あれ? そんな九九あったかな?」と立ち止まって考え、そこに楽しさや不思議さを覚える子がいるからです。

このような簡単な算数クイズは、お父さんお母さんも脳トレのつもりで一緒に取り組んでみてください。

案外、子どものほうが速く解答できるかもしれません。また「お父さん(お母さん)に勝った!」となれば、子どもは得意になり、算数への関心をより深めていけます。

算数が好きでも、いい点が取れるわけではない

算数は嫌いではないけれど点数が伸びない子には、「好き」という気持ちを失わせないように接することが重要です。

そのために大事なのは、「何点だったのか」にとらわれすぎないこと。たとえば、100点満点のテストで60点だった子に対して、「100点まで40点も足りないよ」といった声をかけていないでしょうか。

このような接し方をすると、子どもは「算数が好きなのに点数が取れない自分」にがっかりしてしまいます。

さらに、子どもは親から期待されていることを素早く察知します。「お父さんお母さんは『いい点を取ってくるだろう』と思っていたのに、僕は取れなかった」、と情けない気持ちになってしまうのです。

「算数が好き」と思っている子は、自分に対する期待値が高めなので、「がっかり」することが重なると、少しずつ「点数が取れないから嫌い」という気持ちが植えつけられてしまいます。せっかく好きだと思っているのですから、嫌いになることは避けたいものです。

一緒に作戦を立てる

繰り返しになりますが、「算数が好き」という気持ちを失わせないようにサポートすることが重要です。そのためには、「好きだからたくさん点数が取れるはずだ」という足かせを外してあげましょう。

具体的には60点を取った子に対して、「お! 60点だったんだね。70点になるには、どの問題を正解したらよかったのかな」「60点まで取れたんだね! 80点になるには、この問題ができるとよさそうじゃない? じゃあ、80点を目指して一緒にがんばろうか」といった言葉をかけます。

点数をジャッジするのではなく、できるようになるにはどうしたらよいか作戦を立てることが重要です。

算数ができるようになるためには、計算の練習を繰り返したり公式を覚えたりと、地道な努力が不可欠です。好きという気持ちを失わなければ、算数のために努力することができる子に育ちます。

勉強している子供の手
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小学4年生なのに九九がわかっていないと気づいたら

子どもの算数のテストをみていて、算数の基本的な部分がわかっていない可能性に気がつくことがあるでしょう。

そんなことがあったとしても、慌てる必要はありません。基礎的な部分の理解不足が発覚することは、小学生ではよくあることです。

たとえば、小学校4年生になって九九がわかっていないことが判明したら、保護者としてはどう対処していいかわからずに焦る気持ちも理解できます。「こんなこともわかっていないんだったら、算数ができるわけがない!」と子どもに対して感情的になってしまうかもしれません。

冷静になればわかると思いますが、理解できていないことを叱っても意味はありません。

必要なことは、その「わかっていないこと」がどれほど影響の大きいことなのかを確認して、必要であれば、「戻る」ことです。

たとえば九九であれば、2桁や3桁の計算にも使いますし、面積を求める問題でも必要になります。九九という基礎がなければ、ほぼすべての計算でつまずくことになってしまいます。

こうした影響の大きい分野は、学び直しをして、改めて理解できるように丁寧にサポートしましょう。

なんでもかんでも学び直せばいいわけではない

ただ、なんでもかんでも理解できていない単元に戻ればいいというわけではありません。

とくに中学受験を目前に控えていると、できない部分ばかりに目がいって、「あれも覚えていない! これもわかっていない!」と慌ててしまうものです。

過去に習ったことをすべて完璧に身につけている子どもはいません。正直にいって、「できないこと」を気にしだしたらキリがないのです。

前述したように、影響の大きい分野は学び直しが必要ではありますが、どの単元なら学び直したほうがいいのかは、保護者では判断が難しいこともあるでしょう。

以前学習したところがあまりに身になっていないと感じた場合には、小学校の先生や塾の先生に相談をしてみるのも一つの手です。プロと一緒に対策を練っていくことで、戻るべきところには戻るという決断ができます。

コンパスで勉強している子供
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不正解が怖い子は算数が伸びにくい

「算数が得意」というと、天才的なひらめきをもっている子をイメージするかもしれませんが、決してそれだけではありません。

佐藤 智『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』(ディスカバー・トゥエンティワン)
佐藤智『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』(ディスカバー・トゥエンティワン)

ゲーム感覚で楽しめる子は算数を楽しんで解けるようになる傾向があります。失敗を恐れるのではなく、「間違えたらもう1回やってみよう」と思える子は、算数が得意になることが多いのです。トライ・アンド・エラーする力を身につけている子といえるかもしれません。

一方で、「間違えたくない」と思って手が止まって動けなくなる子は、算数の問題を解き進められないケースがでてきます。「この道を歩めば絶対に頂上まで行けるよ」というルートがはっきりしないと歩き始められないタイプは、算数に苦手意識をもちやすいといえるでしょう。

また、「ゲームだ」ととらえると、算数の問題に対して「なんでこういうルールになるの?」「こんな状態、絶対に起きないじゃん」といったことに子どもが引っかかりにくくなります。

たとえば、「分数の割り算は、なんでひっくり返して掛け算するのか?」と思ったことはありませんか? この質問に対する答えをすごくシンプルにいうと、「そういう決まりだから仕方がない」ということになります。

ほかにも、「時速60キロで3時間進みました」といった文章題があるときに、「その速さで走れるわけないでしょ」「ずっと同じ速度のはずないよね」といったことに引っかかってしまうと、問題を解く手が止まってしまいます。

「こんなことあるわけないじゃん」とどこかで思っていたとしても、「ゲームだし」「こういうルールなんだな」と客観的にみられると、すんなりと取りかかることができるようになります。