子どもの国語力を伸ばすには何が必要か。教育ライターの佐藤智さんの問いに、SAPIXの講師陣が答えた――。

※本稿は、佐藤智『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』(ディスカバー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

リビングルームで本を読む子供
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語彙を増やすには

語彙を増やす方法としてよくすすめられるのが、「読書」ではないでしょうか。

自分で積極的に読書をする子は語彙が豊富になっていく傾向があるので、相関関係はあるはずです。

ただ、読書が好きだから国語が得意なのか、国語が得意だから読書が好きなのかというと、どちらともいえません。ニワトリが先かタマゴが先かといった議論になってしまいます。

大事なことは単に「読書をすればいい」のではなく、読書をするために必要な能力と国語の問題を解くために必要な能力が重なることを認識して、その重なる能力を高めるアプローチを行っていくことです。

では、読書を通して、語彙が豊かになっていくのはどういったメカニズムなのでしょう?

少しだけレベルの高い本を読んでいると、わからない言葉に遭遇するものです。子どもに「この言葉の意味を教えて」と聞かれることもあるでしょう。このとき、読書によって語彙を増やしていく子は、わからない言葉に対して「こういう意味なんだろうな」と類推しながら読み進めていきます。

そして、何回か同じわからない言葉に触れていくうちに、知識として蓄積されて、自分のものとして使える言葉になっていくのです。

読書が苦手だったり嫌いだったりする子は、この類推がうまくできません。わからない言葉を見つけたときのアプローチ法がわからないのです。

類推ができる子とできにくい子の差は、わからない言葉にどう対処したかという「経験値」にあります。「前後の文章から想像すれば意味をつかめる」という成功体験を積むことが大事なのです。一方で、わからない言葉に遭遇して、意味がわからないままに放置することを続けると、類推する力は上がりません。

すぐ辞書を引いてはいけない

「わからない言葉がでてきたら、すぐに辞書を引きなさい」と指導する人もいますが、その前に一旦想像する経験を挟むことが大切です。

想像したあとに、辞書を引いて、「あ、当たった」と答え合わせをします。一度立ち止まって考えることで、わからなかった言葉の印象が強くなり、記憶が定着しやすくなります。そして、言葉の意味を想像する経験を重ねることで、類推する力もつけていくことができるのです。

子どもに言葉の意味を聞かれた際は、すぐに教えないで言葉の意味を考えるようにうながしましょう。

4年生が2年生の本を読んでも問題ない

さらに、言葉の意味を類推できないもう一つの要因として、「わからない言葉が多すぎる」というケースがあります。一つの文章に3つ、4つと理解できない言葉がでてきてしまうと、お手上げ状態になってしまいます。

たとえば、英語の文章を読んでいるシーンを想像してみてください。文章中に一つだけ知らない単語があっても、前後の文脈で意味を想像することができます。しかし、一つの文章に知らない単語が複数あると、どんどん意味の類推が難しくなります。そうなると、読んでいてもちっとも意味がわからず、おもしろくないという状態になりますよね。

このように、「わからない単語が複数ある」場合には、「読めるレベルの文章に戻る」のも一案です。たとえば、4年生の子が2年生向けの本を読んでいても問題はありません。むしろ、わからないまま進むほうが問題ですし、無理に4年生向けの本を読もうとすれば「読書はつまらない」というイメージを植えつけてしまいかねません。

焦らなくても大丈夫。一つ一つ積み上げていきましょう。

100点満点で30点しかとれなかったらどうするか

国語の勉強だけでなく、学習全般でいえることですが、保護者の理想を押しつけるとうまくいきません。「ここまでがんばらなくちゃ」「これをやらなくてはダメ」という思考にはまってしまうと、子どもにとって「自分がやりたいこと」ではなくなり、勉強自体に気持ちが向かなくなります。

テストでいい点数が取れなくてもいいのです。最初から頭のいい子は、ほとんどいません。だから、少しでも「できること」があれば、「すごい!」とお父さんお母さんにぜひ褒めてもらいたいのです。

ポイントはスモールステップで褒めていくことです。

たとえば、100点満点のテストで30点しか取れなかった場合には、どんな声をかけていますか? また、前回のテストが45点で、今回60点だったら、何を伝えていますか?

スコアテストの悪い子供とリビングルームの両親
写真=iStock.com/takasuu
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いずれの場合も、テストの点数の結果について言及するよりも、もっと子ども自身のがんばりをみてあげるようにしましょう。

たとえば、「漢字の問題は全部できていたじゃない」「記号の選択問題が前よりもしっかり選べるようになったね」という具体的な褒め方がおすすめです。この積み重ねで、子どもは「次はもっとがんばってみよう」と思えます。

そもそも100点満点のテストで30点しか取れなかったことを責めても、子どもはできるようになりません。「自分は勉強ができないんだな」「怒られるからやりたくないな」という気持ちしか残らないのです。

叱られて育った子はあとの伸びしない

大事なことは、前向きな気持ちで、「次はこうしてみよう」と思えるようになること。責めたり叱ったりすることでは、学びへの積極性は生まれません。

もし、叱ることで勉強するようになったと感じるのであれば、「次は叱られないようにがんばろう」という消極的な気持ちからくるものです。

叱られないように勉強している場合でも、ある程度のレベルにまで達する子もいるかもしれません。しかし、学ぶことが「楽しい」という気持ちが根元にないため、のちのち伸びていくことができないでしょう。

「間違えるのが怖い」から自由記述を書かずに出す

さらに、叱られて育った子は「間違えるのが怖い」と考える特徴があります。

佐藤 智『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』(ディスカバー・トゥエンティワン)
佐藤智『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』(ディスカバー・トゥエンティワン)

このタイプの子は、自由記述問題に取り組む際に「間違えるのが嫌だから書かない」という選択をしてしまいがちです。

とくに国語では、「自分の思ったことをまず書いてみよう」「気持ちを表現してみよう」といった姿勢で、失敗を恐れずに取り組んでみることが大事なのですが、間違えるのが怖い子はこのような向き合い方ができなくなってしまいます。

怖がらずに、自分の考えを表現できる子に育てるには、その子自身をしっかりみつめながらスモールステップで褒めることが重要です。

親の理想を押しつけるのではなく、子どもの伸びをみていけるといいですね。